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シネマエンドレス「殺し屋のプロット」
2025/11/27
老ヒットマンが挑む、人生最期の完全犯罪
博士号を取得し大学で教鞭をとっていたこともある元陸軍偵察部隊の将校、ジョン・ノックス。
だが、それは表の経歴で、“殺し屋”という裏の稼業を、老ヒットマンとなった現在に至るまで完璧にこなしてきた。そんなノックスに予期せぬ事態が降りかかる。急速に記憶を失う病だと診断され、残された時間はあと数週間だというのだ。やむなく引退を決意したノックスの前に、父親の職業を知って縁を切っていた一人息子のマイルズが現れ、人を殺した罪をプロである父の手で隠ぺいしてほしいと涙ながらに訴える。刻々と記憶が消えていく中、ノックスは息子のために人生最期の完全犯罪に挑む──。
「バットマン」、「ビートルジュース」などを経て現代屈指の名優の一人となったマイケル・キートン。
俳優人生の円熟期を迎えてなお新たな領域へと前進し続けるキートンが、監督・主演・製作を一手に引き受け、半世紀を超えるキャリアの集大成を完成させた。
©2023 HIDDEN HILL LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
サブカルおじさんの推しどころ
アルツハイマー病の数倍の速さで記憶が失われていく病に侵された凄腕の殺し屋。哲学書を愛読し、犯罪にも独自の美学を貫いてきた彼が、その運命に対してどう向かい合っていくか。そして、突如降ってきた息子のトラブルをどう対応するのか。緻密かつスリリングな犯罪と、一人の男の人生の締めくくり方が交錯するネオ・ノワール。派手な銃撃シーンはなく、目を背けたくなるような衝撃的な映像もない。犯罪は静かに行われ、そして記憶も静かに失われていく。物語はその沈黙の中で、確実に終わりに向かって進んでいく。ノックスの最期の仕事に協力するゼイヴィア役を名優アル・パチーノが演じ、彼の存在が物語全体に陰影と緊張をもたらす。人生の終わりを迎えようとする殺し屋の映画ではあるが、認知症との向き合い方や終活、人間関係の整理、家族愛などが見えてくる奥深い物語となっている。日ごろの忙しい生活で心の機微が鈍くなっている人たちの琴線と涙腺にグッと来るだろう。
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監督・製作:マイケル・キートン/配給:キノフィルムズ/ 12月5日(金)よりkino cinéma新宿ほか全国公開
担当記者
青山 竜(あおやま りゅう)
東京編集課所属。映画・音楽・芸術あらゆる文化に中途半端に手を出し、ついたあだ名は「サブカルくそおじさん」。