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自動車整備工場の格差はなぜ生まれる?年収と将来性を分ける3つの要因

同じ自動車整備士なのに、なぜ給料や待遇に格差が生まれるのでしょうか。この記事では、ディーラーと専門工場のビジネスモデルの違いや、EV・ADASの普及といった技術革新が格差を生む構造を解説します。将来性の高い整備士になるためのヒントも紹介するので、ぜひキャリアプランの参考にしてください。

  • #コラム

2025/11/11

自動車整備工場の格差はなぜ生まれる?年収と将来性を分ける3つの要因

「同じ自動車整備士として、毎日汗水流して働いているのに、なぜ給料がこんなに違うんだ…」。懸命に技術を磨き、お客様の安全を守るという誇りを持って仕事に取り組んでいるにもかかわらず、勤務する工場の違いによって生まれる「格差」に、不満や将来への不安を感じている整備士の方は少なくないでしょう。

特に、メーカー系列のディーラーと、地域の独立系整備工場(町工場)とでは、給与や福利厚生、将来性において、大きな隔たりがあるのが現実です。この格差は、一体なぜ生まれるのでしょうか。

この記事では、自動車整備工場間に存在する「格差」の構造的な要因を深掘りし、変化の激しい自動車業界で、今後「勝ち残る」工場の特徴、そして一人の整備士として自らの市場価値を高めていくためのキャリア戦略について解説します。

なぜ?自動車整備工場間に存在する「格差」の実態

自動車整備工場と一括りに言っても、その経営母体や規模によって、従業員の待遇には大きな差が存在します。

ディーラーと専門工場で異なる給与水準

格差を最も実感するのが給与水準です。一般的に、メーカーの看板を掲げるディーラーの整備士は、独立系の整備工場で働く整備士に比べて、給与や賞与が高い傾向にあります。これは、ディーラーが車両販売という大きな収益源を持ち、安定した経営基盤の上で、人材へ投資する余力があるためです。


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福利厚生や教育制度の差

給与だけでなく、福利厚生や教育制度にも格差は見られます。ディーラーでは、退職金制度や家族手当、住宅手当といった福利厚生が充実している場合が多く、メーカーが主催する最新技術の研修なども定期的に受けることができます。一方、独立系の工場では、こうした制度が十分に整っていないケースも少なくありません。

項目

メーカー系ディーラー

独立系整備工場(一例)

給与・賞与

比較的高い傾向

ディーラーより低い傾向

福利厚生

充実している場合が多い

事業者による差が大きい

教育制度

メーカー研修など体系的

OJTが中心

扱う車種

特定のメーカーが中心

多種多様なメーカー

整備工場の「格差」を生む3つの大きな要因

整備工場の「格差」を生む3つの大きな要因

では、なぜこのような格差が生まれてしまうのでしょうか。その背景には、3つの構造的な要因があります。

要因1:ビジネスモデルと収益構造の違い

最大の要因は、ビジネスモデルの違いです。ディーラーの主な収益源は「新車・中古車の販売」であり、整備部門はアフターサービスという位置づけです。車両販売で得た利益を、整備士の給与や設備投資に還元することができます。

一方、独立系の整備工場の収益源は、車検や修理といった「整備売上」そのものです。低価格競争に巻き込まれやすく、一台あたりの整備で得られる利益には限界があります。この収益構造の違いが、従業員への待遇の差に直結しているのです。

要因2:技術革新への対応力の差

自動車業界は今、EV(電気自動車)やADAS(先進運転支援システム)の普及という、100年に一度の大変革期にあります。これらの新しい技術に対応するためには、「特定整備認証」の取得や、高電圧のバッテリーを扱うための専門知識、高価な診断ツールや設備への投資が不可欠です。

メーカーと一体で経営するディーラーは、こうした最新情報や設備投資の面で圧倒的に有利な立場にあります。情報や資金力に乏しい独立系の工場は、技術革新のスピードについていけず、対応できる車種や整備内容が限られてしまい、結果として収益機会を失っていくという負のスパイラルに陥りやすくなっています。

要因3:人材確保と育成への投資力の差

深刻な人材不足の中、整備士を確保・育成するためには、魅力的な労働条件の提示や、継続的な教育への投資が欠かせません。安定した経営基盤を持つディーラーは、採用広告にコストをかけたり、手厚い研修制度を設けたりする体力があります。

しかし、日々の資金繰りに余裕のない工場では、人材への投資は後回しにされがちです。その結果、若手が育たず、人の流出も止められないという、さらなる格差の拡大に繋がっています。


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これからの時代に「勝つ」整備工場の特徴

これからの時代に「勝つ」整備工場の特徴

技術革新と人材不足という荒波の中で、今後も持続的に成長していく整備工場には、共通する特徴があります。

特定整備認証の取得とADASへの対応

自動ブレーキやレーンキープアシストといったADASの整備には、「特定整備認証」が必須です。この認証を取得し、エーミング(センサー類の校正作業)に必要なツールや知識を備えている工場は、今後ますます需要が高まります。逆に、対応できない工場は、新型車が入庫できなくなり、淘汰されていくでしょう。

EV・HVに関する高度な知識と設備

EV(電気自動車)やHV(ハイブリッド車)の整備には、高電圧システムに関する専門知識と安全装備が不可欠です。これらの次世代自動車に積極的に対応し、専門性を高めている工場は、競合との大きな差別化を図ることができます。

顧客管理と提案力の強化

単に言われた修理をこなすだけでなく、顧客管理システムなどを活用し、お客様一人ひとりの車の状態や利用状況を把握すること。そして、その情報に基づいて、最適なタイミングでメンテナンスや部品交換を提案できる「提案力」を持つ工場が、お客様から選ばれ続けます。


参考:特定整備とは?特定整備に該当するもの、該当条件を分かりやすく解説 - カーメンテナンス(車の修理)情報ならダックス glassStyle(グラススタイル) 公式サイト

格差を乗り越え、市場価値の高い整備士になるには

格差を乗り越え、市場価値の高い整備士になるには

工場の格差という厳しい現実がある一方で、一人の整備士として、自らの努力で市場価値を高め、格差を乗り越えていく道は確実に存在します。

上位資格(一級整備士など)の取得

二級自動車整備士資格の上位に位置する「一級自動車整備士」は、より高度な故障診断能力や、環境・安全に関する深い知識を持つスペシャリストです。取得は容易ではありませんが、資格手当による給与アップや、より良い条件での転職に繋がる強力な武器となります。


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特定分野の専門性を磨く

「〇〇メーカーのEVなら、誰にも負けない」「この車種のエンジンのことなら、何でも知っている」というように、特定のメーカーや技術領域に特化した専門性を磨くことも、自らの価値を高める上で非常に有効です。

マネジメントスキルを身につける

現場での整備技術だけでなく、工場長や経営者の視点を持ち、売上管理や人材育成、顧客対応といったマネジメントスキルを身につけることも重要です。プレイヤーとしてだけでなく、チームを率いるリーダーとしての能力は、キャリアアップに不可欠です。

まとめ:変化を捉え、自らの価値を高める

自動車整備工場間に存在する格差は、ビジネスモデルや技術革新への対応力といった、構造的な要因から生まれています。この厳しい現実から目を背けることはできません。

しかし、嘆くだけでなく、変化の波をチャンスと捉える視点が重要です。ADASやEVといった新しい技術領域は、意欲のある整備士にとって、新たな専門性を築き、自らの市場価値を飛躍的に高める大きなチャンスです。この記事を参考に、業界の変化を冷静に分析し、未来を見据えたキャリア戦略を描いてください。