JOURNAL 

EV3台を比べたら、補助金で価格表がバグった

339万円のSuper-ONEが119万円に!? e SKY・RACCOと比べて見えた、EV補助金の「安さ」のカラクリ

  • #コラム

2026/10/08

私は優雅にコーヒーを飲みながら、EVの価格表を眺めていた。

スズキ「e SKY」212万円。

「おお。軽EVとしては、かなり現実的な価格だな」

次にホンダ「Super-ONE」。339万200円。

「……おお?」

もう一度見る。

339万200円。

「高いな」

さらに補助金を見る。

国のCEV補助金、130万円。

「……ん?」

東京都の補助金を見る。

条件を満たせば90万円。

「……んん?」

電卓を叩く。

339万200円-130万円-90万円

=119万200円。

「…………119万円?」

コーヒーを一口飲む。

「……補助額、実に220万円?」

まずい。

いや、コーヒーではない。

価格表がおかしい。

212万円の軽EVより、339万円のEVのほうが「補助金を引いた後の数字」ではとんでもなく安く見えてしまう。

いやまてよ...

212万円の軽EVも補助金入れると…

え!?110万円!?

って9万円しか差が無い!?

もちろん、実際には誰でも補助金が使えるわけではない。

居住地、登録時期、給電機能、電力契約、設備、予算残額…
条件がいろいろある。

つまり、EVを買うだけなのに、いつの間にか入試問題になっている。

そこで今回は、スズキ「e SKY」、ホンダ「Super-ONE」、BYD「RACCO」の3台を並べてみた。すると、単純な「安い・高い」では説明できない、妙な世界が見えてきた。どうやら現在のEV市場では、

「車をいくらで売るか」だけでなく、

「補助金をいくら引っ張ってこられる車にするか」

までが商品設計になっているらしい。

……いや、車の値札って、こんなに難しかったっけ?

というわけで、今回はこの「EV価格表のバグ」を追ってみたい。

「339万円が119万円になる」という事件

車両価格だけでは決まらないCEV補助金

国のCEV補助金は、「EVなら一律でいくら」という単純な制度ではない。車種ごとの性能と、メーカーによるさまざまな取り組みを総合的に評価し、車種別の補助額を決めている。

令和8年度の評価基準では、合計200点のうち、車両ごとの評価が45点、企業ごとの評価が155点となっている。前年まで以上に、メーカー側の取り組みを重視する配点だ。

参考:CEV補助金における評価の基準について(令和8年度)

評価対象には、主に次のような項目が含まれる。

  • 電費や一充電走行距離などの車両性能
  • 外部給電機能
  • 車両・車載電池の火災防止に向けた取り組み
  • 公共用急速充電器などの充電インフラ整備
  • 主要部品や重要鉱物の安定確保
  • 車両のサイバーセキュリティ
  • 整備拠点と整備人材の確保
  • バッテリーの再利用・リサイクル
  • 自治体と連携した災害対応

つまり、補助金はバッテリー容量や航続距離だけで決まるわけではない。購入後も安心して使える環境を、メーカーがどこまで整えているかも評価される。

この仕組みが、同じEVであっても車種やメーカーによって補助額が大きく異なる理由である。

Super-ONEは国の補助金130万円

ホンダ「Super-ONE」の価格は339万200円。これに対し、国のCEV補助金は130万円となっている。

東京都のZEV車両購入補助金では、初度登録・検査日が令和8年7月1日以降の場合、給電機能ありEVの基本補助が30万円、メーカー別の上乗せ補助でホンダが60万円、で合計90万円となる。

その場合の計算は、次のとおりだ。

339万200円
− 国のCEV補助金130万円
− 東京都のZEV補助金90万円
= 補助金を全額受給できた場合の車両本体ベースの実質負担相当額:119万200円

※販売店での購入時に車両価格が119万200円へ直接値引きされるという意味ではありません。補助金の申請、審査、交付が必要で、登録諸費用、保険料、税金、リサイクル料金、オプション費用などは別途かかります。

東京都では、V2Hなどの充放電設備を導入した場合に最大10万円が加算。
さらに、再エネ100%電力契約の場合は15万円、太陽光発電設備を導入した場合は30万円が加算されるが、再エネ電力契約と太陽光発電設備の加算は、いずれか一方を選択する制度となっている。

ただし、誰もが最大額を受け取れるわけではない。登録日、居住地、設備、電力契約、申請時点の予算残額などによって、利用できる制度と金額は変わる。

「実質100万円台」という言葉を見るときは、どの地域で、どの条件を満たした試算なのかを確認する必要がある。

確認する必要があるのだが…その補助額はなんと220万円!!

…ここまで来ると、少し不思議である。

車を買おうとしている。
なのに評価されているのは、車の性能だけではない。

充電器。
整備士。
部品。
鉱物。
サイバーセキュリティ。
リサイクル。
災害対応。

…車、どこまで責任を負わされているんだ。


まぁ…ええかぁ。

補助金、よく見たら「車」だけを見ていなかった

補助後価格で見えてくる3台の違い

気を取り直して、スズキ「e SKY」、ホンダ「Super-ONE」、BYD「RACCO」を並べてみよう。

比較項目

スズキ e SKY

ホンダ Super-ONE

BYD RACCO

車両区分

軽乗用EV

小型乗用EV

軽乗用EV

車両価格

212万~279万円
※212万円のAグレードは受注生産

339万200円

214.5万~249.7万円

WLTC航続距離

310km

274km

最大320km

国のCEV補助金

56.8万円

130万円

15万円

最廉価車の国補助後価格

約155.2万円

約209万円

約199.5万円

戦略の特徴

車両価格と電費

高い制度適合性

軽スーパーハイトの商品性

e SKYは、2026年10月時点で全グレードのCEV補助金が56.8万円と案内されている。最廉価グレードの212万円から差し引くと、自治体補助を含めない負担額は約155.2万円となる。

Super-ONEは、国の補助金だけを適用した場合は約209万円。この時点でも補助金額130万円である。

一方、RACCOの国のCEV補助金は15万円だ。214.5万円のグレードで計算すると、国補助後の価格は約199.5万円となる。BYD公式では、税制優遇を含む優遇総額を約16万円としている。

ここで重要なのは、軽EVだから同程度の補助金が出るとは限らないことだ。

e SKYとRACCOは車両価格が近いが、国の補助金には41.8万円の差がある。その結果、この段階ではe SKYの方が大幅に低い負担額となる。

次に東京都で比較してみよう。

車種

e SKY A

Super-ONE

RACCO 200

車両価格

212万円

339万200円

214.5万円

国のCEV補助金

56.8万円

130万円

15万円

東京都ZEV補助金※

45万円

90万円

40万円

国補助後価格

155.2万円

209.0万円

199.5万円

国+東京都補助後価格

110.2万円

119.0万円

159.5万円

東京都の補助制度まで加えると、3台のキャラクターはさらに鮮明になる。

e SKYは、もともとの車両価格の低さに加えて東京都の補助も大きく、最廉価グレードなら補助後110.2万円。価格と電費を武器にするe SKYにとって、補助制度はまさに追い風だ。

Super-ONEは、車両価格こそ339万円と最も高いものの、国・東京都を合わせた補助額は220万円。表で見た「高い制度適合性」が、そのまま補助後価格119万円という数字に表れている。

一方、RACCOは軽スーパーハイトという商品性を持ちながら、補助後価格は159.5万円。価格だけで比べれば2台に及ばないが、補助金の大きさだけでは測れない商品性をどう評価するかがポイントになる。

同じEVでも、補助金を入れると「何を強みにしている車なのか」が、むしろ見えやすくなる。

e SKY「普通に安くします」
Super-ONE「制度も味方につけます」
RACCO「スライドドアで殴ります」

メーカー3社が示した「三つの解」

1. そもそも車を安くするスズキ e SKY:価格で殴る全国型の低負担戦略

e SKYの強みは、補助金を適用する前から車両価格が低いことだ。

最廉価グレードは212万円。26kWhのリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを搭載し、WLTCモードで310kmの一充電走行距離を確保している。CEV補助金は56.8万円で、国補助後の価格は約155.2万円となる。

自治体独自の補助が少ない地域でも、購入時の負担額を抑えやすい。住む場所によって有利不利が大きく変わりにくいことが、e SKYの特徴といえる。

ただし、最廉価グレードと上位グレードでは装備に違いがある。価格だけで判断せず、日常的に必要な装備を確認したい。最廉価グレードは、受注生産である事はもちろん、急速充電ポートなし、USBソケットなし、スピーカーなし、オーディオなし、舞踏会に行く人がお化粧直しのときに使うミラーなし、しまいには後部座席のウィンドウに開閉機能がなし、というほどの割り切りを見せている。

これは、補助金の最大化よりも、車両価格、電費やすさを優先した「コスパ最強」のアプローチである。

2. 補助金を最大限使えるホンダ Super-ONE:制度で殴る制度適合型戦略

Super-ONEは、車両価格だけを見れば3台の中で最も高い。

しかし、国のCEV補助金は130万円。東京都では基本的な車両補助と給電機能分を合わせた90万円の例があり、合計220万円の補助によって参考価格は119万200円となる。

この結果、補助制度を十分に利用できる地域では、鬼の様な補助額が実現する。

ただし、これは、充電インフラ、供給安定性、整備体制、給電機能、災害対応などを評価する制度に、車両とメーカーの取り組みが適合した結果だ。令和8年度は企業ごとの評価が155点を占めており、この傾向が制度上より鮮明になっている。

参考:CEV補助金における評価の基準について(令和8年度)

Super-ONEは、車両本体を安くするのではなく、国や自治体が重視する機能と利用環境を整えることで、補助後の競争力を高めた「制度適合型」の商品と見ることができる。

3. 「補助金? それよりスライドドアだ」BYD RACCO:ニーズで殴る商品パッケージ型戦略

RACCOの特徴は、補助金額よりも商品そのものにある。

軽自動車市場で支持されやすいスーパーハイト系のボディーとみんな大好きスライドドアを採用し、ファミリー層の日常利用を意識したパッケージを214.5万円から用意した。

一方、国のCEV補助金は15万円で、e SKYの56.8万円、Super-ONEの130万円とは大きな差がある。

したがって、RACCOを「補助金によって最安を狙う車」と位置づけるのは適切ではない。

むしろ、補助金上の不利があっても、みんな大好きスライドドアや快適室内空間、日常での使い勝手、購入しやすい車両価格によって選ばれることを目指した商品といえる。

e SKYが低い負担額を武器にし、Super-ONEが制度適合性を武器にするなら、RACCOは軽スーパーハイトとしての商品性で勝負する。これが3台目の解である。

消費者は何を基準に選ぶべきか

自治体補助が少ない地域

購入時の負担額を最優先するなら、e SKYが有力になる。

最廉価グレードでは、国の補助金を適用した段階で約155.2万円。RACCOの約199.5万円、Super-ONEの約209万円より低い。

ただし、スライドドアや室内高、急速充電、走行性能など、求める条件によって選択は変わる。価格だけでなく、自分の使い方に必要な機能を含めて比較すべきだ。

東京都など補助が手厚い地域

東京都で給電機能などの条件を満たす場合、e SKYやSuper-ONEの価格競争力は大幅に高まる。

V2H、再エネ電力、太陽光発電などの追加条件を満たす場合は、多額の補助が上乗せされる可能性があるのだ。

ただし、設備を新たに設置する場合は、その導入費用も含めて考える必要がある。「車両の補助後価格」と「実際の総支出」は同じではない。

みんな大好きスライドドアと快適室内空間を重視する場合

子育て、介護、狭い駐車場での乗降など、みんな大好きスライドドアと快適室内空間を、明確に重視する場合は、RACCOが候補になる。


国の補助額だけを比べれば不利だが、車は補助金を受け取るためだけに買うものではない。毎日の使いやすさに価値を感じるユーザーにとっては、価格表だけでは測れない選択肢となる。

「補助後価格」の前に確認したいこと

EVの実質価格を比較するときは、次の条件をそろえる必要がある。

  • 比較しているグレードは同等か
  • 国の補助金額は、その登録時期に適用されるものか
  • 自治体の補助に居住地や登録日の条件がないか
  • V2H、再エネ電力、太陽光発電などの追加要件がないか
  • 補助事業の予算が残っているか
  • 車両価格にオプションや諸費用が含まれているか
  • 保有義務期間内に売却する可能性がないか

補助金を受けた車両には原則4年、一部の車両には3年の保有義務がある。もし期間内に売却や処分を行う場合は、事前の承認手続きと補助金の返納が必要になる。

参考:R7年度補正CEV補助金のご案内_CEV補助金_CEVの補助金交付を行う次世代自動車振興センター

数年で乗り換える予定がある人は、受け取れる補助金だけでなく、将来の売却計画まで含めて判断した方がよい。

結論:EV市場は「車両価格」だけでは読めない

e SKY、Super-ONE、RACCO。

3台を比べて分かったのは、EVの価格はカタログだけでは決まらないということだ。

e SKYは、低い車両価格と56.8万円の国補助によって、自治体を問わず負担を抑えやすい。

Super-ONEは、130万円の国補助と自治体支援を組み合わせることで、条件が整った地域では車両価格から想像しにくい低負担を実現する。

RACCOは、国の補助金では不利だが、軽スーパーハイトとみんな大好きスライドドアという、日本市場で分かりやすい商品価値を前面に出す。

三つの車が示しているのは、単なる価格競争ではない。

車両価格を下げるのか。制度が評価する価値を高めるのか。補助金以外の商品性で選ばれるのか。

メーカーの戦略によって、EVの「安さ」の作り方そのものが違っている。

スズキが2026年10月6日にe SKYを発表し、11月16日の発売を予定したことで、200万~300万円台のEV市場は、さらに比較の難しい領域へ入った。

参考:軽EVクラストップの電費を実現、スズキ新型「e SKY」を発表 | BSRweb | 株式会社プロトリオス - PROTO-RIOS INC.

買う人に必要なのは、カタログ価格だけを見ることでも、補助金の最大額だけを見ることでもない。

自分の住む地域、充電環境、必要な装備、保有期間まで含めて、本当の負担額を計算することである。

すべて紐解けた……気がする。

e SKYは車そのものが安い。
Super-ONEの補助金額は化け物級だ。
RACCOは補助金より「軽スーパーハイト」という商品で勝負する。

つまりEVの価格とは、

車両価格 − 補助金 = 支払額

……ではない。

車両価格 − 国の補助金 − 自治体の補助金 − 条件 − 申請 − 予算残額 − 設備費 − 私の理解力

である。

そして最後に残るのは、

「結局いくらなんですか?」

という、もっとも素朴で、もっとも答えにくい質問である。


そう思いながらカップを見つめた。

コーヒーは、完全に冷めていた。