JOURNAL 最新ニュース
鈑金塗装業におけるDXの成功例
【BSRweb独自連載】洗車で始める顧客獲得 第8話
2022/10/15
はじめから読む
前回は洗車のニーズ、車の進化について触れつつ、車屋さんがDXを推進するにはどんなことから始めれば良いのかをお話ししました。今回は長野県にある車体整備工場・Y´s ボディー(https://ys-body.com/)の小林洋平代表との対談を通じ、工場のDX戦略について考えていきます。
小林代表は、車の修理に加えてブログやオンラインサロンの運営、ホームページ製作代行、物販など様々なビジネスを手がけています。ほとんどの業務を1人でこなしていることから、効率化を図るためにクラウドシステムや機械工具などをフル活用しています。また、多忙を極める中でも工場内の清掃と整理整頓は徹底し、物を探す時間を極力無くしているそうです。
Y´sボディー Webサイトのトップ画面
小林代表は Web集客にも早くから取り組み、多くの問い合わせ・成約につなげています。Webサイトやブログに関するノウハウは独学で身に付け、今も更新作業はご自身で行っているそうです。Web サイト製作はプロに依頼するのが一般的だと思いますが、小林代表は「あえて外注せず自分でやることで、選ばれるためにはどんな情報が必要なのか深く理解できた」と言います。
車屋さんにおけるWeb集客の目的は、お客様から直接お仕事をいただくことにあります。単におしゃれなデザインにすれば良いのではなく、お客様が何を求めているのかを考え、それを満たす情報を発信するのが重要です。これは前回お話した洗車における購買行動を理解することの重要性と同様です。
また、洗車ビジネスにも同じことが言えますが、鈑金塗装は基本的に労働集約型産業です。小林代表は「個人事業主や零細工場が真っ向から勝負を仕掛けるには限界がある」との考えから、売り上げ最大化を図るためにWeb の力は欠かせないと強調します。「重要なのはマーケティング目線。戦略をしっかり立て、売れる仕組みを作っておけばチャンスはある」と語ります。
小林代表はSNSでの情報発信にも力を入れています。特にYouTubeでは、入庫した車の修理工程や一押しの製品紹介など、有益な情報を惜しみなく披露されています。
SNS は集客と言うより同じ技術者に向けた情報提供という意味合いが強いそうですが、これがきっかけで今では弊社のようなメーカーや商社とつながる機会が増え、中には新製品のテスト使用を依頼したり、製品開発に向けたアドバイスを求めるメーカーもあるようです。元々は「良いものをみんなで共有したい」という純粋な思いから始めたからこそ、信頼のおける情報として業界内で注目されるようになったのだと思います。
前回、動画のトレンドはショート動画にあるとお話ししましたが、鈑金塗装はいくつもの工程を経てできあがるため、動画にすると長くなりがち。よほど気が長い人でもない限り、最後まで視聴してもらうのは難しいでしょう。
Y´sボディーの YouTubeチャンネルには、修理工程を通しで見せる動画もあれば、各工程を切り取って紹介している動画もあります。洗車に関しては60秒以内で見終わるショート動画も投稿されています。尺が短い動画は、テレビ番組にたとえるとCMのようなものだと言えます。尺の短い動画で視聴者の関心を引きつけ、尺が長い動画へと誘導できれば、視聴回数アップやファンの獲得などにつながっていくでしょう。
Y´s ボディーの公式YouTubeチャンネルには、再生回数が数万回に達する動画もある
小林代表が洗車をメニュー化して提供する場合、(1)女性スタッフを中心とした運営、(2)次回以降の来店につながる仕組み作りの2点を意識するそうです。電話応対、受付のみならず洗車作業も女性スタッフが担うことで、来店へのハードルを下げるのが狙いです。また、Web予約システムにはメニューごとの違いを分かりやすく説明した料金表を付ける、「早期予約で車検がお得!」、「車のキズ・ヘコミ修理見積り無料」といった宣伝を添える、などもポイントになるそうです。
さらに「写真映えする洗車専用ルームを作る。自社の洗車風景をSNSに投稿すれば割引、というのも良いと思う」といったアイデアも教えていただきました。
洗車風景も人気のある動画の1つ。SNS投稿割引によって、宣伝効果を狙う
1人で受付から見積り作成、現場作業などをこなしつつ、ブログ更新や動画編集などにも手を抜かない小林代表は、私から見ればまるでスーパーマンです。しかし、独立までに至る過程や独立後の苦悩などを聞いていると、小林代表も始めから1人で何でもできたのではなく、失敗と改善を繰り返してきたからこそ、今の姿があることを実感しました。
今回の対談を通して印象に残ったのは「変わらないままでは取り残される」、「今苦しいと思うことは、将来的にはもっと苦しくなる」と危機感を示しつつ、「技術者たちは稼ぐことに対してもっと貪欲になるべきだ」と強調していたことです。あくまでビジネスである以上、利益追求は忘れてはなりません。それにはお客様と接点を増やすのが重要であり、洗車はその接点の一つになり得ます。
実際に洗車をメニュー化してお客様に訴求していくと、洗車自体の効率化も必要になってきます。そこで次回は、より楽に、きれいに洗車するために欠かせないことについてお話しします。
著者プロフィール
平井新一(ひらいしんいち)
株式会社本荘興産 代表取締役社長
岡山県倉敷市出身 1974年生まれ
大阪の音楽系専門学校を卒業後、北海道の美装専門店での現場修行を経て1999年に同社へ入社。営業担当として全国を飛び回る傍ら、国産カーメーカーの純正ボデーコーティングの企画・開発にも関わる。2014年より現職。
近年は洗車ビジネスに関するセミナー講師やクライアント企業のブランディング・PRのサポートなどにも取り組んでいる。
ログインして コメントを書き込む
投稿する