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    国交省・機構、第1回「OBD検査モニタリング会合」を開催(後編)

    OBD検査対象装置拡充、「標準仕様の汎用スキャンツール」開発・普及促進策の2024年度内決定方針を示す

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    2024/12/05

     国土交通省および自動車技術総合機構(機構)は2024年12月2日、第1回「OBD検査モニタリング会合」をAP東京八重洲(東京都中央区)で開催した。

     事務局は国交省物流・自動車局自動車整備課と機構OBD情報・技術センター、構成員は日本自動車工業会(自工会)、日本自動車輸入組合(JAIA)、日本自動車機械器具工業会(自機工)、日本自動車機械工具協会(機工協)、日本自動車整備振興会連合会(日整連)、日本自動車車体整備協同組合連合会(日車協連)、日本自動車連盟(JAF)、軽自動車検査協会(軽検協)、交通安全環境研究所。

    <前編の記事はこちら(https://bsrweb.jp/news/detail.php?id=002187)>

     今回の第1回会合では、2024年10月1日より開始されたOBD検査において、同年11月7日までに関係者を通じて得られた課題についても確認。国交省物流・自動車局自動車整備課の村井章展(むらいあきのぶ)整備事業指導官は「本番が始まると急増し、今回53件報告された」と述べ、一部抜粋して説明した。それらの要約は以下の通り(各課題の文末()内は意見元、「↓」以下は国交省および機構の対応)。

    国交省の村井章展指導官

    ●ダイハツのOBD検査対象車で、車線逸脱警報装置を車載のスイッチでオフにしてOBD検査を実施したところ不適合となった(指定工場)

    自動車メーカーにも確認したが、車線逸脱警報装置のオン/オフはOBD検査の結果に影響を及ぼさない。

    ●OBD検査対象装置である任意装備の安全系の装置を取り外したい旨の相談を受けた。これを取り外した場合は、(装置が存在しないため)自己診断がエラーとなり、特定DTCが検出されると考えているが、装備義務のない任意装置であっても保安基準不適合になるか(軽検協)

    搭載が義務でない装置(if fittedの保安基準が適用される装置)を取り外しても保安基準不適合となはらない。なおその場合、自動車メーカーが定めるところにより、当該メーカー系列の整備工場(ディーラー等)で当該装置を無効にするとともに、特定DTCが記録されないようにする改造(ソフトまたはハード)とその証明書が必要となる。また、運転席の表示等により、当該装置の機能がオフとなっていることを運転者が理解できるようにする必要がある。

    ●燃料装置を改造(ガソリン⇒ガソリン LPG)をした車両でOBD検査が実施できない(合否判定されない)ケースがあった(型式:3BD-S700B改)。受検者が架装メーカーに問い合わせたところ、コネクタを抜くことでOBD検査可能との案内があった。指定されたコネクタを抜いて、再度OBD検査を実施したところ適合となった(軽検協)

    OBD検査が始まる前より、排出ガス関係の通信が成立しない場合は車検不適合。そのような改造はしないこと。加えて特定DTCが記録されている場合には基準不適合。

    ●OBD検査不適合となった車両の不適合状況を確認したところ、リヤソナーの通信途絶と表示された。OBD検査の対象装置は衝突被害軽減ブレーキなど前方の障害物を検知する装置のはずだが、後方検知向けセンサーの不具合を特定DTCとしOBD検査不適合とするのはやり過ぎではないか(機構)

    OBD検査の対象装置となる装置は様々なセンサーからの情報により制御されている。リヤソナーもその一つであり、故障した場合はOBD検査の対象装置にも影響が生じるおそれがあることから、その場合は当該装置のDTCも特定DTCに該当する。

    ●OBD検査が不適合であっても、警告灯が点灯していないものがあり、「過去故障」が特定DTCとなっているのではないかと推測される。「過去故障」は、故障の前兆の場合もあれば、前方カメラ等はフロントガラスの一時的な結露等でもDTCが記録されてしまうようなので、このようなDTCで不適合となっている車両が多いのではないか(機構)
    ●汎用の整備用スキャンツールでは「過去故障」のDTCを確認できないものもある(振興会)

    排ガス系の場合には保安基準の中で過去故障が完全に定義されているので、過去故障、現在故障、仮故障の分類が可能だが、安全系にはその定義がない。さらに、それを検出する整備用スキャンツールにおいても定義がないため、使用するスキャンツールで「過去故障」と表示されても、その定義が決まっていない。

    一方、特定DTCが記録される場合、保安基準に適合しない故障の存在が診断されることは間違いない。つまり以前故障があり、その後完全に治ったが残っている、というものではない。「過去故障」と表示されても特定DTCにならないとは言い切れない。

    なお、フロントガラスの一時的な結露で記録されるDTCで車検不適合になったという事例はない。

    また、整備用スキャンツールの性能はメーカー・機種によって異なり、性能が低いものでは検出できないDTCも存在し得る。検査用スキャンツールにより「OBD確認」を行うことにより、特定DTCの有無を正確に確認可能。検査用スキャンツールで特定DTCが検出され、使用する整備用スキャンツールでは確認できない、消去できない等の場合は、最寄りのディーラーに持ち込む必要がある。このような事例が増えると専業工場やディーラーの負担が増えるため、整備用の汎用スキャンツールの機能強化についても行政の方で取り組みを強化していく。

    ●カーナビのテレビを走行中も視聴可能にするため車速センサーを改造したことで特定DTCが検出される車両がある(運輸局)

    車速センサーはABS等の制御に用いられることから、改造した場合、特定DTCが記録される可能性がある。

    OBD検査の課題収集スキーム

    ●整備作業後はスキャンツールを使用してエラーコード等を消去しているが、その後、OBD検査を実施すると「レディネスコードなし」で不適合になってしまう(指定工場)

    レディネスコードが記録される条件は車種ごとに異なるが、特定の車種で懸念の課題があることについては当該自動車メーカーに伝達済。

    ●OBD検査対象車は排出ガス検査や速度計の検査を省略してもいいのではないか(軽検協)

    既存の点検整備・検査項目をOBD検査に置き換えることについては、技術的妥当性を検証しつつ検討中。速度計はOBD検査の対象装置でないため代替は困難。

    ●車検証の備考欄に「OBD検査対象」の記載がなかったが、特定DTC照会アプリで、「OBD検査要」と判定されたため、運輸支局に問い合わせたところ、「OBD検査対象車」であることがわかったものがあった(指定工場)

    一部の車検証(約200台)において、備考欄の「OBD検査対象」の記載漏れがあった。これらの車検証について補正処理を行うとともに、再発防止策を進めている。本件は行政の瑕疵によるものなので、仮に備考欄未記載の車両についてOBD検査未実施となった場合であっても当該整備工場が処分されることはない。


     これらのうち「フロントガラスの一時的な結露で記録されるDTCで車検不適合になったという事例はない」ことについて、日整連の根本正之氏は「ガラスの曇りというDTCは存在せず、車両側はカメラの異常と検知するだろう」と指摘した。

     これに対し村井指導官は「私はよく『カメラの前に落ち葉が落ちて一瞬異常状態になっても、それがなくなるとそのDTCの異常状態が解消されるので、それは特定DTCにならない』と説明している。だがこの一時的な結露で記録されるDTCが特定DTCになることはあり得るのか」と質問。

     自工会の安部高広氏は「『車載式故障診断装置を活用した自動車検査手法のあり方検討会』最終報告書にも事例が載っており、それに基づいて特定DTCを選定している。「カメラ視野に障害物検知」「焦点が合わない」など、DTCは差別化して検出できるようになっている。なお、そうした場合に警告メッセージは表示される」と回答した。

     根本氏はさらに「警告灯は消えるがその情報が一時的なDTCとして残る、警告灯が点灯していないにもかかわらず特定DTCが出る、ということはありえないのか」と問うた。

     村井指導官は「特定DTCの選定基準と警告灯の点灯基準は論理的につながっていない。警告灯は、自動車メーカーが『こういう時になったら運転中のドライバーに警告しなければならない』という時に点灯できることになっている。だが特定DTCは、その故障があった場合に保安基準不適合となる故障と、そういった故障の存在が推断できる場合に発生させることになっている」と説明。

    「例えば保安基準不適合だが、わざわざいま運転中のドライバーに注意喚起するほどでもない、かえって混乱を招くと考えられるものは警告灯を点灯しない可能性も理論上はありえる。それは違反でも何でもない。現にこのケースでは、警告灯が点灯していないものの特定DTCは存在している。ただ、こういったDTCであっても、OBD確認モードを用いれば全て検出できる」と補足している。

     また、自工会の木原康秀氏が、ディーラーから寄せられたOBD検査システムへの改善要望について報告。

    1.「OBD検査」モードと「OBD確認」モードの誤選択防止
    2.OBD検査結果の特定整備記録簿への自動入力が可能になるシステム連携
    3.OBD検査未実施状態での保安基準適合証交付および車検証更新を防ぐシステム連携

    を提案した。

     村井指導官は「OBD検査システムの改修は随時行っているが、自工会からのご提案は優先順位を高くして取り組むようお願いしたい」と機構へ要望。機構からは1.と3.について2025年度以降の改修を検討するとともに、3.についてはOBD検査未実施状態での保適証発行が行政処分の対象になることから、「保適証サービス」(電子保安基準適合証システム)の方でそれを防ぐシステム改修が望ましいとの見解を示している。

    自工会からのOBD検査システムの改善要望に関するイメージ図

     続いて、2024年10月17日に開催された「第3回OBD検査システム・検査用スキャンツール技術連絡会」の結果概要を報告。検査用スキャンツールの型式認定について、従来の実施要領とは別に、「検査用スキャンツールに係る型式試験等実施要領」を新たに定めるべく、次回の技術連絡会で最終案をとりまとめる方針を決定。同実施要領に関し、以下について大筋合意を得たとされた。


    1.緊急で改善措置を要する場合の取扱い
    ●緊急でスキャンツールのアップデートを要する場合には、ツールメーカーの責任のもと、当該スキャンツールを認定機としたままアップデートする特例措置を実施すること。
    ●特例措置を実施する場合であっても、緊急性の判断を行う上で必要であることから、ツールメーカーは改善措置の届出を必ず提出すること。
    ●改善措置の届出と並行して、構造等変更に伴う試験の要否を機工協に相談できるものとすること。
    ●ツールメーカーの責任は、この届出を行った時点から発生すること。

    2.サポート終了の周知
    ●ツールメーカーは、型式認定を受けた検査用スキャンツールのサポートを終了する場合には、「原則として」その2年前からユーザーへの周知を行うこと。
    ●当該周知の方法は、基本的にツールメーカーに委ねること。
    ●サポート終了時は、機工協が公表している「検査用スキャンツール型式一覧表」にその旨を記載すること。
    ●併せて、実施要領にサポート終了時の周知についての決定事項を盛り込むこと。


     また、機構が特定DCT照会アプリのバージョンアップを行う際にアップデート情報をツールメーカーへ事前に提供することについてルール化すること、機工協とツールメーカーとの間で秘密保持契約を新たに結ぶのは不要とする方針が決定されている。

     最後に、今後取り組むべき中長期的課題とその対応案について確認。OBD検査対象装置の拡充について、2024年度内に開催予定の次回会合で具体的な対象装置の検討を行い結論を得ることとしつつ、その場合は適用までのリードタイムを設け、かつ輸入車は1年遅れの適用開始とする方針が示された。

     また、自動車技術の進化やサイバーセキュリティの強化などによって、ディーラーでなければ直せない故障が増加傾向にある一方、「リコール作業の増加や働き方改革の推進等によってディーラーの処理能力は限界に近く、専業工場からの依頼に速やかに応えられない状況が発生している」(村井指導官)と指摘。純正スキャンツールを専業工場にも流通を促していくこととしている。

     さらに、「自動車整備技術の高度化検討会」の「標準仕様WG」で、自動車メーカーが正規に提供する技術情報に基づいて開発される「標準仕様の汎用スキャンツール」の開発に必要な情報提供のルール見直しを検討。2024年度内に「自動車整備技術の高度化検討会」で合意を得て、以後法令改正やシステム整備を進める予定。

     村井指導官は「ただ、自動車メーカーのサイバーセキュリティ上問題が生じる可能性があり、またイモビライザーやスピードリミッターの解除ができる汎用スキャンツールは当然普及させるべきではない。それらに留意しながら、リバースエンジニアリングではない『標準仕様の汎用スキャンツール』の開発・普及を促進したい」と、その狙いを明らかにした。

    「標準仕様の汎用スキャンツール」開発・普及促進策の概要

     そのほか、特定DTC照会アプリのアップデートを2024年12月9日(月)に実施し、検査用スキャンツールの認定品(型式、ソフトウェアバージョン)自動チェック機能や、VCIの差し込みが甘い状態(半嵌合)の検知機能を追加。それに伴いOBD検査システムを前日の8日(日)18:00~24:00に停止することを告知している。


    (文・写真=遠藤正賢 図=国土交通省)

    特定DTC照会アプリのアップデートおよびOBD検査システム停止の概要

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