JOURNAL 最新ニュース
【人とくるまのテクノロジー展2024横浜】スズキ・フロンクスのホワイトボディ:バレーノと多くの骨格を共用しつつSUVらしいデザインを構築
ヘンケル製の構造用接着剤と発泡充填剤を使用し軽量化と操縦安定性・乗り心地の改善を両立
2024/07/23
2024年5月22~24日にパシフィコ横浜で開催された自動車技術の展示会「人とくるまのテクノロジー展2024 YOKOHAMA」(主催:自動車技術会)では、自動車技術会構造形成技術部門委員会による「ホワイトボディ展示」が今回も実施された。
2023年4月にインド市場より投入開始され、中南米、中近東、アフリカなどへ順次展開。日本国内では2024年秋頃発売を予定している、スズキの小型クロスオーバーSUV・フロンクスのボディ構造について、スズキ四輪車体設計部アッパーボディー設計課の中村勇人主幹に聞いた。
スズキ・フロンクスのホワイトボディと中村勇人主幹(右)、同課の境祥吾氏(左)
--ボディの多くを他車種と共通化しているとのことだが、具体的な車種名は。
中村 2代目バレーノと共通化している。プラットフォームではアンダーフロアまわり、アッパーボディではフロントピラーやセンターピラー、ルーフサイドメンバー、ルーフパネルが共通だ。
一方、SUVらしいダイナミックなデザインとすべく、ボディ側面のアウターパネルやエンジンフード、フロントフェンダーの意匠を大幅に変えている。
--フロンクスの最低地上高はバレーノと共通か。
中村 変わらない。フロンクスの最大の開発テーマとしては、バレーノと全く異なるクルマにしながら、とにかく安く作ることがあった。そのために、骨格などを共通にして、衝突安全性能も共通化することで開発工数を短縮している。その結果としてコストを低減できた分だけ車両価格を低く抑えている。
--インドはバレーノのように一般的なハッチバック車でも、フロンクスと同等の最低地上高を確保しなければならないような道路環境か。
中村 バレーノもインドの道路事情に合わせて最低地上高を高く取っているので、その骨格をSUVにも転用できた。なお、フロンクスではSUVらしく見せるため、エンジンフードをかさ上げしている。そのために、ラジエーターサポートをバレーノと共用しつつ、上部にブラケットを追加し、バルクヘッド側にもカウルサポートを追加した。
バレーノに対しブラケットが追加されたラジエーターサポート上部。写真右奥は追加されたカウルサポート
--構造用接着剤や発泡充填剤はヘンケル社のものか。スズキ車には近年積極的に採用されている印象を受けるが…。
中村 その通り。基本的にはコストの相見積もりのほか、技術的なレビューからも判断して、最終的に決定している。
--ガソリンタンクとCNG(圧縮天然ガス)タンクの双方を搭載しバイフューエル化することで、ボディの構造に影響を受けることはあるか。
中村 アッパーボディでは特にないが、両方のタンクを搭載するスペースを用意しなければならず、室内容積などの商品性を犠牲にしている面はある。その犠牲をなるべく減らせるよう、意識して設計している。
フロンクスと2代目バレーノとの共通化部位(左上)、発泡充填剤使用部位(右上)、構造用接着剤使用部位(左下)、CNGタンク搭載部位(右下)
--このフロンクスではCNGタンクを荷室に搭載している。
中村 本来は床下に搭載したかったが、あのサイズと重量のタンクを吊り下げて搭載するには、フロアに相応の強度・剛性が必要で、フロアを再設計しなければならなくなる。その折り合いが付かず、泣く泣く荷室に搭載したが、その背反として荷室容積を減らしている。またその固定にあたっては後付けの補強バーで対応している。
荷室にCNGタンクを搭載するリヤまわり
--フロンクスはインド生産とのことだが、インドで生産することにより、日本で生産する車種に対し、使用できる材料・工法に制約を受けているか。
中村 最も大きいのは高張力鋼板のグレード。インドでもここ数年で980MPa級までは現地調達して作れるようになったが、日本ではそれよりも高い引っ張り強度のものを使うことができる。フロンクスではフロントピラーインナーとダッシュサイドインナー(フロントピラー下部)に980MPa級を使用している。
その980MPa級を超える高張力鋼板も、日本から輸出して使うことはできなくもないが、このクルマでは、インドで完全に現地調達したものを使って生産することも、開発テーマの一つだったので、そういった制限の中で設計した。
--日本を含めた先進国へ輸出するにあたり変更が必要な箇所は。
中村 各国特有の法規にはもちろん対応する必要があるものの、骨格に関してはあらかじめ世界各国の法規を見据えて設計している。各国の自動車アセスメントで、そのままでは五つ星を獲得するのが難しい場合は、骨格を変更しない範囲内で対策することもある。
--その他の軽量化策は。
中村 このクルマに限らず、稜線をスムーズに通し、荷重伝達を良くすることで、補強部材を減らし、板厚を下げることは、意識を高くして作っている。
(文・写真=遠藤正賢 図=スズキ)
骨格の基本設計を共用しつつエンジンフードとフェンダーをかさ上げすることでSUVらしいデザインを構築したフロントまわり
ログインして コメントを書き込む
投稿する