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シネマエンドレス「名無し」

原作・脚本:佐藤二朗 主演:佐藤二朗 目に見えるからの恐怖と目に見えないからこその狂気。その手がつかむのは、希望か、絶望か……

  • #コラム
  • #一般向け

2026/05/18

あなたには、この狂気が見えるか……

白昼のファミレスを襲った無差別大量殺人事件。防犯カメラに残された容疑者の中年男性。

被害者は誰もが鋭利な刃物のようなモノで切りつけられていたが、映っているはずの凶器の姿だけが目視できない。鍵を握るのは男の右手。

その手が向かう先には必ず何かが起こる。目に見えない力の秘密に隠された、恐るべき真実から逃がれることはできるのか?

その過激なテーマと特殊な世界観ゆえに、一度は封印されかけた物語を生み出したのは、『爆弾』怪演で第49 回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞や第50 回報知映画賞の助演男優賞などを席巻し、唯一無二の個性を放つ佐藤二朗。

コメディからシリアスまで作品ごとに規格外のアプローチを見せてきた鬼才が、本作では自ら漫画原作を手がけるところからスタートし、自身が原作・脚本・主演を兼ねる実写映画として念願の企画を実現させた。

『嗤う蟲』『悪い夏』(25)などで知られる当代屈指の映画職人・城定秀夫監督がメガホンをとり、“目に見えない”狂気を視覚や聴覚で感じさせる表現を追求。劇中に仕掛けられた人間という存在の歪みとタブーに切り込み、そこに潜む闇をえぐり出しながら、迫真のヒューマン・ディザスターに仕上げている。



©佐藤二朗 永田諒 / ヒーローズ ©2026 映画「名無し」製作委員会

サブカルおじさんの推しどころ



演技としての狂気、原作家・脚本家としての正気。

人間・佐藤二朗の俳優と物語に対する真摯さがあまりにも鋭く尖る、目を背けたくなるほどの「本気」がここにある。

貧困や、社会の不平等と理不尽などセンシティブな問題にかなり踏み込んでおり、梅雨入り前の爽やかな朝に観るのは絶対にオススメしない和製スラッシャームービー。なぜなら心に重い何かを残してしまうから。

『爆弾』では雄弁にしゃべり続ける不敵に不気味な爆弾魔を演じた佐藤二朗だが、本作ではほとんどセリフがなく、動きと表情だけですべてを表現し、改めて俳優・佐藤二朗の鬼才ぶりに畏怖に近い思いを抱いてしまう。

物語は【昭和】、【11年前の2015年】、【現在】の3つの時代を行き来し、犯行に及んだ中年男性の秘密が少しずつ明らかになっていき、観客は光が見えてこない絶望的に閉塞的な環境にのめりこんでしまうだろう。


そのような中で、本作唯一ともいえる良心が過去パートに登場する、現SUPER EIGHTの丸山隆平である。できれば仕事したくない、面倒なことには巻き込まれたくない、それでも父として警察官として、親のいない子どもを気にしてあげたいという、もっとも我々一般人に近い感覚の持ち主を演じる。


©佐藤二朗 永田諒 / ヒーローズ ©2026 映画「名無し」製作委員会


佐藤二朗の狂気的演技に引っ張られるように、圧倒的な演技を見せるのは、今ではすっかり俳優、プロデューサーや美の巨匠としてのポジションを築き上げたMEGUMI。

筆者はあのおっぱいと頭の回転の良さでグラビア界を席巻すると、悪そうなやつは大体友達と言っていたファンタジスタなミクスチャーバンドのボーカルと結婚(のちに離婚)したりと、昔から気になっていた。

そんなほぼ同年代MEGUMIの苦労と努力がどんどん実を結ぶ様子を見ていると、年齢を言い訳に何もせずにただ漫然と仕事をして、この作品の主人公ほどではないが、それに近しい暗澹たる人生を過ごすことが確定している自分としては、感慨深くなってしまうのである。

©佐藤二朗 永田諒 / ヒーローズ ©2026 映画「名無し」製作委員会


凶悪犯の物語で言えば『ジョーカー』シリーズなどが挙げられるが、本作ではそのような凶悪犯罪に及ぶ主人公に対して同情を生まないような意図や意志を感じさせる。悪いことは悪い。過去に何があり、どのような環境に置かれていたかを淡々と映し出すが、徹底的に突き放すのだ。

主人公の孤独と疎外と狂気は、観た人の心を「見えない凶器」でえぐり、いつまでも癒えぬことがない傷を生み出すことだろう。



©佐藤二朗 永田諒 / ヒーローズ ©2026 映画「名無し」製作委員会

原作・脚本:佐藤二朗

監督・共同脚本:城定秀夫

配給:キノフィルムズ

5月22日(金)より全国公開

©佐藤二朗 永田諒 / ヒーローズ ©2026 映画「名無し」製作委員会