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フィルム施工車両を正しく検査していますか?
2023/06/29
このところ見る角度によって色相が変化する意匠性が高いフィルムをフロントガラスやフロントドアガラスに装備した車両が増えている。そうした車両が入庫した時、あなたは正しい判断ができているだろうか。
フロントガラス、フロントドアガラス(フロントの三角窓含む)のいわゆるフロント3面に対するフィルム施工について、やってはならないと考えている方がいらっしゃるのではないか。それは誤解である。
実はそうした思い込みの是正を目的としたと見られる通達が2023年1月13日、国土交通省より発せられた。「着色フィルム等が装着された自動車の取扱いに関する運輸支局等の指定自動車整備事業に対する指導(中略)に差異が確認された」として、「当該事業場(指定自動車整備事業)において可視光線透過率測定器を用いて判定する場合は、道路運送車両の保安基準第29 条第3 項に規定された要件を満たすものを用いること」ことが改めて示されたのだ。要約するとフロント3面へのフィルム施工は可視光線透過率が70%を超えていれば問題なく、可視光線透過率については、法律の基準を満たした計測機器を用いて判断せよということである。
本稿は色相変化型の高意匠性フィルム「ゴーストフィルム」を取り扱うブレインテックの宮地聖社長と、日本自動車フィルム施工協会理事であり、カーフィルム施工サービスを提供する工場ビーパックスの井上和也社長に話を聞いた。
あなたの工場は思い込みによる検査やアドバイス、入庫拒否を行っていないだろうか。今一度振り返ってほしい。
ビーパックスの井上和也社長(左)とブレインテックの宮地聖社長
■通達の内容
通達の内容は次の通りである。
指定自動車整備事業における着色フィルム等が装着された自動車の指導について
今般、窓ガラスフィルム製作者より、着色フィルム等が装着された自動車の取扱いに関する運輸支局等の指定自動車整備事業に対する指導が統一されていないとの指摘を受け、全ての運輸支局等に対し調査をしたところ、運輸支局等の指導に差異が確認された。
これまでも指定自動車整備事業において可視光線透過率測定器を用いて判定することも可能とされているが、可視光線透過率の適合性を視認により容易に判定することができない場合にあっては、下記のとおり、取扱うよう指定整備事業者に周知されたい。
なお、別添のとおり、関係団体に通知したことを申し添える。
1.当該事業場において可視光線透過率測定器を用いて判定する場合は、道路運送車両の保安基準第29条第3項に規定された要件を満たすもの※を用いること。
※<参考>独立行政法人自動車技術総合機構においては「PT-50、PT-500 (光明理化学工業製)」を使用。
2.前項の取扱いにより判定しない場合は、当該自動車については道路運送車両法第94条の5の規定が適用できないことから、運輸支局等又は軽自動車検査協会に現車を持ち込み受検すること。
■可視光線透過率の適合性を視認により容易に判定できるのか?
通達の文面には、次のようなものがある。「指定自動車整備事業において可視光線透過率測定器を用いて判定することも可能とされているが、可視光線透過率の適合性を視認により容易に判定することができない場合にあっては…」とある。
つまり、明らかに可視光線透過率がフロント3面の場合70%未満であると視認で分かる場合は、その段階で落検できると解釈できる書き方であるが、フィルムの透過性を視認で容易に判断できるだろうか。
写真は光明理化学工業が可視光線透過率測定器PT-500のデモンストレーションのため、オートサービスショーで展示していたものだ。あなたはどちらが可視光線透過率70%未満か分かるだろうか?
答えは向かって左側がブレインテックのエクリプス65で計測結果は68.1%。ちなみに右側がブレインテックのスライゴーストで計測結果は80.2%だった。スライゴーストは緑色に発色する色相変化型フィルムである。
写真でも分かる通り、どちらのガラスも背後が透けて見えており、視認で容易に判定は難しいということが、伝わったのではないか。
一部の報道では色相変化型フィルム施工のみを以って事実上落検すると報じたメディアもあり、それは拙速であるというのが筆者の立場だ。
ちなみに、判断が難しい場合は道路運送車両の保安基準29条3項に規定された条件を満たすものを用いること(光明理化学工業のPT-50、PT-500が参考機種として挙げられている)。所有していない場合は、運輸支局または軽自動車検査協会に車両を持ち込んで受験することになっている。
光明理化学工業PT-500のデモ。左側が68.1%、右側が80.2%という結果が出た。右側が色相変化型フィルムで、室内灯では特徴的な反射がほとんど見られない
■フィルム市場はブルーオーシャン
日本はフィルム施工している車両は少ない。特にフロント3面の施工は極端に少ない。ブレインテックの宮地社長によると、フロント3面の施工率は1%未満だという。一方で、日焼け防止や夏や冬場の冷暖房の効きを良くしたいカーオーナーが潜在的に多い事は定量的なデータがなくても疑いのないところだ。
それは、濃色フィルムの違法施工に対する悪印象が元になっている側面があるだろう。プロアマ問わずフロント3面のへのフィルム施工(透明なものを含む)はダメだとか、外から見えないフィルムは貼れないなどの誤解が広がった背景には、フィルム施工への忌避感から想起されている部分が少なくないだろう。それは残念なことでもある。
「フィルムは人と環境、お財布にも優しいんです。日焼けしにくくなるし、空調も効きやすくできる。だから燃費にもいい。正しく施工すれば皆が幸せになれるんです。」と井上社長と宮地社長は口を揃える。
「ただ、フィルム施工にネガティブなイメージを持たれてしまったのは違法な施工を行う同業者を諫めることができなかった我々業界側にも原因があります。今後は日本自動車フィルム施工協会の活動などを通じ、正しいフィルム施工を啓蒙していくしかないと考えています。」と、井上社長は付け加えた。
今後、減少が見込まれる整備需要のなかでフィルム施工は手付かずの市場となっている。死蔵させるにはあまりにもったいない話ではないか。法律を遵守した商売が否定される状態が続けば、カーアフターマーケットでビジネスを始めようとする企業が減ってしまう。それはカーオーナーにも、カーアフターマーケット事業者にもマイナスだ。そのためには常に正しい施工知識と、正しい検査判断が求められている。
井上社長が経営するビーパックスでは、PT-500で施工後の透過率まで確認して納車している
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