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物流業界の人手不足を緩和するミシュラン・タイヤケア&クイックスキャン、RFID内蔵タイヤとは?【ジャパントラックショー2022:日本ミシュランタイヤ】
トラック用タイヤ保守管理のDXを提案。RFID内蔵タイヤを2024年に全面展開する方針を発表
2022/05/23
2022年5月12~14日にパシフィコ横浜で開催されたトラック・輸送業界の展示会「ジャパントラックショー2022」で、日本ミシュランタイヤはメディアを対象としたセミナーを開催。同社が提案するトラック用タイヤのDX(デジタルトランスフォーメーション)について解説した。
(左より)日本ミシュランタイヤの田中禎浩常務執行役員、須藤元社長、村田製作所の福原将彦シニアマネージャー
須藤社長は冒頭の挨拶で、タイヤ点検の省力化を図るデジタルソリューション「ミシュラン・タイヤケア」、大型トラック向けレスキューサービスのデジタルアプリケーション「MRN GO」、タイヤの個体管理を可能にする「RFID」内蔵タイヤを装着した大型トラック、数秒でタイヤの残溝点検ができる「ミシュラン・クイックスキャン」など、ジャパントラックショー2022における日本ミシュランタイヤブースの出品内容を紹介。
「ミシュランは人手不足・高齢化・2024年問題(働き方改革関連法によって、2024年4月以降、自動車運転業務の年間時間外労働が上限960時間に制限されることに伴い発生する諸問題)が深刻な物流業界への展開を加速していく」と強調したうえで、「ミシュランは2024年にはタイヤの個体管理を実現するために、あらゆるタイヤにRFIDを搭載する」方針を明らかにした。
続いて、B2B事業部の田中禎浩常務執行役員は「タイヤDX化による持続可能な物流業界」と題し、物流業界の課題と解決策を説明した。
昨今のEC需要の成長により、物流の需要が増加しているのに加え、ラストワンマイル配送や当日・翌日配送、時間指定など、高い宅配品質・サービスを求められている。また、個人消費ニーズの多様化によって多品種小ロット輸送に転じており、積載効率は40%を切っている。
その一方で、物流の担い手不足が物流の維持そのものを脅かす深刻な課題となっているのに加え、2024年にはトラックドライバーに対しても時間外労働の上限規制が罰則付きで適用されるようになる。これはドライバーの労働環境改善には必要であるものの、物流の供給をさらに制約し、物流サービスの提供を困難にする危険性をはらんでいる。
また、気候変動対策として日本政府は、2050年のカーボンニュートラル実現を目標に掲げており、2030年には日本全体で2013年度比46%、運輸部門単独で同35%の削減を目指しているが、「この過程でも貨物輸送が大きな制約を受ける可能性がある」と田中常務は指摘。物流コスト上昇や物流供給力低下のリスク要因になりうることを示唆した。そして、2030年には物流の供給能力が全需要に対し36%、2040年には54%不足するとの予測データを紹介している。
物流の需給バランスと主な課題
このように、物流業界の人手不足が深刻化する中、ミシュランはタイヤ点検整備のDXによる省力化を提案。
「ミシュラン・タイヤケア」では通信型のデプスゲージを用いることで、点検結果を点検票へ手作業で記載する必要がなくなるため、時間短縮と点検精度向上を図ることができる。さらに分析結果レポートの自動作成機能によって、メンテナンスが必要となるタイミングやその種類が高い精度で把握できるため、トラックの稼働時間最大化とより計画的な運行スケジュール作成が可能になる。その結果、「点検作業時間は約25%削減でき、データ入力・分析の時間はほぼゼロになるため、全体で約50%削減できる」(田中常務)としている。
今回のトラックショーが日本初公開となる「ミシュラン・クイックスキャン」は、屋内・屋外を問わず約4時間で設置でき、磁気スキャナーでタイヤの残溝を自動的に測定。タイヤに内蔵されたRFIDから個体番号を認識し、車両・タイヤごとの残溝をクラウド上で管理し分析することを可能とする。
これを「ミシュラン・タイヤケア」と連動させ、タイヤの点検作業を完全に自動化することで、「点検頻度が人によるタイヤ典型よりも大幅に高まることによって安全性はさらに向上し、タイヤの予測可能なメンテナンスがさらにその精度を高める」と田中常務は提案している。
ミシュラン・タイヤケアおよびクイックスキャンの導入前後のトラック用タイヤ保守管理作業所要時間イメージ
そして、村田製作所と共同開発したRFIDは、製造から廃棄までのライフサイクルを通じて個体管理を可能とする。「タイヤは通信特性を変化させるゴム材や、スチール・ベルトといった通信を阻害する金属材料で構成されているが、村田製作所の高い技術とノウハウが、モジュールの小型化に加えて高い堅牢性と通信性能を兼ね備えることで、RFIDのタイヤ内蔵を可能にした」と、実用化の意義を強調した。
最後に、田中常務と、村田製作所の福原将彦シニアマネージャーとでトークセッション。タイヤ用RFIDを共同開発した経緯を披露した。
8年ほど前に村田製作所が展示会でRFIDを紹介したところ、電子部品を小型・堅牢化できる「マジックストラップ」という技術にミシュランの技術者が着目し、タイヤ用RFIDの共同開発がスタート。
タイヤのライフサイクルを通じて走行中の負荷によって壊れることがないよう、螺旋のバネのアンテナ部分にRFIDを埋め込めるよう小型化しつつ、高い通信性能を備え、かつ全面展開を前提として数百万個レベルの量産を可能とするなど、「要求性能は非常に野心的だった」(福原シニアマネージャー)ことを明かしている。
ミシュランと村田製作所が共同開発したタイヤ内蔵RFID
報道陣との質疑応答における一問一答は以下の通り。
Q:通信が難しいもの、周波数など免許の要件などは。
福原シニアマネージャー:
「マジックストラップ」モジュールの中に、金属など阻害するものに対し電気特性が良くなるものを入れている。各国で使える周波数が決まっていて免許が必要。日本は850~900MHz帯。
Q:RFIDはジャンルを問わず全てのタイヤに入れるのか。リサイクルは可能か。
須藤社長:
商用車・乗用車・航空機・建機用を問わずあらゆるタイヤに入れる。リサイクルして原材料に戻し、ゴムとして使う。RFIDはメタルとして再利用と思われる。
福原シニアマネージャー:RFIDタグのリサイクルは把握していない。リユースは技術的に難しい。
Q:シミュレーション技術について。データの利活用は。
須藤社長:
シミュレーション技術開発はかなり以前から進めていた。タイヤはいろんな過酷な条件で使われている。シミュレーション技術開発はタイヤ領域に限らず自動車全体で進んでいる。検証が非常に早くなった。ドライビングプレジャーの科学的検証、レースのシミュレーションも同様。
田中常務:
物流業界はDXが遅れているが効率向上のため業界を上げて取り組んでいく方針。タイヤメーカーとしてこうしたデバイスを使って省力化を推進していく中でリテラシーは向上していくだろう。
須藤社長:
今まで難しかったものが簡単になり、見えなかったものが見えるようになる。ガラケーからスマホになって多機能になったのに使いやすいのと同じ。
Q:タイヤケアとクイックスキャンの販売について。
田中常務:
タイヤケアは今年9月より販売したい。クイックスキャンはフランス、イギリスで導入事例あるが日本にもできるだけ早く導入したい。タイヤ本体を含めたサブスクのビジネスモデルになると思う。
Q:今回のRFID自体にはどのようなデータを格納できるのか。
福原シニアマネージャー:
96ビットのデータを格納できる。情報をどんどん付与していくような使い方よりは、固有IDをタイヤに持たせ、他のデータはサーバー側で管理する設計になっている。何キロビットかのメモリーを搭載し、その中に情報を入れるような使い方をすることは、技術的には可能。
Q:ミシュラン・タイヤケアとクイックスキャン、RFIDを、乗用車用タイヤに関しどのように展開する計画か。
須藤社長:
RFIDは乗用車用タイヤにも例外なく入れていくが、使用目的は変わってくる。カーメーカーにとってはトレーサビリティ、どのような材料が使われているかのデータが取れ、リコールが発生した際もピンポイントでお客様にご連絡できる。
リプレイス用タイヤに関しても、それが本当に正規品なのか……海外では偽物のミシュランタイヤがあるので、安心だと思ったのに危険だったということを避けたい。また、どういう流通ルートを使えばCO2を削減できるかの検証にも、使い終わったタイヤがどういう経歴を経て今の状態になったのかを製品開発に役立てることもできる。製造時に使った材料が分かるので、リサイクルの際により材料を使い分けて活用できるかもしれない。
クイックスキャンは、乗用車向けにも非常にニーズはあると思っている。例えばカーディーラーもメカニックの人手が不足しているが、タイヤの交換時期が自動的に把握できるので、お客様へのご提案を省力化しながらできるようになる。
また、将来的に自動運転技術が普及した際、安全だからこそ自動運転に任せられるということで、路面に唯一接地しているタイヤをRFIDで管理しリモートもしくは自動で診断するのは、今後必要になってくると考えている。
Q:ミシュラン・タイヤケアとクイックスキャン、RFIDを導入することで、タイヤの売り方も変わってくるのではないか。具体的には、売り切り型からサブスクリプション、新品を貸して使い終わったら回収するビジネスモデルに移行するのでは。
田中常務:
ここからお客様の認識も、ビジネスモデルも多様化していくと考えている。運輸会社でも、色々なものを運んでいる会社もあれば、地域限定、あるいは広域を対象としていたり、それぞれタイヤに対するニーズが異なる。売り切りにせよサブスクにせよ、より多様化したビジネスモデルを展開したい。
須藤社長:
タイヤを所有することが目的になっているかといえば、そうではないはず。ただし個人、クラシックカーやスポーツカーのユーザーはこのタイヤを所有したいというニーズがありますが、BtoBの場合はプロユースなので、それに対する最適解ができてくると考えている。
Q:今回の技術を、有償無償を問わず、他のタイヤメーカーに供与する考えはあるか。
須藤社長:
「Why not?」だと思う。特にRFIDは、共同開発ではあるがミシュラン限定仕様という制約はない。サステナビリティに貢献するツールだと考えているので、是非他社にも活用していただきたい。システムに関しても、各社色々なアプローチで開発していると思うが、最終的にはいかに社会、ユーザーの利便になるかなので、私たちも他社さんに良いものがあればぜひお借りしたいと考えるかもしれない。
Q:今回の取り組みがタイヤのライフサイクルを管理するうえでの技術的スタンダードになるのでは。
須藤社長:
そうなれるようにしたい。私たちはできれば業界内でもこうした取り組みで先行できる立場で頑張りたいと思っている。そうすれば、競争領域ではなく協調領域でのパートナーが増えると思うので、競合他社からも「これはいいね」と言ってもらえるような提案ができるようにしていきたい。
(文・写真=遠藤正賢/図=日本ミシュランタイヤ)
ミシュランが描く「タイヤDX化による持続可能な物流業界」のイメージ図
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