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まだまだ終わらない ビッグモーター不正請求の余波 損害保険料率算出機構の参考純率見直しでも まだ足りない事情とは……
2023/08/09
損害保険料率算出機構が2023年8月4日、ビッグモーターによる保険金不正請求問題を受け参考純率の調査に乗り出したことは、先に報じた通りである。
しかし、調査を実施するとして調査対象となる期間、調査終了の目途など分からないことが多い。そこで同機構に確認を行った。
Q.1:調査の対象期間について
Q.2:いつごろ調査結果が出るのか
今回の弊機構の発表は、今般の不正請求が判明したものについて保険会社に適切に報告を求めていくという方針を示したものです。調査自体は保険会社等が全容解明に向けて実施している段階ですので、現時点で決まったものはなく、弊機構から回答できることはございません。
【解説】
ある程度予想できた回答で、不正請求の全容が保険会社にも見えておらず調査している段階にあるため、同機構も保険会社からの報告を待って対応するということである。
全容解明を何を以ってどこまでというのは、保険会社が任意で定めた期間と範囲によるのだろう。だが、推測することはできる。過去の事例で考えると、2011年関東マツダであった組織的な保険金不正請求事案では2005年4月~2011年9月までを調査対象にしていた。こうしたことから考えると調査は3~5年程度遡って行われるものと考えられる。また、今回は規模が桁違いで、2021年だけでビッグモーターは44,788件の鈑金塗装を行っている。調査対象になるとみられる2020年、2022年も同数程度と考えると、相当程度時間を要するとみられる。
当然、同機構が参考純率に反映するのは当分先のことになりそうだ。せめて2024年4月発行の2023年度版(2022年統計)のデータにビッグモーターによる不正請求の影響を受けないデータになることを願うばかりだ。
Q3.今回の調査は同機構の会員(会員保険会社)の任意保険のみという認識で良いか?
弊機構が参考純率の算定に反映するために報告を求めていく対象は会員保険会社の任意保険になります。
【解説】
なぜこれを聞いたかと言えば、全ての任意保険の保険料金が見直されるわけではないからだ。同機構の会員保険会社以外、例えば共済は今回の調査対象にはならない。
共済に加入しているカーオーナーが追突事故を起こして100対0で加害者となったケースで考えてみる。被害車両(追突された相手の車両)がビッグモーターに入庫した場合、共済のカーオーナー自身がビッグモーターに入庫していなくても、賠償金は共済から支出されている。ここで不正があった場合、当然共済の支出も過剰に支出していることなるわけだ。一般に事故を起こしたとき、相手車両の入庫先を知ることはまずない。知らない間に自身が被害に遭っている可能性があるのだ。
事例では分かりやすく共済を挙げたが保険会社でも同機構の会員でない場合は今回の調査対象から外れている。
参考純率の調査対象になるとみられる同機構の会員保険会社(自動車任意保険)は次の通り。
・あいおいニッセイ同和損害保険
・アクサ損害保険
・アメリカンホーム医療・損害保険
・イーデザイン損害保険
・AIG損害保険
・SBI損害保険
・共栄火災海上保険
・ザ・ニュー・インディア・アシュアランス
・セコム損害保険
・セゾン自動車火災保険
・ソニー損害保険
・損害保険ジャパン
・大同火災海上保険
・Chubb損害保険
・チューリッヒ・インシュアランス
・東京海上日動火災保険
・トーア再保険
・日新火災海上保険
・三井住友海上火災保険
・三井ダイレクト損害保険
(損害保険料率算出機構Webサイトより 2021年7月1日現在)
Q4.調査に乗り出した背景
本件に限らず、保険会社から報告されたデータに誤りなどがあった場合には適宜、訂正の報告を保険会社に求め適切に反映しています。今回も同様に保険会社に対して求めていくものですが、本件に関しては、弊機構への一般消費者の方からのご照会も一定数ありますので、現在の弊機構としての方針をお示ししたところです。
【解説】
今回の参考純率の調査は異例なことではなく、普段からデータの誤りが確認されれば適宜対応している。我々が知らない間に、適性な保険料金が算出されるよう反映されている。
リリースを発表したのは社会的影響を考慮した結果に過ぎないということを知ってほしい。
■余分に徴収された保険料の返還を求める世論が形成されないことを願う
不正の規模が大きいだけに、不当に保険料が高くなっていたことは明らかなところだが、余分に徴収された保険料はどうなるのか。それは保険会社各社の対応に委ねられている。
同機構が発行している2022年度(2023年4月発行 2021年統計)の自動車保険の概況によると、66,789,195件である。影響が広範囲である分、保険契約1件あたりの金額は小額だ。返金処理するとなれば事務経費のほうが大きくなることは間違いない。
保険料率は参考純率を元に算出される純保険料率と、付加保険料率の2階建てになっている。参考純率はこの純保険料率の元になる数字で、支払い保険金に該当する。付加保険料率は保険事業を行うための必要経費に相当し、保険会社各社が任意で設定する。
仮に経済的合理性を無視し、不当に高く徴収された保険料の差額を返金した場合、その事務経費が付加保険料率に反映されるおそれがある。そして、結局より高い保険料をカーオーナーが負担することにもなりかねない。
保険会社各社が、参考純率の改定を受けどのように対応するのか。まだ随分先のことになるだろうが、その経過を見守りたい。おそらく二次的被害である不当に高くなった保険料の返還は難しいというのが筆者の見立てだ。不本意でやるせないが、感情論を除けば、それがカーオーナーの利益にも資することになるだろうと思料する。
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