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OBD検査本格運用から1年半!自動車整備事業者に迫るコンプライアンスの危機と法的責任

~コンプライアンス違反は”経営上の死”に直結する~

  • #コラム

2026/04/23

 現在、車の電子制御化に伴って自動車整備事業には厳格な法令遵守が求められている。国土交通省は自動車の電子化・高度化に伴う安全確保のため、法定検査にスキャンツールを用いたOBD検査を2024年10月より本格運用を開始した。自動ブレーキなどの先進運転支援システム(ADAS)普及により、従来の整備だけでは車両安全性の担保が困難になったことが背景にある。

 この記事では、自動車整備事業者が遵守すべきコンプライアンス要件を整理し、道路運送車両法(以下、車両法)だけでなく道路交通法(以下、道交法)の視点も交えながら、現場の同要件に関するアドバイスを提案したい。

法定検査とコンプライアンスの重要性

 自動車の運行と整備を規定する法律として、車両法と道交法が存在することを正しく理解することがコンプライアンスの初手だろう。

 車両法は、国土交通省が管轄し、自動車が公道を安全に走行するための保安基準への適合性確保及び所有権などの公証を目的とする。具体的には、自動車が公道を安全に走るための基準を満たしているか、誰がその車の持ち主であるかを国が確認及び登録する制度であり、点検整備や認証・指定制度を包括して規定している。対して道交法は、警察庁が管轄し、歩行者や運転者を対象とした道路における危険防止や交通の安全と円滑化を図ることを目的としている。これらの法令において注視すべきは、法令の運用上の「責任の所在」である。

 道交法では、基準に適合していない車両を運転することを問題視し、これは運転者の責任範囲となる(道路交通法第62条)。一方車両法では、車両が保安基準に適合している状態であるかどうかが要ではあるものの、適合状態を維持する大原則の責任は、整備事業者ではなく自動車の使用者(多くの場合は所有者)に帰属する(道路運送車両法 第54条)。

 つまり、なじみの整備事業者に車検や定期点検を依頼したとしても、法律上の「保安基準に適合させる義務」そのものが整備事業者に丸投げされるわけではなく、あくまでカーオーナーが自身の義務を果たすために、専門家である事業者に実作業を委託したという構造になる。

 では整備事業者が責任を負うケースはないのかというとそうではない。仮に不適合状態の原因に起因する事故が起きた場合、点検・整備を実施した事業者が民事、行政上の責任を問われうる。

 

70万台超のデータが示すOBD検査の現状と、厳罰化される「特定DTCの隠蔽・改ざん」リスク

 OBD検査については、運用状況の確認や見直しなどを検討する「OBD検査モニタリング会合」を国土交通省が設置している。その資料によると、2024年10月の制度開始から2026年1月までの累計検査台数は70万4,082台であり、不適合率は3.4%であった。

 また、2024年10月の制度開始から2026年1月までの累計検査台数は70万4,082台。このうち不適合に1度でもなった車両は2万3,799台あり、全体の不適合率は3.4%であったと公表されている。2025年10~12月期の不適合率は2.5%、直近の2026年1月は2.1%と段階的な改善傾向を示している。この結果については、人気車種の初回車検の時期との重複もあったがおおむね順調な運用と報告されている。

 これらの不適合率の低下は現場の習熟を示す一方で、不適合車両を迅速に処理しなければならないという現場への圧力が定常化する危険性も内包している。待ち時間を減らすために不正な手順を踏むリスクが懸念され、経営側は、コンプライアンス違反が事業停止などの”経営上の死”に直結することを全従業員に周知徹底しなければならない。

 現場において厳しく処分される事案の1つが、特定DTC(故障コード)の隠蔽や改ざん行為である。車両法第94条の5では、指定工場に対し保安基準適合証の虚偽記載を禁じており、特定DTCが検出されているにもかかわらず診断機を不当に操作してエラーを消去し、適合として書類を発行する行為が該当する。また、故障している車両の代わりに正常な車両のOBDデータを送信する、いわゆる「替え玉」行為も国土交通省の通達により固く禁じられている。今年中にシステム連携を改修し、OBD検査未実施のままでは適合証を交付できないよう物理的にブロックする対策も予定されている。

通信エラーの放置は道交法違反に?情報管理とシステム不具合への適切な対応策

 整備事業者が、OBD検査において警告灯の点灯や特定DTCの存在といった不適合状態であることを認識していながら、根本的な整備を行わずに公道を走らせる行為は、整備不良車両の運行を黙認・助長したとみなされうる。高度運転支援システム(ADAS)の異常放置に対しては管轄省庁も厳しい姿勢を示しており、システム異常を放置して納車し、それが原因で交通事故が発生した場合、整備事業者は重い責任が問われる。

 また、使用する検査用機器の不具合が意図せぬ法令違反を引き起こす場合もある。現場で使用される「特定DTC照会アプリ」において、Android版を利用した場合に一部の車両との互換性の問題から通信エラーが表示される事象が報告されており、国土交通省等は該当車両に対してWindows版の利用を推奨している。通信エラーを安易に見過ごさず「通信エラーが出たから対象外だろう」と自己判断して検査を省略し納車することは、重大なコンプライアンス違反へと発展する。

 さらに、検査用スキャンツールやシステムの運用に関する情報セキュリティー管理の徹底も急務である 。IDや電子証明書の使い回し、自社IDの貸与や他人のIDを利用するなりすまし行為は、不正アクセス禁止法違反にも該当しうる。

混同注意!「OBD検査」と「特定整備」の違い、車検証「OBD検査対象」表示の落とし穴

 また現場で起こりうるのは、OBD検査と電子制御装置整備(特定整備)という2つの対象車種の混同である。電子制御装置整備を適正に実施するには特定整備認証の取得が不可欠であり、無認証作業は明確な法律違反となる。エイミング結果の数値を改ざんする、または実施していないのに「完了」と特定整備記録簿に虚偽記載する行為は、指定取消の最有力事由として処分される。

 一方、OBD検査は主に2021年10月以降に生産された新型車が対象となる。この制度的差異による現場の誤認を防ぐため、登録車は2026年4月より車検証備考欄に【OBD検査対象】と明記されるシステム的なサポート改修が行われる。しかし、「車検証に記載がないからエイミングも不要だろう」という誤りを引き起こしかねず、「特定整備は古い車両にも適用されうる」という原則を再認識し、自社が取得している認証の範囲を正確に把握する責任がある。

中古車販売のリスクヘッジと、自社を守る「標準作業フロー」の徹底による見える化

 中古車販売時、点検・整備を行わないで現状販売する場合、販売店にOBD検査を完了させる車両法上の法的義務は発生しない。しかし、車検証にOBD検査対象の記載がある車を、OBDに異常がないことを確認せずに販売すれば、納車後にセンサー異常が発生した場合に顧客からの信用は下がってしまう。すべての販売車両に対して事前のDTCスキャンを自主基準として義務付けることが最良となる。

 行政処分や法的リスクを回避するためには、国土交通省の制度に準拠した標準作業フローを現場に徹底させることが最大の防衛策となる。具体的には、以下のフローを現場すべての作業者が自身のIDで行う。

車両受付: システムへの車両情報の入力を行う

検査要否確認を実施: 対象車両であるかを確認

検査実施: 検査用スキャンツールを接続して車両に記録されたDTCを読み取り、合否判定を行う

検査結果確認: 検査用スキャンツールを接続したまま過去実施したOBD検査の結果を参照システムで参照し、適合・不適合に応じた工程へ進む

 今後、OBD検査時にPDF出力される帳票について、「検査実施者氏名の記載」がシステム改修される方針が示されており、「誰が最終的な適合判断を下したのか」という責任の所在がデジタルデータとして明確に記録されるようになる。無資格者による検査やIDの使い回しは即座に行政処分の対象となる危険性を孕んでいるため、事業者は公的指針に基づいた厳密な情報管理体制を構築し、透明性の高い整備を実践することが生き残る唯一の道である。

 車体整備事業者において遵守すべき各種法規制については、日本自動車車体整備協同組合が「コンプライアンス・チェックシート」にとりまとめている。また、コンプライアンス対応を含む消費者に対する透明性確保に向けた事業者の取り組み等については、月刊ボデーショップレポート4月号の特集で取り上げているので、参考にしていただきたい。