JOURNAL 

鈑金塗装業の利益改善を促すAI原価管理システム「GSTA」

経験と勘に頼りがちな工場経営をデータで可視化しスタッフが「自走」できる組織を目指す

  • #トピックス

2026/09/08

作業者が親指で操作できる仕様
作業者が親指で操作できる仕様


 愛媛県松山市に拠点を構えるナップファクトリー(中野文人社長)は、鈑金塗装や車検、整備、大型車架装を手がけるトータルカーショップだ。創業当初は鈑金塗装を事業の中心に構えていたが、創業から10年ほど経ち、保険の仕事を請け負うことが業界トレンドになっていた時代に「皆と同じことをしても、資本力のある大手に勝てるわけがない」と考え、Webサイトを駆使し、直需客を増やす経営方針へと舵を切った。
 その結果、事故車修理以外にも、カスタムパーツの取り付けや全塗装など、一般ユーザーの様々な要望にも対応することとなり、次第に「作る仕事」が増加。顧客の「ここに○○があれば便利なのに」といった声に応えるうち、「あそこなら何でも作ってくれる」という評判が広まっていった。

「利益はいくら残るのか」を考えて

 事業が拡大する一方で、「バンパー1本の修理で、最終的にいくら利益が残るのか。それが分からないまま見積りするのはおかしい」と、業界特有の課題が中野社長にはひっかかっていた。この疑問が、原価管理システム「GSTA(原価を知って単価を上げよう)」開発のきっかけだ。
 利益を正確に把握するためには、まず原価を徹底的に可視化する必要がある。そのために中野社長は、原価を「人件費(誰が何時間働いたか)」と「工場経費(工場の維持費などを時間割りしたもの)」に分け、1時間当たりの総原価を算出した。当初はストップウォッチやExcelで管理していたものの、記録や集計の大変さから断念。外部SEに委託したこともあったが、鈑金塗装業界の知識量といった問題から最終的には独自でシステムを開発することにした。
 ブームが到来する以前からAIの可能性に注目していた中野社長は、高性能なAIモデルの登場を機に、自らコードを書き、システムの再構築に着手。約5年にわたる試行錯誤の末、現場のニーズを知り尽くした経営者だからこそ作り得た経営システムが誕生した。

ふりかえり入力画面
ふりかえり入力画面



工程管理画面
工程管理画面



属人的から「誰もができる」へ

 「GSTA」は単なる原価だけの管理ツールではない。現場スタッフがスマートフォンを使い、作業時間や使用材料などをリアルタイムで入力することにより、個々の案件の利益状況が即座に可視化される。このデータは、スタッフの目標管理にも直結しており、年間予算から自動で算出された目標に対し、日々の達成状況を自身で振り返ることができるのだ。また、AIが目標設定の妥当性を評価し、アドバイスを与える機能も備わっている。
 さらに、中野社長はデータの蓄積により得られるメリットをスタッフに伝えている。これにより、スタッフの日々の作業・目標管理にも身が入り、日報や記録入力が、主体的なデータ蓄積活動となった。「AIの性能は、自社の一次情報をどれだけ蓄積できるかで決まる。スタッフが入力する日々の記録こそが、最強のAIを育てる源泉になる」。蓄積された膨大なデータは、社内はもちろん、社外でも活用されている。
 社内では、AIチャットがベテラン工場長のように各チームの進捗状況を分析し、的確な助言を与える。これにより、マネジメントの属人化が解消された。一方、Webサイトに設置された顧客対応AIチャットでは、過去の修理実績データを基に24時間、顧客の問い合わせに対応。電話やメールでの問い合わせはほぼゼロになり、フロント業務の生産性を劇的に向上させた。
 中野社長は、AIを単なる効率化の道具としてではなく、スタッフの主体性を引き出し、組織を進化させるためのパートナーとしてとらえている。経験と勘が重視されてきたこの業界で、膨大な量のデータを使いこなし、新たな経営の形を模索するその姿勢は、変革期にあるこの業界全体の道しるべになるかもしれない。


会議メモ画面
GSTAに入れられた情報を元にAIが議題を提案してくれる
会議メモ画面。GSTAに入れられた情報を元にAIが議題を提案してくれる



ふりかえり入力画面