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    団体交渉の争点 今、工数(指数)について疑義を唱えることは最善か

    • #トピックス

    2024/11/20


     日本自動車車体整備協同組合連合会連が大手損害保険会社と団体交渉を行うと記者発表を行ったのが5月23日。およそ半年が経過したが、今のところ目立った報告はない。交渉事である以上、内容報告は日車協連と損害保険会社の両者が合意しなければならないことは容易に想像がつくため、公表が難しいという事情もあるだろう。だが、全く音沙汰なしというのは気になる。日車協連・損害保険会社の両者には引き続き頑張っていただきたい。
     
     近頃、車体整備事業者から工賃単価の値上げに成功したという報告を聞くことが目に見えて増えてきた。団体交渉を行っていることそのものが、車体整備事業者に価格交渉力を持たせたと考えられる。自社の値段を主体的に決めていけるようなったのであれば、それは喜ばしいことだ。
     
     一方、日車協連は2024年年始に独自工数の作成に着手することを発表し、その調査を進めていることは既報の通りだ。そこに気になる動きがあった。8月末に国土交通省は、概算予算請求に自動車整備業の人材確保・育成の推進関連予算として、修理工賃の実態調査を新たに掲げた。推定予算額は3,400万円(前年度の1億9,300万円から今年度の2億2,700万円に増額された金額)。予算は財務省が現在審議中で年内に結果が出るものと考えられる。

     予算が通過するにせよ、しないにせよ、国交省が問題意識を持って料金問題に取り組んで頂けることについては歓迎すべきだ。だが、「事故車修理における標準作業時間の実態調査」は主に自研センターの指数を意識したものと見られるが、団体交渉に悪い影響が出はしまいか、憂慮している。

     冒頭でも触れた通り、日車協連と大手損害保険会社4社は団体交渉を行っている。こちらは、今のところ日車協連が発表している当初の交渉内容から変化がないとすれば、工賃単価の見直しについて話をしている。今回の概算予算請求によって損害保険会社は工賃単価と工数両方が見直される可能性を考えて交渉しなければならなくなっている。たとえ、工数問題が団体交渉に盛り込まれていなかったとしても、国が加わった調査結果を無視することは難しいからだ。

     自研センターが発表している指数に疑問があることは、筆者だけでなく業界全体で広く知られていることだ。近年のもので言えばカラークリヤー塗装の数値が少ないのではないか。赤系を前提としているとあるが、どの赤なのか、ベースコートとクリヤー層の彩度や明度の差はどの程度を標準としたのか。複数年にわたる高減衰マスチックシーラーの指数未反映など、気になる部分がないわけではない。しかし、工賃単価の交渉に損害保険会社が落としどころを見つけられるよう、時期を待っても良かったのではないか。ブルーワーカーの確保が産業全体で難しいと言われるなか、我が国の交通インフラを支える自動車整備士や車体整備士の確保が喫緊の課題であることに異論はない。

     だが、そのために工賃単価の交渉が硬直的になっては元も子もあるまい。筆者は損害保険会社の味方をしたいわけではない。だが、損害保険会社の立場で考えれば決断が難しくなるというのは、無理もないのではないか。
     交渉が進まず、仮に国交省が斡旋調停を行うようなことになれば、損害保険会社が団体交渉に誠実に応じなかったかのような雰囲気になりかねない。それは、損害保険会社にとって酷ではないか。このことは損害保険会社が自分で口にできない。誰かが彼らの立場を伝える必要がある。

     そうしたことから、国交省の概算予算請求が確定する前に、損害保険会社が置かれた立場の難しさを予め記しておくことにした。尚、日車協連が現在行っている工数調査は、団体交渉が開始さるより前から計画されていたことであり、同会に交渉を混乱をさせる意図がないことを言い添えておく。

     以上のことから、筆者の個人的な見立てとして、“今は”工数(指数)について疑義を唱えることは最善ではないと思料するが、皆さんの見解はいかがだろうか。
    [U]

    令和7年度国土交通省予算概算要求概要より 今回の記事では触れなかったが、自動車整備工場に対する監査体制の強化も計画されている。予算が通過すれば2年連続の強化。

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