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    国交省・NASVA、JNCAP「新オフセット前面衝突試験」のデモを実施(後編)

    「共存性能」(コンパティビリティ)対応ボディ採用車両の高い乗員保護性能と相手車両への低い加害性を実証

    • #ニュース

    2024/11/28

     国土交通省および自動車事故対策機構(NASVA)は2024年11月8日、2024年度の自動車アセスメント(JNCAP。安全性能評価)より導入されている「新オフセット前面衝突試験」のデモンストレーションを、日本自動車研究所(JARI)つくば研究所衝突実験棟(茨城県つくば市)で実施した。

    <前半の記事はこちら(https://bsrweb.jp/news/detail.php?id=002167)>

     デモの試験車両には、今回のデモに先立って11月6日に評価結果が公表され、「自動車安全性能2024ファイブスター賞」を受賞したトヨタ・クラウンセダンHEV(AZSH32。車重2020kg)を使用。本来の試験では必須となる温度条件の管理を省略した状態で実施された。

    新オフセット前面衝突試験デモ開始前、試験車両側のスタート地点。規定された試験条件の通り温度・湿度に維持できるよう、付近にはエアコンが完備されている

     試験車両・台車ともけん引装置によって、南北に各400m伸びた走路を約50km/hで定速走行。50%オフセットされた状態で正面衝突すると、クラウンセダンは運転席側を中心にフロント部全体を潰しながら約2m前身し停止。キャビンの変形は極めて少なく、検査員は全てのドアをスムーズに開いていた。

    衝突後のクラウンセダンを前方運転席側から見る。フロント部は大破しガラスもひび割れているものの、運転席側から綺麗に潰れている。運転席側フロントフェンダーはサイドシルへの取付点からめくれ上がっているが、運

    衝突後のクラウンセダンを後方助手席側、高い位置から見る。衝突時の衝撃でフューエルリッドが若干開いたものの、助手席ドア以降はルーフやガラスを含めて目視可能な損傷は見られなかった

     また、運転席と助手席に乗せられた衝突試験用ダミーも、目視で判別できる目立った擦過傷などは見られず、各エアバッグやシートベルトプリテンショナーなどの衝突安全装備が有効に機能しているのがうかがえた。

    運転席の「THOR(ソア)ダミー成人男子50%タイル」(上)と、助手席の「ハイブリッドIIIダミー成人女子5%タイル」(下)。運転席側ではニーエアバッグも展開し、膝がインパネ下部やステアリングコラムに衝突するのを防いでいるのがうかがえる

     クラウンよりも相対的に軽い台車の方は、衝突後に約6m後退。だがアルミハニカムの変形は2段階目までに留められており、鋭い突起も見られなかった。

     今回導入された「新オフセット前面衝突試験」は、前編で記した通り、自車と相手車両双方の安全を確認する「共存性能」(コンパティビリティ)を評価する試験となっている。

     だがコンパティビリティに対応したボディ構造は、1995年発売の2代目メルセデス・ベンツEクラス(モデルシリーズ210)をはじめ、国産車でも2002年発売の3代目日産マーチ(K12)や2003年9月発売の4代目ホンダ・ライフ(JB5/6/7/8)、同年12月発売のスバルR2(RC1/2)など、2000年代初頭のモデルより順次導入されており、決して最先端のものではない。むしろすでに普及した一般的な技術と言えるだろう。

     これについて、日本自動車工業会の谷口正典氏(日産自動車)は、「コンパティビリティの概念自体は約30年前よりあるものだが、これまでは各社で考え方や指標がバラバラだった。JNCAPへの導入がこのタイミングになったのは、評価方法を確立させるのに時間がかかったためと思われるが、今回JNCAPの試験に加わることで、基準が統一されることに意義がある」と見解を述べた。

     また、「新オフセット前面衝突試験導入」によって、ボディ構造をどのように変化させる必要があるかという質問に対しては、「車重が重いクルマは加害性を軽減するためフロントを若干柔らかく潰す必要がある一方、さらに重く大きい車両との衝突もあり得るので、キャビンはしっかり作ることが求められる。軽自動車など小さく軽い車両では従来の試験より衝撃が厳しくなるので、エンジンルームもキャビンも全体を強くする必要がある」と解説している。


    (文・写真=遠藤正賢)

    台車先端に装着されたプログレッシブデフォーマブルバリア。上の写真は試験開始前のもので、奥側ほど硬い3層構造となっているのが見て取れる。下の写真は衝突後のもの。1段階目は綺麗に潰れ、2段階目も鋭い突起は見られない。3段階目はほぼ原型を留めている

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