JOURNAL 最新ニュース
鈑金塗装工場での化学物質の取り扱い
~労働安全衛生法改正、化学物質の対象拡大と自律的管理~
2026/04/13
■目次
1.SDS対象物質の拡大、自律的管理へ完全移行
2.自律的管理の対象拡大や個人事業者への法適用はなぜ
3.工場での対策について
1.SDS対象物質の拡大、自律的管理へ完全移行
2024年より段階的に進められていた労働安全衛生法に基づく化学物質の”自律的管理”への移行が、2026年4月1日をもって節目を迎えた。本改正によりラベル表示、SDS(安全データシート)の交付及びリスクアセスメントの実施を義務付ける対象が、危険性や有害性が確認されているすべての物質(約2,900物質)へと拡大されている。
出典:労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号) 概要より抜粋
2.自律的管理の対象拡大や個人事業者への法適用はなぜ
また、厚生労働省による「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)」の施行に伴い、現場の安全管理にも転換期が訪れている。
従業員と同じ場所で働く個人事業者等(一人親方やフリーランス)が、法的な保護対象及び義務の主体として明確に位置付けられた。これにより、自社工場内で作業を委託している外注の技術者と混在して作業を行う場合、注文者(経営側)による作業間の「連絡調整」などの安全措置が義務化された。経営者や工場長は「特定の有害物質を使っていない」、「外注の技術者は自社の労働者ではないから関係ない」という認識を持っているのであれば改め、現場全体を俯瞰した安全管理体制の構築が迫られている。
これまでの特定物質に対する個別規制から管理者主導の自律的管理へと大きく舵を切り、対象物質を拡大した背景には、従来の法体制では多様化する化学物質による労働災害を防ぎきれないという事実もある。
厚生労働省の「個人事業者等に対する安全衛生対策のあり方に関する検討会 報告書」では、近年発生している化学物質関連の労働災害の約8割が、従来の「個別規制の対象外であった物質」によって引き起こされていた旨もあり、国の法規更新が追いついていなかった可能性を示唆していた。
加えて、過去の建設アスベスト訴訟などの最高裁判決を契機として、雇用関係のない一人親方やフリーランスであっても同じ現場で有害な化学物質のばく露リスクに晒されている実態を重く見る傾向が強い。その結果、企業規模や雇用形態にかかわらず、現場を統括する注文者が混在作業のリスクを管理し、同じ空間にいる全員の健康を担保する仕組みが法的に必要となった。
出典:労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号) 概要より抜粋
3.工場での対策について
では、鈑金塗装工場でどのような対策を講じるべきなのだろうか。最後には、参考として管理者の資格要件や関連情報リンクを載せているので活用していただきたい。
①危険性や有害性のある取り扱い製品のSDS収集及び管理システムを作る
溶剤系塗料だけでなく、パテやコンパウンド、部品の洗浄液も含め、危険・有害性が確認されているすべての製品について最新のSDSを入手し、現場の技術者が常時閲覧できる体制にすることが求められる。今回の改正では、供給側によるSDSの通知義務違反に罰則も設けられている。経営者はこの体制を現場任せにするのではなく、タブレット端末など、確実な情報共有環境の構築に予算を投じるのも推奨される。最初は社内のWebクラウド上に共有フォルダを作成し、スタッフが見られるようにするだけでも良いだろう。
②リスクアセスメントの実施とばく露防止策への設備投資
SDSを基に、作業環境下でのリスクアセスメント実施が義務付けられている。経営者や工場長はその結果に応じて有機ガス用防毒マスク、保護メガネ、耐溶剤手袋といった適切な保護具を選定し支給する。2024年4月からは、従来一部業種で認められていた雇入れ時教育の省略規定が撤廃されており、化学物質を取り扱うすべての現場で安全衛生教育が必要となっている。女性技術者も増加し、人材不足で悩む工場にとって、安全管理に注力していることを自社ブランドの一つとして活用してしまうのも手だろう。
③現場管理の徹底と安全体制の再構築
2024年より選任が義務化されている化学物質管理者及び保護具着用管理責任者を中心に、現場管理の実効性を高める必要がある。2026年4月の改正法の施行により、個人事業者(一人親方)との混在作業における連絡調整が注文者側の義務となった他、個人事業者自身にも安全衛生教育の受講や要求された保護具使用が義務付けられた。また、行政手続のデジタル化に伴い、2025年1月1日より「労働者死傷病報告」や「定期健康診断結果報告書」などの特定の報告業務について、電子申請が原則義務化されている点にも注意が必要である。
2024年4月の法改正施行により、段階的にリスクアセスメントの対象が約2,900物質へと拡大されたことで、鈑金塗装工場における化学物質管理は”自社のリスクを自ら可視化して最適な対策を講じる”という自律性が求められている。膨大な化学物質の管理などは事業者にとって負担増となるが、法令遵守を機に安全な職場環境を整備することは、重大な労働災害による経営リスクを未然に防ぐ防波堤となる。同時に、大切な従業員や協力業者の健康を守り、次世代を担う若手技術者が安心して働ける組織基盤を築くための重要なプロセスでもある。経営者がリーダーシップを発揮し、自律的な安全衛生管理を現場へいかに定着させられるかが、今後の運営における重要な鍵となる。
【参考】管理者の資格要件、関連情報リンク
■化学物質管理者(取扱事業場向け)
現場におけるリスクアセスメントの実施、ばく露防止措置の検討、SDS(安全データシート)の管理など、事業場における化学物質管理全般を統括する。
・資格要件:鈑金塗装工場のように、自社で化学物質の”使用のみ”を行う事業所(取扱事業場)では、管理者の資格要件は定められていない。ただし、関連法令やリスクアセスメントの手法を学ぶ合計6時間の講習を受講した者から選任することが国から推奨されている(化学物質の製造事業場では12時間の講習受講が義務となるが、通常の鈑金塗装現場は対象外であり、6時間コースが推奨される)。
■保護具着用管理責任者
リスクアセスメントの結果で有効な保護具の適切な選択やスタッフへの使用方法の指導及び保守管理を行う。
・資格要件:塗装作業を行っている工場であれば、有機溶剤作業主任者などがすでに選んでいるケースがほとんどだろうが、各種作業主任者(有機溶剤、特定化学物質、鉛など)といった、法令”保護具に関する知識及び経験を有すると認められる者”に該当する有資格者が社内にいない場合は、厚生労働省の通達に基づいた専用の教育(保護具着用管理責任者教育)を受講した者から選任することが求められる。具体的には、関係法令や保護具に関する知識を学ぶ学科科目(5時間)と、実際の使用方法やフィットテストなどを学ぶ実技科目(1時間)の計6時間の講習(保護具着用管理責任者教育)を修了した者を選任する必要がある。
■関連情報・参考リンク
・保護具着用管理責任者に対する教育の実施について(厚生労働省):具体的なカリキュラム(計6時間)について定めた公式通達
・労働安全衛生法の新たな化学物質規制について(厚生労働省) :制度の全体像や最新の施行スケジュール
・職場のあんぜんサイト:リスクアセスメント等(厚生労働省) :無料のリスクアセスメント支援ツール「CREATE-SIMPLE」などが利用可能。
・化学物質総合情報提供システム NITE-CHRIP(独立行政法人 製品評価技術基盤機構):自社で使用する成分が規制対象(約2,900物質)に該当するか検索できるデータベース。