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【特別対談】中日本自動車短大×岐阜県車協 車体整備業界の人材不足と人材育成の現状 PART2
「人の不幸から始まり“ありがとう”で終わる」仕事の魅力 車体整備業界が若者に選ばれるための条件
2025/12/12
「人の不幸から始まり“ありがとう”で終わる」仕事の魅力
――人材不足を解消するためには、鈑金塗装・車体整備の魅力をいかに伝えていくかが重要となる。学校では学生にどのようにその魅力を伝えているのか
森 高校生に向けては、二級整備士をベースに車体整備も学ぶことで「トータルエンジニア」になれると話している。エンジンやシャシはもちろん、ボデーまでメンテナンスできる整備士は数が少なく、1級整備士とはまた違った車両全体を見ることができる整備士になれると伝えている。
在校生に対しては、車体整備専攻の学生が楽しそうに車を製作している様子を見せることでアピールしている。学園祭の車両展示も同じで、専攻科に行けば自由に車を作れそうだと思わせる。そのようなやり方で、人数を集めてきた。
的野 本校に来る学生は、やはり車が好きである。課題製作を通じ、たとえばレストアであればボロボロの車がきれいになっていく工程を実際に体験する。苦労することも多々あるが、最終的に形にして満足感を得る。それが楽しいと思える学生が、専業の鈑金塗装工場へ就職していくのだと思う。
森 車体整備専攻はカスタムカー製作を始めたころから希望者が増え、最大では定員20人対して47人いた時もあった。学生のやりたいと思ったことをやらした結果、学生数が増えたのだと思う。
――プロである専業工場の目から見て、若者にこの仕事の魅力を伝えるポイントはどこにあるか
大蔵 資格を取ったからすぐに仕事ができるようになるのではなく、10年続けてようやく一人前と言われる職種。私もこの業界に入って30年近くになるが、いまだに反省しながら自分の技術を高めようと努力しており、いつまで経っても勉強できるのが魅力の一つ。
そして何より、事故に遭われたお客様の車をきれいに直した時に「ありがとう」と言われることが、非常に励みになる。何ならそれが聞きたいがためにやっている。お金儲けも大事だが、品質を高めてお客様に満足していただき、その笑顔を見られる業界。他人から「ありがとう」と言われる仕事はそう多くないと思う。自分の仕事に対して直接評価していただけ、その上に御礼まで言っていただける魅力ある業界だと思っている。
篠田 大蔵さんと非常に似ている。この商売は言い方は悪いが、人の不幸から始まっていてお客様は不意の出来事で精神的に落ち込んだ状態で来られる。それに対して「車はきれいに直せます」と言える自分でありたいと常日頃から思っている。だからこそ、出来上がった時にお客様から「きれいになったね、ありがとう」と言ってもらえた時は本当にうれしい。「また何かあったら来てください」とは決して言えない仕事だからこそ、「困った時に助けてくれる人間が実はあなたのそばにいっぱいいる」と覚えておいていただきたい。
また、車体整備の仕事は同じ損傷というのが一つもない。だからこそ面白いし、日々勉強、日々修業だと感じている。学生たちにはぜひ、そういったやりがいが魅力であることを発信してほしいし、先進安全装置が普及してきた昨今、「君たちが自動車の安心と安全を担っていて、医者と同じレベルの責任感とやりがいのある仕事なのだ」と伝えていただきたい。
自動車の進化に教育現場はどう向き合うべきか
――自動車技術の進化が著しい。教育現場での対応は?
森 今後、車体整備士の資格にも電子制御装置整備の分野が入ってくるので、当然カリキュラムに加え、授業に採り入れていく。水性塗料やOBD(車載式故障診断装置)など、世間の流れに合わせ、同じ動きが取れるように対応している。やはり、教育の現場と実際の作業の現場に乖離があってはいけないと考えており、就職先で困らないよう世間の当たり前を教えていきたい。
学校としては車体整備の進化に合わせて設備もそろえていきたいが、溶接機のように毎年、鋼板が変わりどんどん強度が上がり、それに対応するように設備を更新させていくことはなかなか難しい。2、3年前に買ったものが使い物にならないということになれば、教材は減価償却の都合上、最低でも7年から10年は使用する必要があり、常に最新設備をそろえるのは困難。なのでそういった設備機器に関しては、基本性能は変わらないが、最新設備はこういった性能がアップしているといった説明を補足していくことで、時代に合わせた教育方法で対応していくつもりだ。
篠田 私の工場には、まだ昭和の工具や設備機器がゴロゴロある。ただ、古いものがダメとは思わず、対応しきれていないところは応用力が重要で、整備よりも特殊工具を自分で作らなければいけない職種のイメージがある。私も先代からそう教わってきて、売っているものだけでは対応できない場面もある。
森 我々教員が工場の現場を頻繁に見ることはできないので、今教えていることが本当に新しいのか、古いのか、判断が難しい部分もある。たとえば、フレーム修正装置もジグ式を導入したが、実際は現場でどの程度、どのように使われているのか。または、昔ながらの床式のほうが重宝されているのか、その実態を正確に把握したいという思いがある。だからこそ、学生をインターンに行かせて現場を知ってもらうことが非常に重要だと考えている。
的野 本校でも、就職活動が本格化する前の5月か6月ころに、ディーラー内製工場や専業工場などへ足を運び、そこで設備や働き方の違いを見学させてもらっている。ただ、見学先が固定化しがちなので、また違う工場を見学させてもらえる機会があれば、ぜひお願いしたいと思っている。