JOURNAL 

BSR誌面連動企画『磨きの匠』 FILE#1 ケヰテック・金子幸嗣

研磨作業とは「今ある傷を次の工程の傷に置き換える行為の連続」である

  • #インタビュー

2025/03/03

PROFILE

金子幸嗣(かねこ・こうじ)


経験年数  40年以上

主な経歴  大学在学中に磨き・ディテーリングを経験し、1988年にケヰテックを設立。オリジナルの磨き関連製品の製造・販売をしながら、全国各地で講習会を開催する。また磨きに関する多数の特許を取得。

座右の銘   「売れる製品ではなく、良い製品を作る」

――速くきれいに磨くための秘訣は?

 一番は磨かないこと。しかし、鈑金塗装作業では補修塗装後にゴミやブツなどを取り除くのに付けた傷を磨き消す必要があるため、磨かざるを得ない。なので、磨くことを前提にした時、速くきれいに磨くためには磨く面積を小さくするのが一番の近道となる。
 また、人の緊張感は意外と長く続かず、磨く面積が広くなり長時間磨き続けていると、磨き残しなどでうまく傷が置き換わらないことがままある。こうした緊張感の持続の観点からも、磨く面積は極力小さいほうが望ましい。

――磨き作業で最も重要だと考えるポイントは何か?

 狙った場所にしっかりとバフを押し当てて磨く。よく磨いている格好は良くても、ただ塗面をなでているだけの人を見かける。そのような磨き方だと、1工程目がしっかり磨けていないために傷が置き換わらず、さらに2工程目の磨き方も甘いために前工程で付けた傷が消えずにオーロラマークが発生し、結果、磨き直しを余儀なくされる。
 まずもって、研磨作業とは「今ある傷を次の工程の傷に置き換える行為の連続」であることを正しく理解する。その上で、それを実現するためにコンパウンド、バフ、ポリッシャーそれぞれの能力を最大限に発揮できる磨き方が理想だと言える。

――使用するツール・材料でこだわっているポイントは?

 塗面を磨くのはコンパウンドとバフの役目で、それらを回しているのがポリッシャー。そして、ポリッシャーの研磨力はトルク力に比例する。つまり、トルク力が強いほど磨ける能力が高いことを意味し、ポリッシャーを扱う上で重要なファクターとなる。
 しかし、いくらトルク力が優れていてもそれを正しく塗面に伝えられなければ意味がない。そのため、パッドに改良を加えるなどの工夫を凝らし、正しくトルク力=研磨力を伝える能力がポリッシャーには求められる。

――若手技術者にメッセージを

 何事も人から教わったことだけを鵜呑みにせず、その真偽を疑い、自分の目で、手で、感覚で得た情報を信じてもらいたい。自ら考えて得た知識や技術は、必ずや一生の宝物になるはず。

【作業実演】

補修用日産スクラッチシールドに対する磨き作業

補修用の日産スクラッチシールドを塗布したボンネットを用意し、P800の傷を3工程で研磨する。また、2工程目をウールバフに変更したパターンと磨き比べることで、なぜ自己修復型クリヤーの磨き傷が残る問題について解説を加える。