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BSRweb昼まで座談会
「車体整備業界が担保する安全と人材~若者にとって魅力ある整備業界とは~」
2022/09/06
先進安全技術の進化と普及、特定整備認証制度の施行から原材料の高騰にいたるまで、車体整備業界を取り巻く環境はダイナミックに変化し続けています。
今、まさに車体整備業界は過渡期の真っただ中にあります。
それははからずもカーオーナーの安心・安全を担保する自動車修理・整備事業者の情報、知識、技術、設備基準の明確化と認証取得という「喫緊の課題(モノ)」と技術者雇用維持と未来のエンジニア育成という「積年の課題(ヒト)」を白日の下に晒すこととなりましたが、車体整備業界が日の目を見る契機ともなりました。
しかしながら、安心安全な自動車社会実現という国民の負託に応えるためには、上記モノ、カネの課題の前に、「人材の課題」という視点抜きに解決することはありません。
日本自動車車体整備協同組合連合会で、業界の将来を考えるビジョンプロジェクト委員でもある車体整備事業者様をはじめ、自動車業界識者にお集まりいただき、「車体整備業界が担保する安全と人材」と題し、座談会を開催しました。
テクニカルオート(北海道札幌市)
平塚社長
URL https://technical-auto.com/
瀬戸内自動車(愛媛県松山市)
菅社長
URL http://setouchi-car.com/
オートボディキー(山梨県富士吉田市)
市川社長
URL http://www.autobodykiy.co.jp/sp/
ミスタートンカチ
中村社長(奈良県奈良市)
URL http://www.mr-tonkachi.jp/pc/
ジャイアントリープ(岡山県岡山市)※笠原氏
URL http://www.giantleap-intl.com/
プロトコーポレーション
高木執行役員
URL https://www.proto-g.co.jp/
司会進行プロトリオス 石本貴幹
※会社概要 http://www.giantleap-intl.com/
日本国内で培った30年に渡る教育施設としての経験を持つ工業系専門学校のノウハウを、東南アジアそして世界の若者の職能訓練に活かすことを目的に立ち上がりました。教育指導、学生指導、生活指導、教育機関として持つべき全てのエッセンスを、我々のパートナーを通じ、現地の若者に高度な日本式の教育過程として提供
中村
車体整備業界における人材に関して、我々が把握できているのは有資格者数のみで、現場で働く従業員の下図や年齢層などはよく分かっていないのが実情であり、問題でもあると思います。
笠原
これからの業界を担う若い人材についてですが、全国の自動車整備学校の生徒の半数程度が外国人留学生になっており、出身国も様々で我々の対応も非常に難しくなっています。企業への就職後も、宗教観の違いやビザの問題などで職場とマッチングせずに辞めてしまうなど離職率が高くなっているのが現状です。また、ベトナムなどの海外では車体整備の技術を習得したいという若者は多くいるのですが、受け入れ体制の問題などで留学先として日本を選ばないという動きも出てきています。
――日本人の学生についてはどのような状況でしょうか
笠原
整備学校全体の1~2割程度ですが、大学などを卒業して一度は就職し、改めて整備学校に入学する若者が増えています。これは、大卒の無資格で入社したものの雇用側とのギャップを感じ、整備学校に入り直して資格を取得するためだと思われます。その他は高卒の学生になるのですが、昔のように工業科卒ではなく、普通科からの入学が主流となっています。
日本の高校生は今後も数が減り、進路として自動車整備の大学・専門学校を選ぶ学生はますます減少することが予想されているため、生徒獲得の対象を日本人から留学生へシフトしている整備学校が増えているのではないかと感じています。また、車体整備の拡充を図ろうとする事業者においては、地方から留学生の技術者を引き抜くというケースも増えているようです。
高木
現在の中古車販売業者は、車両販売のみならず整備、鈑金塗装とサービス拡大の傾向にあり、技術者を確保するための引き抜きが発生しています。カーディーラーやライバル店などから引き抜こうとする動きも活発になっており、整備士や車体整備士の価値(給与)が上がっています。
中古車のオークション会場などでは鑑定士による車両のチェックが当たり前となり、そのための鑑定士に対するニーズ、価値(給与)も上がりました。同じように、今後は整備士や車体整備士の価値(給与)も上がるのではないか、上げていかなければ人材を確保できなのではないかと思います。
また、新しい流れとして整備士や車体整備士を確保するために、資格を持たない普通の高卒の学生を採用し、職場で教育して資格を取得させるようになっている。特に大手の中古車販売店ではこの手法がスタンダードになりつつある。
笠原
普通の高校生を採用する手法は5年程前から確認しています。最近は採用した高校生の教育を専門学校に投げるという動きも出ています。ただ、近くその潮目が変わるものと見ています。恐らく無資格の高校生を採用する動きは近く止まるのではないでしょうか。
現場は整備士の平均年齢が50歳を超えていますので、若い人が欲しい。そこで無資格の高校生を採用しても、従業員の数に対して一定の割合で有資格者が必要になり、無制限に増やしていくことはできない。加えて給与の問題があります。技能実習生などは整備士3級相当として最低賃金に近い金額で採用されています。無資格とはいえ日本人はその待遇では応募して来ない。
市川
笠原先生の話は勉強になる。
笠原
無資格を採用しているのであれば、毎年3級のガソリン・ディーゼル・車体のいずれかが行われなければならない。ところが、各整備振興会で毎年講習を行っていない。つまり、各事業所で採用は行っているが資格を採らせていない、これが現状だと思われます。
そこで、技能実習生の採用に移行せざるを得なかったというのが実態ではないでしょうか。
加えて自動車免許の問題もあります。現行の普通自動車第一種運転免許ではトラックに乗れず引き取り納車ができない。
つまり、現場にいるだけの無資格者が2級整備士になるためには、週に2回5年間講習に通わせることになります。最近は無資格で採用し、専門学校に通わせる流れになっているところもある。
中村
やはり、人材を確保し必要な資格を取るために学校に行く時点で企業から補助が出る仕組みは必要だと感じます。外国人技能実習生には資格を取得するために国から補助はあるが、日本の学生のためにお金を使う方向になかなかなっていない。
待遇改善が進まない業界であるにも関わらず、必要な資格を取ることに補助がない。
菅
ここまで厳しい状況になると経営者は自社を防衛するために残存者利益以外の魅力がなくなってしまう。
外国人の採用を自社で2000年頃から積極的に進めてきたが、日本はもう人気がない。台湾や韓国は10年間雇用が守られるが、日本は期間が短い。
笠原
最近では補助金が充実しているオーストラリアが人気です。
技能実習生は渡航するにあたって60~70万円費用をかけています。
菅
当社はジェネレーションギャップなどの問題で外国人の受け入れを今期から停止しました。
これからは、市場全体が縮小する中で技術者をシェアしていくことも検討していかなくてはならない。一人親方で業務の繁閑に合わせて色々な工場を渡っていくような形です。しかし、それを成り立たせるには、技術者の価値を売らないといけないが、それができていない。これからは電子制御装置整備が車体整備に付いていくることによって価値が上がることは間違いないのでそれをいかにサポートするかを考えなければならない。我々が自分たちの価値を認めてもらえるよう、考え方を変える時にきている。
菅
一方で、経営者は生き残るために財務基盤を整えておかねばならない。どんぶり勘定は通用しない。
――賃金や待遇について
中村
私は、料金が上がりそれに伴って従業員の待遇が改善されない限り人手不足はなくならないと思います。
定年まで勤め上げれば素晴らしいと感じられる魅力がる業界にしなければならないということ。子供の頃はミニカーで遊ぶ子供がたくさんいるのに、どこかの段階で車屋さんが敬遠される職業になってしまう。
経営基盤を整えて残存者利益を考えることは個社として間違ってはいないが、業界全体をイメージした時、もっと自分たちに何ができるのか積極的な働きかけも必要だと感じる。
とは言え、中小零細企業が多いので自分たちでできることにも限界があるのかなと感じるところもあります。そうしたところに国の積極的な援助を期待したい。
石本
教育委員会長からいかがでしょうか。
市川
新卒採用の採用活動で普通の高校に私もずっと通っているが、学校の先生は大学に進学させることを一番に考え、就職についてはそこまで真剣に取り組んでいない。
菅さんが指摘されていた、業界全体が縮小する流れについてですが、警察に届出があった事故件数が2010年725,924件だったものが、2021年の最新の統計では305,425件になっている。10年程で半減している。5年後には20万件、15万件になっていてもおかしくない。衝突被害軽減ブレーキが付いている車両はほとんど追突しないことを体感されていると思うのですが、このような優秀な装備が普及すれば事故が減るのは自然な流れで、ひょっとすると整備士の人手不足どころか返って余る状態になるのでは。
菅
そうなれば、ディーラーから人が余るのではないか。その前に業界の給与体系を変えないといけない。笠原先生、今高卒の給料は幾らでしょうか?
笠原
最低賃金の支給額、15万円が最低ラインです。
菅
だったら、高卒新卒で支給額で20万円は払ったらいかがでしょうか。
笠原
整備業界はそのぐらい払っています。
菅
まずは経営者が身を切って給料を上げていかなければならない。今後、自動運転に向けて車両が高度に進化する中で誰がカーオーナーの安心・安全を守るのか。なくてはならない重要な業種であることは間違いないと分かっている今、給与体系の大きな改革を実施すべきです。
経営者はどうやって給料を上げるのか、指数対応単価、材料費など価格転嫁の施策を考えなければと思います。
市川
最終的には賃金の話になってくる。賃金さえ改善すれば自動車業界に進みたい若い人は絶対にいる。
でも残念ながら親が反対する。
平塚
若い子供が就職する時に親の影響力は無視できない。親御さんに良い印象を持って頂けていないのは、我々の日頃の接客などを自省しなければなりません。
また賃金の話ですが、今の若い人は休暇も重要です。きちんと休める環境を作らないといけない。昔の感覚では誰も来ない。
若い人に来てもらえるようにするためには、暗い、汚い、愛想悪い、給料悪いでは誰も来ない。こうした業界全体に漂う空気は変えなければと思います。まずは自分たちが率先して子供たちに凄いなと感じてもらえる業界にしなければならない。
菅
これまで、職人の世界は勉強しない人が多かったけれど、自動運転化が進むにつれて、これからはそれ相応の知識が必要になってくる。これまでのように、ぶつけた個所を修理するだけでなく、修理後の安心・安全をいかに担保するのか。その方法や理由を調べたり説明するとなると、ある程度の学力は必要になってくる。
そうした人材を確保するためには50歳で年収500万円くらいを本気になって目指していかなければならない。
中村
例えば、理髪業界は髪を切るだけでは資格取得者が頭打ちになって、ネイルなど周辺の仕事を獲得して数を増やしてきた。一方、整備や鈑金塗装工場はフィルム施工やコーティングなどに周辺のビジネスに目を向けていない。それでは若い人に魅力的な業界として映らない。
菅
まず手始めに、材料費ではないだろうか。材料費が上がっていることは誰の目にも明らかだが、材料費が上がったという話は聞かない。
材料費の交渉が通れば、自社のレーバーレートもはっきり見えている。安全・安心な品質を担保するために必要な費用感が工場にも見えてきているはずだ。それを基に指数対応単価など損保に問うていく。現状では被保険者の安心・安全を保った修理が難しいことを伝えていく。
指数対応単価については、上げてもらっているところはすでに上がっている。
そのためには、原価をしっかり把握して必要経費を伝える必要がある。
DRPも損保は出すところがなくて困っている。DRPを始めた当初はきちんとした修理ができる工場を指定工場にして仕事を出していたが、途中から収保を主体に仕事を出すようになった。最近になって先進安全装備など難しい装備が増え、技術力のある工場にDRPをお願いしても受けて貰えなくなってきている。
石本
DRPを辞められている工場も増えているようですね。
今の菅さんのお話にあったとおり、原価を積み上げ自社の経営の実態を把握した上で利益を出そうというアプローチ。中村さんが指摘されたように、トップラインの売り上げをどう確保していくかという視点でいくと車体整備だけでなく自分たちで価格を決められるポジショニングやメニューを用意しながら、なおかつ技術と安全を担保した上で利益を上げていく。
どちらのアプローチも必要。最終的にそれが働く人の賃金に正しく跳ね返っていく業界にしたいという話だった思います。
先程から整備士と一括りにしておられましたが、車体整備と自動車整備士の待遇に差はなのでしょうか。
菅
昔はどうだったか分からないが、現状ではイコールかと思う。
菅
整備工場は設備投資が、(鈑金塗装工場ほど)かからなくて利益が出せます。鈑金塗装工場は設備投資が必要な割に安売りになっています。固定費の掛け方が良くありません。生産性を上げたり、他社と比較し優れた修理技術をアピールしますが、そこに固定費を掛け過ぎて利益が出せていません。
石本
どこからお金を持ってきたら良いのか。
国に個社の努力で(従業員に毎月)20万円を支給するのは難しいので補助を貰うなど何か考えなければならないのでしょうか。
菅
国からではなく、独立独歩で業界全体の努力で達成すべきだと思います。
市川
業界全体が悪い。
中村
業界の構図が、国交省、カーメーカー、ディーラー、整備工場、その下にようやく鈑金塗装工場です。この中で鈑金塗装工場は何の後ろ盾もない。だから料金も自分たちでなかなか決められない。この業界の料金を決めているのは損保やカーメーカーです。
高木
(料金を自分たちで決めていくには)賃金が高い顧客を掴むことが重要ではないでしょうか。中古車販売から整備に事業を広げた方たちは、顧客から直接お金を支払って頂いている仕事が多い。それは車体整備、普通の車検整備や、美装領域もやりながらですから、現場の整備士さんの給料は30万円以上を払っている例もあります。
これが実現できているのは、価値が高いものを提供し利益が残っているからで、それを従業員にも還元しているという形です。
菅
我々と価値提供の仕方が違うと。
石本
我々が業界の価値観に染まってしまっているんですね。損保から仕事が流れてくるという。
中村
お金の払い元が、下請けなのか元請けなのかという違いで、お客さんから直接払っていただくのか(の違いではないでしょうか)。
高木さんのご指摘は、直接顧客にBtoCの関係で商売するのか、BtoBの関係で商売するのかという点と、客層の2つの視点が一緒になった内容だったと思うのですが、我々の業界はどちらかと言えばBtoBになってしまってる。そのために価値提供がなかなか難しい業界だった。私は過去形だと思っています。私はBtoBだった業界の悪しき習慣がまだまだ残ってるのではないかと考えています。
高木
すごい生き生き働いている整備士さんにお会いしたことがあり、どうしてこんな生き生き働いてるのかと質問したところ、給料が他の整備士さんより高くもらってるという側面もあったのですが、それ以外にメンタル面の発見もありました。
その整備士の方がどんな教育を受けていたかというと、人は移動すればするほど幸せ感を感じるというマイアミ大学の研究結果があるそうで、その(人を幸せにする)移動を支えているのは自分たちだという自負だったんですね。
菅
おっしゃるとおりだと思います。旅行などの移動中に車が事故や故障などのトラブルに遭ったとき、多くの方(顧客も対応した工場スタッフも)は目的地に行くことを諦めてしまう。しかし、顧客の目的はあくまで目的地に辿り着くことなんです。我々は、つい車をどう修理するかに捕らわれがちですが、最初に考えるべきは、顧客が目的地に行くことをサポートすることではないでしょうか。
高木
皆さんは(仕事を)発生型でやられていると思うのですが、先ほどの工場は発生型ではなくて未然に(トラブルを防ぎ)幸せを維持するという手法を取り入れているので皆さん生き生きと働いている。加えて、なぜ高い給料を払えるのかと言いますと、増やす・付け加える・そぎ落とす・減らすってことやっておられるそうです。
増やすとは、新規の客を増やすことと、すでに取り引きがある顧客からの入庫回数を増やすことです。これによって売上利益をあげる。
付け加えるとは、今までは点検だったものをすべて診断に変えています。入庫したものに関してすべて診断をします。売る車、買い取る車などすべて診断する。点検ではなく診断という文化を先に作っている。さらに車を快適にするために洗車や内外装のメニューを販売していきます。そのほかメンテナンスパックの販売を7割ぐらいやっています。ここまでが付け加えるになるのですが、何をそぎ落とすかと聞いたところ電話とハガキとおっしゃってました。
菅
我々の業界はあくまでサービス業。利益の出し方は色々とあります。私は普段から10通りの利益の出し方があるのか、考えてみるように仲間に話しています。
当社のサービスの中で顧客が一番喜んでくれているのはロードサービスです。特に夜中に対応すると近くに住んでいる方であれば、顧客になってくれる。助けてもらったという意識が顧客にはあるからです。ところが同じサービスでも車検は違う。それは助けてもらった意識がないからです。
菅
(一般の企業で働いている)息子と話していたら、保険金は顧客が保険会社から受け取って、工場に支払うのではないのかと言われました。我々の業界では保険会社から工場が保険金を貰うものだと勘違いしている人が多い。
本来は鈑金塗装業界はサービス料を(自主的に決めて)取れるはずです。たとえば、グーピットのサービスなどで補って貰えれば。
菅
グーピットのサービスは、「グーピットの紹介です」っと電話が掛かってきます。(集客の仕組みとして)ありがたい。グーピットからだと一生懸命になる。プロトからの紹介だからしっかり対応しなければと力が入る。あれはすごく良い仕組みだと思います。
高木
グーピットを立ち上げた理由は、中古車を買われる方の7割8割が自宅から10キロ以上離れたところから購入され、当時は年間で500万人以上が県をまたいで引っ越しをされていました。
ここにAmazonなどのECサイトで(カーオーナーが車用品を)買うようになられたので、どんどん車(や用品)を買ったはいいが、どこで整備(や取り付け)をしていいか分からない、整備難民があふれていました。そこにグーピットを立ち上げたところ、ユーザー(カーオーナー)はウェブ上にたくさんいたのですが、整備工場や鈑金塗装工場はほとんどなかった。2割ぐらいしか自社のウェブサイトを持っておらず、当時それ(自動車整備工場や鈑金塗装工場)をまとめてウェブサイトを立ち上げたところ、これが上手くマッチングしました。
実はマッチングしてる理由が、皆さんの技術でマッチングしていました。グーピットでは作業実績ブログがあり、工場で実際に皆さんが行った作業をウェブ上に掲載していただいていた。それを見てカーオーナーが安心して来店するようになりました。実は価値というのは、店舗がそこにありましたではなく、皆さんの技術だったということがウェブ上に見える化されたことで、来店につながったわけです。
この価値と情報を、今後どのように配信していくかが、この業界がよくなる一番のポイントではないでしょうか。我々はメディアですので、しっかりとした情報を配信してかないといけないという使命があります。
ぜひ皆さんからもご意見をいただきながら配信していきたいなと考えています。
菅
高木さんがおっしゃる通り、価値は価値でも利用価値なんです。利用する人がいなければ価値にならない。我々が持っている技術で価値提供できるところはたくさんあるはずです。
(たとえば)指数対応単価のアップに成功している工場は保険を売っているところが多い。理由は簡単で、保険会社の売り上げに貢献しているからです。私は日車協の教育委員会で保険の仕組みについて伝えたいと考えています。実は保険の仕組みを理解して仕事をしている事業所がまだ少ないからです。(私は)基本中の基本だと思っています。
菅
たとえば、車両保険は保険会社が契約者に保険金を支払う。保険会社と契約者が金額を決めるだけで、工場は関与すべきではありません。
一方で対物は違います。(修理協定を)修理工場と保険会社でやってくださいとなるため、我々がやる(間に入る)ケースがあります。この仕組みすら分かっていない(工場が多い)。
――整備需要の変化と資格の変化
石本
ここからは整備需要の変化と資格の変化と未来についてお話いただきたいと思います。
また、将来的に人手不足が心配される一方で、本当に人手不足になるのか懐疑的な意見も聞きます。そのあたりを含めてご意見をいただきたいと思います。
中村
従業員が足りない状態が起こる会社が生き残るんだと私は思います。人が余る会社は需要がないということになるので。
菅
(人手不足にならない方法として、たとえば)社員を雇わずに窓口だけを作って仕事をすべて外注にまわす。見方によっては社員を雇用するより費用対効果が良い場合もある。そうした場合社員が足りないことは全くない。考えようによっては、いない方が良いことも考えられます。極論かも知れませんが。
菅
ディーラーを人余りで退職した人たちが、安心してやってこれるように我々は準備しておかなくてはならない。
石本
まさしく菅さんの地域でディーラーと組んでネットワークを作られていますね。
菅
近所の(ディーラー)内製化工場に事がないので、組合工場から仕事を(ディーラーに)出しています。
ディーラーの整備工場も今後社員が余ってくる。この人たちの受け皿として我々が体制を作っておかなければならない。それは待遇だけでなく、働く意識や社会的意義などを伝えられる教育をやっていく必要がある。そうでなければ他の業界に取られてしまう。
石本
最近は電子制御の高度化についていけず、どう修理したらよいか分からないという声も聞きます。
菅
そういう工場は実際に見聞きしますが、(ついていけないと諦めてしまったら)辞めていただくしかなくなってしまう。顧客がどこに入庫して良いか迷う原因になるので。
石本
確かに、そこに入れて良いのか分からないのは困りますね。
中村
対価が分からずに暇つぶしで仕事をするから賃金が下がるんですね。外国人雇用もそうなんです。雇う側も対価を考えずに仕事をさせてしまう。それが、賃金が上がらない理由の一つであると感じています。趣味の延長や暇つぶしでやっている仕事と何が違うのかを言えない本職の人。趣味や暇つぶしの仕事と何が違うのかと問われるということ自体、価値ではなく対価でしか見られてないということに気付かなければなりません。
高い安いと数字の大小に翻弄されているのではないかと私は考えています。数字の大小と高い安いは違うということを説明できない経営者が多すぎます。そして、我々が扱っているのは信頼財であることを理解していません。もっとちゃんとした対価がもらえる仕事であると気が付いてほしいと思います。
石本
そういう話は本当は学生にも必要ですね。
中村
最近の学生の方が自分たちが扱っているものが何かを勉強している印象があります。下手な我々世代の経営者よりも何をどう売っていくのか、大学生にもなると学部によっては勉強していますよ。
菅
仕事を依頼する時、自分より同等かそれ以上の知識を持った人にお願いしたいと一般的には考えます。(顧客から)同等以下だと判断された場合、この車を直させてあげるよという心理が働いて対価が安くなりがちです。ただ、同等以下と判断された人たちも賢くなって(知識を身に付け)対価を増やすことだけが道ではありません。安い方向性で行くと決めれば良いんです。無理をして高級志向に向かおうとするからうまくいかないのであって、自分のポジショニングを見極めてやっていけば、まだまだこの業界は捨てたものではありません。ただし、1業種に絞ってしまうと厳しいと思います。
平塚
車体整備の技術は、整備のようにマニュアルがなく、技術者個々人の研鑽のもとに成り立っている。本来もっと高く売れるものです。ところが、保険会社に指数対応単価を決められてしまっているところに、長年成長がない原因があると思います。20年指数対応単価は上がっていない。
命を預かっているものであるにも関わらず対価が安い。加えて整備工場よりも設備投資が必要です。我々はこうした状況にあることを、根拠がある計算を行い、安心・安全を担保するためにどれだけ必要であるかを訴えていかなければお客も来ないし、損保も認めてくれません。
石本
一方で、会社の利益が社員に正しく分配されているか、この点はいかがでしょうか。この部分も気になっています。昔は親方がこれだけ貰っているなら自分で独立するという人が多い業界だったわけですが、その点はいかがでしょうか。
菅
(鈑金塗装業界の)給料や料金は横並びになっている。会社の実態に合った給料になっているケースは少ない。今後は横並びをやめて各社の実態に沿ったものに見直す必要があると考えている。各社でもっと差があって良い。
平塚
人の命を扱う車両の骨格を修理し、安心・安全を保てるのは本当に素晴らしい技術です。マイスター制度を青年部でもやっていますが、もっと訴えていきたい。
高木
それを業界人同士ではなくカーオーナーに、マイスターとはこういうものなのですよと伝えていくと価値が変わってくると思います。
高木
変わってるんだよって、これだけのことやってんだよ、こういう機材を使って直してるんだよってことをアピールしてかないと。皆さんが持ってる設備を今後はカーオーナーにどんどん見てもらう。見ても分からないかもしれませんが、こういう設備入れて、こう直してるんだってところを、どんどん発信してかないといけないかなと思います。
菅
中古車業界では、入庫した車をすべてスキャンツールで調べているんでしょうか。鈑金塗装業界は入庫した車を全て調査しているわけではない。整備業界も調べていない。ここは差別化の最大の要因。車検の車が入って調べたところ何もなかったですご安心くださいというとね、カーオーナーからは大きな信頼が得られる。それは大きな価値です。
高木
中古車業界はこれから支払総額表示義務化になりますが、これまではグレーな状況で様々な形で諸費用をいただいていた。納車前費用が何なのかお客は分からないので。
中村
中古車業界だけでなく、ディーラーですら納車費用って何ですかとたずねても、人によって説明する内容が違っています。
高木
これからは法廷整備費用が含まれた金額を表示しなければなりませんが、12カ月点検を付けて販売しないといけいない。ところが、実際は法廷整備を付けて売られているケースは少ない。これをお客に開示することで業界が変わっていくかなと思っています。
(支払総額表示は)別の諸費用が発生しないので、この分(12カ月点検)はお客からいただかないといけないものですので、それを伝えていかないといけない。これからは自分たちがどんなことをやっているのか、お客に知ってもらうことが価値を高めていくうえで一番大事だと思います。
中村
我々の業界はどうでしょうか。我々は示すものはないかもしれませんが、車体整備士という個人の資格と国の許認可があります。それも事故車と普通の整備とは別です。そうした資格を取得した上で商いをさせてもらってますと説明するように私はしている。そういった自分のところ(業界や会社)の価値の発信をしっかりしていない工場が多い気がします。
鈑金屋さんあるあるですが、良い仕事をしていたら仕事は後からついてくるというような気持ちを持っている人が多い。先程おっしゃっていた話ではないですが、お客に伝えないと来ない時代に変わっています。何事も自分から進んで発信しないと手に入るものも手に入らない時代になっているのではないでしょうか。
中村
(自分たちから発信している例として)兵庫県の車体整備協同組合のウェブサイトは有資格者一覧表が出てきます。それぐらい見える化している単組もあります。
ところが、そうした取り組みをしようとすると、資格を保有していない工場を晒すのかという話が出てきます。だが、身を切る改革というのは少しはしなければならないと思います。
これは後世にこの業界を残していくために我々に課された大きな宿題ですよ。息子さんがいるのに跡を継いでもらえなくて、後継者不在になっている工場の話を聞くこともありますが、なぜ継いでもらえなかったのか。業界に魅力がなかったからです。自分たちの権利ばかりを主張して身を切る改革をしてこなかったからです。それぐらいの気持ちで変えて行けないものかと思います。
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