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【特別対談】中日本自動車短大×岐阜県車協 車体整備業界の人材不足と人材育成の現状 PART1
給料と休みを重視するZ世代 安定志向の学生に専業工場はどう映るか?
2025/12/12
2025年11月1日、中日本自動車短期大学(山田弘幸理事長、岐阜県加茂郡)は学園祭「第57回自短祭」を開催。岐阜県自動車車体整備協同組合(大原孝司理事長)は、同学園祭に「人材育成」のテーマを掲げ、VR塗装シミュレーターやチョコレート塗装などの催しで出展し、車体整備業の魅力を発信した。
その学園祭の会場において、同校の教員と岐阜県車協に加盟する専業工場を営む経営者が、業界の直面する人材不足と人材育成のあり方について率直な意見を交わした。
出席者
中日本自動車短期大学 モータースポーツエンジニアリング学科学科長兼広報部 部長 森 光弘
同 専攻科 車体整備専攻 主任 的野 大樹
大蔵自動車工業所 代表取締役社長 大蔵 和成
オートボデーショップ篠田 代表取締役 篠田 和也
(左から)森 光弘、的野 大樹、大蔵 和成、篠田 和也
業界は高齢化、若手はディーラーへ 肌で感じる人材不足のリアル
――まず、中日本自動車短期大学の学生と現況について教えてほしい
森 本校は自動車工学科とモータースポーツエンジニアリング学科の2学科で二級整備士を養成し、加えて専攻科として一級自動車整備専攻、車体整備専攻を設けている。
学生数は、学校全体で600人を超える規模の自動車整備学校となっている。
――車体整備士専攻では、どのようなカリキュラムで指導しているのか
的野 授業は実習と座学で構成されている。実習では、車体計測、溶接、塗装、鈑金といった車体整備に必要な技術をそれぞれ学んでいく。
――現在、業界全体で人材不足が叫ばれている。専業工場を営む2人はこの状況を肌で感じているか。
大蔵 肌で感じている。業界自体が高齢化しており、若い人材が入ってこない。二級整備士を取得した学生は、ディーラーなど自動車関係の企業に就職するケースが多く、専業工場にまで人材が回ってこないというのが現状である。
篠田 非常に厳しい状況だと認識している。実はこのカメラが回る前にも話していたのだが、業界の平均年齢が現状で50歳を超えており、我々経営者世代と変わらないというのはどうなのだろうか。
昨今は、車の進化に人間の進化が追いついていないことを非常に痛感する。「もう少し頭が柔らかければ」と感じることもあり、身体的な衰えも意識する中で、若い人材がいればと思う場面が日常業務で本当に多い。
給料、休み、福利厚生を重視する安定志向の学生たち
――卒業生の進路はどのような傾向にあるか
森 やはり一番多いのはディーラー。このほか車体関係の仕事、あるいはカーメーカーや、損害保険会社のアジャスターなど進路は多岐にわたる。もちろん、2年課程の学生と比べれば、鈑金塗装関係の仕事を目指す割合は圧倒的に多い。ただ、車体整備を専攻したからといって、必ずしもその道に進むわけではなく、自動車にかかわる仕事であればすべてが希望の職種となり得る。
篠田 学生の就職先選びでは、やはりディーラー志向が強いのか?
森 ディーラー志向というよりも「安定志向」と言ったほうが正しいかもしれない。決まった給料、決まった休み、決まった労働時間、そして福利厚生、そういったものがしっかりしているというベースを重視する傾向が強い。一部の学生はやりがいを求めるが、最も重要なのは今後の生活を長期的に見据えた上で、自分がしっかりとした生活を組み立てていけるかどうかである。
――専業工場に就職する学生は毎年どのくらいいるのか
的野 昔はそれなりにいたが、今では1人か2人。ディーラーではないところに行きたいという学生は、いろんなメーカーの車を触ってみたい、技術をもっと身に付けたい、将来的に自分で起業したいという意欲がある。そういった学生が個人の鈑金塗装工場などに就職していく。
――昔に比べて、そうした意欲のある学生は減っているのか
的野 昔はもう少し多くいた。今の学生はどちらかというと、給料や休みを優先する傾向が強いかなと思う。
篠田 実家が鈑金塗装工場を経営している学生は減っているのか?
的野 そうでもない。毎年2、3人はいるが、卒業後すぐに実家には戻らずディーラーに就職することも多い。
学生と現場が触れ合う機会を増やすことが人材確保の鍵
――学校側として、専業工場に期待することは何か
森 やはり、現場の人と話す機会、つまり学生との接触を増やすことが良いのではないかと考えている。我々も高校生を募集する際には、企業と一緒に高校へ出向いて授業を行っている。直接触れ合うことで良いイメージを持ってもらい、本校へ来てもらうという形。
過去、一度会社を辞めた卒業生が、学生時代にあった岐阜県車協とのコミュニケーションがきっかけで再就職で戻ったという実績もある。そういった関係作りは大事だと思う。
篠田 我々のような専業工場がインターンシップを受け入れてみたいと募集した場合、学校としては喜ばしいことなのか?
森 インターンシップは科目としてあるので、ぜひ受け入れていただきたい。
篠田 ありがたい。ディーラー就職率100%を維持すると言われてしまうと、我々はお先真っ暗になってしまう。
ワークライフバランスを重視する現代の学生像
篠田 私は長い間、こちらの学園祭にかかわらせてもらっているが、毎回、若者のパワーをすごく感じる。特に、製作物に対するひたむきさが非常によく見られ、私はこの日をすごく楽しみにしている。何か製作物に対する意気込みみたいなものはあるのか?
的野 車体整備専攻では課題製作として、入学後に溶接や塗装などの基礎を学んでから、グループに分かれて1台の車をカスタムしたり、レストアしたりする。この大学祭がその発表の場となるので、学生にとっては一つの目標になっており、それに向けて計画を立てて頑張っている。
篠田 学生たちは、去年の製作物に負けないように上を目指そうとか貪欲さはあったりするのか?
森 大昔は徹夜して作業していた。シャッターを開けたらパテ粉の中から学生が出てくる、というような時代であった。しかし、今の学生はサラリーマンのようである。夕方になると「次、バイトがありますので」と言って帰ってしまう。
篠田 その感覚というのは、就職先を選ぶ時と似ているのか? たとえば、残業が少ないや休みが多いなど、どういったところを重点的に見ているのか?
的野 やはり休みと給料。特にお金というよりも、自分の時間を確保できる休みを優先する学生のほうが多い。そのバランスを考えると、やはりディーラーに魅力を感じる部分があるのだろう。
篠田 でもディーラーも土日休みではなく、平日休み、もっと言うと変則的な休みもあるが、やはり年間通じての休日日数に魅力を感じているのか?
的野 求人票を比べた時、まだ会社を直接見ていない状態では、どうしても年間休日日数などの数字で比較することになってしまう。
大蔵 業界でも、36協定が強化され、労働に関しては適正なものにしなくてはならないという流れがある。私の工場でも休日日数を増やし、残業はほとんどなしに労働環境を整えた。また個人事業主であっても36協定を結び、労働環境を整備しているところもあり、それほどディーラーと差があるとは感じていない。