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BSR誌面連動企画『磨きの匠』 FILE#6 スピードキング・村上俊平

本当の価値は、磨きに入る前の 「前工程」にこそある

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2025/08/08

PROFILE

村上俊平(むらかみ・しゅんぺい/写真左)

スピードキング

経験年数  10年

主な経歴  システムエンジニアの専門学校を卒業後、磨きに興味を持ち、同社の門を叩く。異業種からの挑戦ながら、持ち前の探究心で技術を習得。 3年前からは店長として7人の技術者をまとめる。

座右の銘  弘法筆を選ばず

――磨き作業で意識すべきポイントや考え方について

 磨き作業をする上で、技術は大事だ。しかし、本質はそこではない。最も重要なのは、様々なトラブルにどう対応するか、という点だ。一例として、春先に多い花粉によるシミは、非常に厄介だ。花粉に含まれる「ペクチン」という成分が塗装に固着し、内部に浸透してしまう。こうなると、いくら表面を磨いても除去できない。

 この場合に用いるのが「熱」だ。復元塗料の特性を活かし、タオルの上から75℃のお湯をかけ、ボデーを温める。すると、塗装内部に入り込んだペクチンの成分が浮き上がるので、その後初めて磨きの工程に入れる。

 この熱処理をしないとどうなるか。磨いている最中の摩擦熱で一見シミが消えたように見える。しかし、ボデーが冷えると、シミが再び浮かび上がってくる。これでは根本的な解決にはならない。この一手間こそが、本当のプロの仕事だと考えている。

 前工程だけでなく、実際の磨き作業にも細心の注意を払っている。特にドアの角やプレスラインのエッジ部分は塗装が薄く、熱が集中しやすい。何も考えずに磨けば、簡単に下地が出てしまう。だからこそ、「下地を出さない」、「熱をかけ過ぎない」といった基本的なルールを徹底し、マスキングなどを確実に行う。

 それは、個人の感覚やこだわりに頼るのではなく、組織としての品質基準を守るためのシステムだ。誰が作業しても同じ品質を提供できること。それこそが、顧客からの信頼につながると信じている。

――次世代を担う若手技術者にメッセージを

 この仕事は、忍耐が必要な場面も多い。しかし、今はギアアクションポリッシャーなど、進化した道具がたくさんある。それらを正しく使いこなし、スピードと品質を両立させることが求められる。我々の工場では、道具と長年の経験を組み合わせたシステムが確立されている。

 これからこの業界を目指す若い人たちには、ぜひその奥深さと楽しさを知ってほしい。目の前の1台に真摯に向き合い続ければ、必ず道は拓けるはずだ。

【作業実演】

花粉によるシミや、水道水による水シミの前工程と、新車塗膜、補修塗膜の磨き作業

「花粉シミ」、「水シミ」など、無理に磨けば、シミの周りの健康な塗膜だけが削れてしまい、クレーターのようになってしまう。効率的に数をこなしていくためには、「前工程」をおろそかにしてはならない。原因を見極め、最も有効な手段を選択する。それが、大量の車を扱いながらも1台1台の品質を担保する秘訣だ。