JOURNAL 

東京大学と日本ペイント、塗料の状態で発色性を評価する新手法を開発

遠心Field-Flow Fractionationを活用し、塗膜形成前の顔料粒子凝集状態を評価。開発時間やコスト、環境負荷の削減に期待

  • #トピックス

2026/10/28

 東京大学大学院工学系研究科の太田誠一准教授らと、日本ペイントグループの国内事業支援や研究・開発等を担う日本ペイントコーポレートソリューションズの小林笙太朗研究員らの研究グループは、遠心Field-Flow Fractionation(※1)を用いて、塗膜を形成する前の塗料中における顔料粒子の凝集状態を評価する手法を開発した。

 塗料中の顔料粒子の分散状態は、最終的な塗膜の色や外観品質を左右する。しかし、塗料には樹脂や分散剤など多様な成分が含まれるため、顔料粒子の凝集状態を選択的に評価することは困難であった。本研究では、粒子を質量の違いに基づいて分離する遠心Field-Flow Fractionationを用いることで、複雑な塗料中でも顔料粒子の凝集状態を選択的に評価することに成功した。さらに、その凝集状態の違いが塗膜の漆黒性の差につながることを明らかにした。本手法により、塗膜作製前に塗料の発色性を評価でき、塗料開発における試作・評価工程を効率化し、開発期間やコスト、材料・エネルギー使用量、廃棄物の削減につながることが期待される。

 なお、本成果は2026年7月22日(現地時間)に米国化学会誌「Langmuir」のオンライン版に掲載された。

発表のポイント

  • 塗料の状態から最終的な塗膜の発色性を評価する手法を開発。
  • 複数の成分が混在する塗料中でも、顔料粒子の凝集状態を選択的に捉えることに成功。
  • 塗膜を作製してから評価する従来の工程の省略につながり、開発時間やコストの削減に加え、材料やエネルギー使用量を抑えることで環境負荷の低減が期待される。

研究の背景と課題

 塗料中の顔料粒子の分散状態は、塗膜の色や外観品質を左右する重要な要因である。そのため、優れた外観をもつ塗膜を開発するためには、顔料粒子の凝集状態を適切に評価し、配合条件を最適化する必要がある。しかし、塗料には顔料だけでなく、樹脂や分散剤などさまざまな成分が含まれているため、顔料粒子のみを選択的に捉え、その凝集状態を直接評価することは困難であった。そのため従来は、塗膜を作製して発色性を評価し、その結果をもとに配合を調整する工程が繰り返されてきた。こうした試作と評価には時間や材料を要することから、塗膜を作製する前に顔料粒子の凝集状態を評価できる新たな手法が求められていた。

遠心Field-Flow Fractionationを活用した研究内容

 同研究グループは、粒子を質量の違いに基づいて分離する遠心Field-Flow Fractionationを用いることで、樹脂や分散剤など複数の成分が混在する塗料中から、顔料粒子の凝集状態を選択的に高感度で評価することに成功した。

 黒色塗料の顔料粒子として、カーボンブラック(※2)が広く用いられている。これらの塗料では、カーボンブラックの含有量が同じであっても、分散剤の種類によって塗膜の漆黒性が異なるが、その違いの要因はこれまで明らかになっていなかった。一般的な凝集評価手法である動的光散乱法(※3)では、異なる分散剤を用いた2種類の塗料に含まれるカーボンブラックの状態に明確な違いを見出すことができなかった。一方、遠心Field-Flow Fractionationを用いて分析したところ、漆黒性の低い塗膜となった塗料において、カーボンブラックの凝集が検出された。この凝集は、クライオ透過型電子顕微鏡法(※4)による観察でも確認され、遠心Field-Flow Fractionationによる評価の妥当性が示された。これらの結果から、塗膜を作製する前の段階で、塗膜の発色性に関わる顔料粒子の凝集状態を評価できることが示された。

塗料開発プロセスの効率化と環境負荷低減の展望

 本成果は、塗膜形成前の塗料段階で発色性を評価する新しい塗料開発プロセスにつながることが期待される。塗膜の試作回数を減らすことができれば、開発期間やコストの削減だけでなく、塗料や基材などの材料使用量、乾燥・硬化に必要なエネルギー、廃棄物の削減にもつながる。これにより、塗料開発の効率化とともに、環境負荷の低減や持続可能なものづくりへの貢献が期待される。

 本研究は、東京大学と日本ペイントホールディングスとの産学協創協定に基づき設置された社会連携講座「革新的コーティング技術の創生」の共同研究テーマの1つとして推進された。

発表者・研究者情報

東京大学 大学院工学系研究科

  • 太田 誠一 准教授
  • 中村 乃理子 助教
  • 大塚 彩加 博士課程
  • 土屋 裕輝 博士課程

日本ペイントコーポレートソリューションズ株式会社

  • 小林 笙太朗 研究員
  • 岩越 あや子 研究員

論文情報

  • 雑誌名:Langmuir
  • 題名:Sensitive Detection of Pigment Particle Aggregation in Paints via Centrifugal Field-Flow Fractionation
  • 著者名:Ayaka Otsuka‡, Hiroki Tsuchiya‡, Noriko Nakamura, Shotaro Kobayashi, Ayako Iwakoshi, Seiichi Ohta* (‡ These authors contributed equally)
  • DOI:10.1021/acs.langmuir.6c01568
  • URL:https://doi.org/10.1021/acs.langmuir.6c01568

用語解説

  • (※1)遠心Field-Flow Fractionation:流路内の粒子に遠心力とこれに直行する流れ場を加え、質量の違いに基づいて粒子を分離する分析手法。質量が大きい粒子ほど、溶出時間が長くなる。
  • (※2)カーボンブラック:炭素を主成分とする黒色の粒子で、塗料やインク、ゴムなどの着色に広く用いられている。
  • (※3)動的光散乱法:液体中を動く粒子から生じる散乱光の時間変化を解析し、粒子の大きさを測定する手法。複数の成分が混在する試料では、それぞれの成分を区別して評価することが難しい場合がある。
  • (※4)クライオ透過型電子顕微鏡法:試料を急速に凍結し、その内部構造をできるだけ保持した状態で観察する電子顕微鏡法。