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    フジミインコーポレーテッド 新規事業本部長 森永 均 氏

    研磨時間の短縮と高品質な仕上がりの両立に本気で取り組む

    • #インタビュー

    2022/02/14

    精密研磨材メーカーのパイオニアとして知られるフジミインコーポレーテッド(関敬史社長、本社=愛知県清須市)。このほど、同社より長年の精密研磨の知見を活かして開発された自動車塗膜用コンパウンド「MIRAFLEXシリーズ」が発売された。
    自動車補修市場への参入のきっかけや製品の特徴、これからの展開などについて、新規事業本部長の森永均氏に聞いた。

    ―――貴社の事業概要を教えてください

     当社の創業は1950年。ちょうど半導体トランジスターが発明されたころで、光学部品用研磨材の製造・販売から、ゲルマニウムやシリコンなどの半導体の精密研磨ニーズに応える形で事業を展開。以来、半導体とともに70余年を歩んできた。
     現在の主な事業内容は、各種研磨材の製造・販売で、その用途は半導体のほかにハードディスク、LED、プラスチックレンズ用など多岐にわたる。また、砥粒の大きさをそろえる分級技術を得意としており、粒子の小さい研磨材は自ら最終顧客へ、粗い粒子は砥石メーカーやサンドペーパーメーカーへ販売している。
     一番の強みは半導体製造分野で、シリコンウェハーの加工で使う両面研磨用のラッピング材、鏡面研磨用のポリッシング剤、半導体デバイスのポリシリコン用のCMP(Chemical Mechanical Polishing)研磨材などの製品は世界トップシェアを誇る。

    ―――自動車補修市場に参入したきっかけは?

     半導体の成長とともに会社が大きくなっていったが、売り上げが半導体市場に偏重していたため、8年前に新規事業本部を立ち上げ、様々な新規分野の開拓に挑戦してきた。
     その中の一つが自動車業界。当初はカーメーカーへの提案も進めてきたが、自動車補修塗膜にコンパウンドが用いられていること、さらに現場では研磨作業に膨大な時間を要していることを知り、その研磨時間の短縮に短時間で高精度に表面を研磨する当社の技術が使えると考え、自動車補修市場への参入を決めた。
     まずは、自動車塗膜のうねりを平らにして鏡面に仕上げることから始めた。新規事業開発の過程で、従来の平面研磨ではなく、三次元表面の研磨に対応する機会があったこと、微細な傷が許されない精密電子部品やレンズを鏡面化するために開発した砥粒、極めて薄い皮膜の表層だけ磨いて下地を露出させずにうねりや傷を取るために開発した技術などが功を奏した。しかし、いざボンネットを磨いてみると、機械化された研磨機向けに開発してきた当社の研磨剤は飛び散りやすい問題があり、思い通りにはいかず苦悩の連続だった。
     2018年には国際オートアフターマーケットEXPOへ出展。実際に鏡面に磨いたボンネットを持ち込み、市場の反応を確かめた。カーメーカーやボデーショップの方々から高評価をいただくと同時に、「使いにくい」、「うまく再現されない」との批判もいただいた。良い砥粒と研磨のノウハウはあっても、コンパウンドと手磨きのノウハウを持ち合わせていなかったのが原因で、現場を知ることの大事さを思い知らされた。
     以降、製品を完成させるまでの間、展示会を通じて出会った方々には、サンプルを何度も試していただいた。たくさんのフィードバックをいただきながら試行錯誤を繰り返し、足かけ5年の歳月を費やして、自動車塗膜用コンパウンドを開発した。

    ―――現在の自動車補修市場をどう見ているか?

     自動車補修市場に流通するコンパウンドは、ボデーショップでの補修塗装後の肌調整やコーティング施工前の傷消しなどの場面で用いられ、バフやポリッシャーと組み合わせて手磨きされている。しかし、高品質と短時間の両立は難しく、特に研磨時間の短縮が現場では求められていると感じた。
     また、外資系塗料メーカーなどに多い硬質クリヤー、さらには自己修復機能を持つ高機能クリヤーなど研磨対象となる自動車補修塗膜の多様化も、研磨作業を長時間化させている要因の一つに挙げられる。
     これら課題に対して、当社がこれまで精密研磨で培ってきた知見を活かして解決できるよう、本気で取り組んでいきたい。

    ―――「MIRAFLEXシリーズ」の特徴は?

     より速く、より美しくを両立させるため、当社の技術を結集させた。小さく均一な粒径かつ、転がりにくく角張った独自の形状をした砥粒が効率的に塗膜を研磨し、研磨時間の短縮と高品質な仕上がりに貢献する。従来のコンパウンドでは研磨の過程で大きい砥粒が壊れながら徐々に仕上がりが良くなっていくが、当社のものははじめから砥粒が小さいので研磨時間が短くても傷が残らず、したがって研磨によるクリヤー塗膜の膜減りも少なくできる。
     また、傷が残らず油分が残留しにくい組成設計のため、研磨後に拭き取っても磨き戻りが少ない。加えて、コンパウンド自体の油分が少ないため、作業性が良いのも特徴に挙がる。
     ラインアップは、粗目相当の700、細目相当の500、仕上げ研磨に用いる300、特殊な塗膜に対応する超仕上げの200シリーズの4種類を用意。700と500はシングルポリッシャーとウールバフ、300と200はダブルアクションポリッシャーとスポンジバフの組み合わせを推奨している。

    ―――今後の製品開発方針ならびに販売戦略について

     当社では、研磨の目的を平坦化、平滑化、無欠陥化、無汚染化、高効率化の5つに分類。これら5要件を実現する上で、①メカニズムの解明、②コア技術の追求、③お客様目線、の3つのコンセプトに基づいて研究開発に取り組んでいる。
     まず材質に応じた研磨のメカニズムを理解しなければ、設計にムリ、ムラ、ムダが生じ、真に優れた技術は開発できない。コアとなる技術としては砥粒、ケミカル、分級技術が挙げられる。この3つにこだわりを持っており、さらに究めていきたい。
     最後にお客様目線。研磨の世界では自社の評価とお客様の評価が異なることは珍しくない。当社ではお客様の要望を徹底的に再現できるまで試み、独りよがりの開発にならないように努めている。自動車塗膜の研磨の場合、技術者の手によって磨かれるため、このギャップを埋めるのは大変難しい。しかし、粘り強くチャレンジすることで、最適なプロセスが提案したい。特に、研磨時間の短縮はまだ可能と考え、さらに追求していく。
     販売戦略については、この業界の商流が複雑で当社が新参なこともあり、まだ確固たる販売ルートの構築ができていない。これまで当社が対応してきた業界に比べてお客様の数が圧倒的に多いので、良いパートナーシップを築ける販売会社と組み、連携して販売ルートを構築していきたい。

    ―――読者へ一言

     会社の歴史としては長いが、この業界においてはまだ新参者。業界内で存在感を高めるためにも、ボデーショップの現場で求められている研磨時間の短縮と高品質な仕上がりを両立するコンパウンドの開発に本気で取り組む。ぜひ、フジミの本気に期待していただきたい。

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