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BMSの知見が生んだ塗装シミュレーターから自走式自動塗装ロボットへ 韓国発ベンチャー企業が描く自動車補修塗装の未来

  • #インタビュー

2026/04/30

2017年に創業した韓国のベンチャー企業・BRTECHは、電気自動車のバッテリー・マネジメント・システム(BMS)開発で培ったソフトウェアとハードウェアの高度な知見を融合させ、塗装シミュレーター「エコペインター」を開発。さらに現在、そのデータを学習した自動塗装ロボットの実用化にも挑んでいる。4月11・12日に開催された大井産業の展示会「大の市」に出展した同社のカム・キベクCEOに日韓の市場動向や塗装シミュレーターの特徴、今後の展望などについて話を聞いた。

BRTECH カム・キベクCEO

――BRTECH社の概要について

 2017年に創業し、当初は電気自動車のバッテリーに使われるBMSの開発を行っていた。BMSには高度なハードウェアとソフトウェアの技術が集約されており、塗装産業が抱える深刻な問題点に直面した際、私たちが持つバッテリー技術とシミュレーション技術を掛け合わせることで解決できないかと考えた。それが塗装シミュレーター「エコペインター」と自動塗装ロボットの開発の直接的なきっかけとなった。

 エコペインターは2022年に完成し、2023年には東京で開かれた国際オートアフターマーケットEXPO(IAAE)へ出展。日本市場へのアプローチを開始した。

――韓国の鈑金塗装市場の現況は?

 韓国の鈑金塗装市場でも品質や安全、環境、そして効率化が極めて重要な課題として挙がっている。特に環境規制が厳しくなり、水性塗料への移行が推進されている状況だ。しかし、韓国の作業現場にはいまだに作業を早く終わらせることを良しとする文化が根強く残っており、それが新たな課題を生んでいる。

 また、日本と同様に超高齢化社会に突入しており、若い技術者が圧倒的に足りていない。教育機関では外国人学生を募集して補おうとしているが、国全体として見た時にそれが最善の解決策だと私は考えていない。根本的な技術習得の壁を取り払うアプローチが必要不可欠だと考える。

――日本市場の印象はどうか?

 日本は自動車産業自体の規模が韓国よりも大きく、特に塗装の工程基準や仕上がりの品質が非常に高いと感じている。韓国が作業時間や塗料の使用量といった効率面を重視する傾向にあるのに対し、日本は基本に忠実であり、非常に繊細で高いスキルを持っている。また技術レベルが人によって大きくブレることなく、全体的に高い水準で一貫しているのが印象的だ。

 また新しい技術に対しては、日本国内で安全性がしっかりと検証されれば着実に導入が進む市場だと見ている。実際、私たちは先行して塗装シミュレーター・エコペインターを導入した大井産業を中心に市場開拓を進めており、今年4月には茨城県の水戸自動車大学校への導入も果たした。

――塗装シミュレーター「エコペインター」はどのような製品か

 エコペインターは塗装技術を精緻にデータ化するシミュレーターだ。実際の作業者がスプレーガンを動かす通りに、角度やスピードをリアルタイムで測定し、全体的な膜厚の分析まで行うことができる。

 初心者は高価な塗料や専用の装備を消費せずに反復練習ができ、熟練者はこれまで感覚でしか分からなかった自分の塗装スタイルをデータとして客観的に確認できる。日本向けには大井産業から多くのアイデアをもらい、トヨタ1F7 シルバーメタリックの粒子が忠実に表現できるようにカスタマイズも行った。

 韓国では塗料代の予算削減にもつながることから、教育機関や韓国トヨタ、韓国の塗料メーカーであるノルペイントなどのトレーニングセンターで導入が進んでいる。今年からは韓国の国家技能大会の塗装競技にもエコペインターが公式採用され、膜厚やスピード、角度などの詳細なスコア設定で厳格な評価が行われている。

展示会では多くの来場者が塗装シミュレーター・エコペインターを体験した

――開発中の自動塗装ロボットについても教えてほしい

 開発の方向性を決めるのに非常に多くの時間を費やした。現在、中国などで床や天井にレールを敷くタイプの自動塗装ロボットが存在するが、1回の塗装に3時間ほど掛かったり、結局うまく活用することができずに現場から撤去されてしまうケースもあると聞いている。私たちはそのような欠点を補うため、人のように自由に動ける自走式の協働ロボットを開発コンセプトに据え、2年前から開発を進めてきた。

 最大の特徴は、初めて見る形状のパネルでもエコペインターで学習したAIデータに基づき、自動で最適な経路を生成して塗装できる点だ。またプラサフ、ベースコート、クリヤーの順に塗り、ボカシ塗装まで行えるプログラミングを想定している。

 昨年、SEMAショーにも出展し、プロトタイプの自動塗装ロボットを展示したところ、多くのボデーショップ経営者から高い関心を集めた。販売価格は若い塗装技術者の年収と同水準を想定しており、2027年上半期中の製品化を目指している。

プロトタイプの自動塗装ロボット。エコペインターで学習したAIデータに基づき、 自動で最適な経路を生成して塗装する

SEMAショーでの出展の様子はこちらから(同社インスタグラムより)

――今後の日本市場における販売及び展開は?

 日本市場においては、どこに導入されているかという実績や信用が非常に重視されると深く理解している。そのため、パートナーシップを築く大井産業の協力を受けながら、教育機関や有力な販売店など多様な分野で活用してもらい、着実に実績を積み上げていきたいと考えている。

 また、日本のカーメーカーからも関心を寄せられており、まずは生産性の向上が急務となっている大きな工場から徐々に導入が進んでいくと見込む。

――日本の鈑金塗装事業者へメッセージを

 私は日本に来るたびに、塗装品質の圧倒的な高さに感銘を受けるとともに、業界が直面している人手不足や環境対応といった問題に深く共感している。塗装という作業は、自動車だけでなく家電やスマートフォンなど、私たちの生活に欠かせない必須の技術だ。

 だからこそ、私はすべての塗装技術者を心から尊敬している。私たちが開発する塗装シミュレーターや自動塗装ロボットは、決してすぐに人間の代わりになるものではない。あくまで技術者をサポートし、塗装作業を効率化して産業を発展させることが目的だ。

 業界全体が高齢化と人材不足という厳しい現実に直面する中、従来のやり方を維持するだけでは立ち行かなくなる日が必ず来る。私たちは最新のテクノロジーを駆使し、塗装技術の継承と現場の負担軽減に全力で取り組んでいく覚悟だ。

 私たちの挑戦が皆さんの課題解決の一助となることを信じている。ぜひ今後の展開に期待し、塗装シミュレーターの導入や自動塗装ロボットの活用について検討してもらいたい。