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ナフサがない シンナーない そもそも社長にゃ仕事がない!? 原材料高騰、目詰まりによるシンナー不足、鈑金塗装工場のリアルとは。

とある工場の仁義ある工場 出張版

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2026/07/06

無駄な知識をひけらかすA社長


これは、とある工場(本連載ではこの名称で統一する)が自動車補修業界で生き抜くための戦いの日々を記録するノンフィクションである。

とある工場の敷地に入ると、足元に1匹のダンゴムシがいた。定時の概念を持たない会社で2週間にわたり9時から22時まで働き続けた結果、時計の秒針を見て「1秒が、はやーい!」と爆笑できるほどのテンションになっていた筆者は、ゆっくりのんびり動くダンゴムシの姿を見て「俺も……殻に守られたい……」と涙を流していた。

すると、「知ってる? ダンゴムシって殻を維持するためにコンクリートに入ってるカルシウムを食べるんだよ」とA社長が後ろから声を掛けてきた。A社長の無駄な博識に感心しつつも「ほら、そんな無駄な博識をひけらかさなくてもいいですから。とりあえずさっさと仕事終わらせましょう」としっかり口に出して事務所に向かう。

コンクリートを食べるダンゴムシを楽しそうに眺めるおっさんたち

とある工場のシンナーやオイル、足りないものは……

「俺も青山ちゃんも同じドブの世界で生きる人間。定時が存在する天上の世界では生きられないんだよ」と話すA社長。そんなドブであろうと天上であろうと等しく降りかかった問題が、中東情勢の緊迫化によるナフサ不足であり、それに起因する未曽有のシンナー不足と価格高騰である。

建築、製造、そして自動車鈑金塗装……多くの業界で多大な影響を生んでいるこの問題。政府は「目詰まり」、「抱え込み」、「慌てることはない」とうそぶくものの、実際にそれを仕事にしている人たちにとって、現場が止まっていることは間違いない事実。

当然、とある工場にも甚大な被害があったに違いない。この連載開始した時期から成功者を妬み、人の不幸が大好物な人間に変貌を遂げた筆者の記者魂が燃えてくるというものである。さっそく、とある工場の現在(6月末)の状況を聞いてみると……。

「青山ちゃんには悪いけど、そんなに困っているわけじゃないんだよね」

とA社長は笑って返す。

「バカな! 困ってないと、こっちが困っちゃう!」

A社長の思ってもみなかった回答にキレる筆者。その勢いに気圧されつつもA社長は「いや、困ってはいるんだよ。部品商にお願いしているゴム関係が全然入ってこなくて、今も客に待ってもらってるのよ」。そう、そういう現場のリアルな声が聞きたいのである。

どうやら、今足りていないのはゴム関係、エンジンオイル、ギアオイルなどのオイル関係らしい。

「スズキのオイルは完全になくなったから、これも客に待ってもらっている」と話す。

そんな状態で平気なのか聞いてみると、「だってエンジンオイルで商売してるわけじゃないしね」。そうだよ、すっかり忘れていたが、とある工場は泣く子も黙る未認証工場である。そもそも整備系をメインにしていない。

今回の問題で最もA社長を悩ませたのはフラットベースである。パール、3コートメタリックなど多くの塗料に使われるツヤ消し剤だが、それが届かずに塗装作業が進まなかったという。だが、現在はわずかながらに入荷しており、急場はしのいでいる状況である。6月の時点である程度は落ち着いた状況になり、作業が止まることはないという。

シンナーの目詰まり!? そのせいで工場が止まったら誰が責任を取るんだ!

シンナー不足、とある工場はどのように乗り切ったのか


連日、TVではナフサ不足、シンナー不足がセンセーショナルに扱われそれを観た人たちが慌てて買い占めに走ったシンナー不足。

フリマサイトでは困った人たちに付け込む転売ゴミクズどもによる高額取引も横行したほどである。それだけのシンナー不足をA社長はどうやって乗り切っていたのか。

そこにはA社長と塗料販売店Pさんとの信頼関係が見え隠れする。通常、自動車鈑金塗装工場は複数の塗料販売店と契約しているのだが、とある工場は1社のみと契約している。そのため、関係性はかなり構築されており、ホルムズ海峡が封鎖されて間もなく、「シンナー類は早めに注文したほうがいい」、「洗浄用シンナーは大事に使ったほうがいい」という逆提案があったほどである。

A社長は疑問に思いながらも「お前が言うなら任せるよ」と注文をしたのだが、「まさかこんなことになるとはね」。

Pさんは世間が騒ぎ出す前からシンナー不足の危機を察知し、事前に注意を喚起していたのである。

「ほかの客との兼ね合いから明言はしなかったけど、あれは俺にシンナー不足になるぞって教えてくれてたんだよな……」。

まるで故人を偲ぶような口ぶりでA社長は梅雨空を仰ぎ見るが、Pさんは毎週ちゃんととある工場に顔を出している。

それでも過剰に注文することを良しとしないA社長。その良識はシンナーの不足につながる。標準も遅乾も少なくなった時はそれぞれを混ぜたもので対応した。

シンナーによって塗り具合は変わるが、「そこを技術力でカバーするのがプロでしょ」と腕を叩く。やだ、カッコイイ。

この連載のため、2 ヵ月に一度とある工場を訪問するのだが、A社長は材料不足に不満を漏らすことは一度もなかった。

また、それはPさんに対してもだったという。「Pに言ったところでPが中東平定とか世界平和ができるわけじゃない。営業という仕事なのに売るものがないPのほうがうちらよりよっぽど可哀想だよ」と、自身よりも他社のことを思うA社長。なるほど、その気持ちがあるから塗料販売店との共存の関係ができるのか。

シンナー不足は供給面だけでなく大幅な値上げにも波及した。直需率が高いとある工場は値上げ分をどう請求しているのか。「え、普通に上がった分も請求しているよ。これだけニュースになっていると、一般の人も理解してくれてるから」とさほど問題にしていないようだった。

転売ゴミクズからは買うの、ダメ、絶対!!

エンジンオイル不足が巻き起こす問い合わせの嵐


シンナー問題からわずかに遅れてやってきたエンジンオイル不足問題。4 〜5月はかなり問い合わせがあったという。中にはそこから派生して車検依頼につながったものもあったのだが、A社長は丁重に断った。

「エンジンオイル交換の金額を伝えたら露骨に高いという雰囲気があった。安さを求める客に説明をしても無駄だし、どこかで『とある工場は高い』と言われるのも腹立つからね」との思いを語り、「つくしは二級整備士。しっかり整備して、正しく請求する。必要最低限の整備で……という客はそもそも取引しないようにしている」と客を選ぶ姿勢を話す。

「でも…… 未認証工場じゃん!」

筆者が言おうとした言葉を遮るようにA社長が発する。

ツッコミキャンセル——ボケに対して想定内のツッコミをボケ側が先に口にすることで「お前の言うことは分かっているんだよ」とアプローチする高等スキルである。

言葉をさえぎられ驚いた筆者に向かってA社長はニヤリと笑いながら「青山ちゃん……いよいよだぜぇ。特定整備認証……」と肝の据わった声で話す。「な……なんだと……(いや、おせーけど)」。

A社長の衝撃発言は1秒が長く感じさせる。ついに泣いたカラスを笑わせてきた未認証工場が資格を取るだと?

続けて、「ダンゴムシはカルシウムを摂るためにコンクリを食べるって言ったじゃん? 実はダンゴムシは虫じゃなくてエビと同じ甲殻類のグループなんだぜ」

え、それ今関係なくない?

とりあえず、A社長もとある工場もダンゴムシと同様にしっかりとカルシウム(売り上げ)を摂り、脱皮をして強くなろうとしている最中なのであった。 (青山竜)

離婚、2回の自殺未遂、銀行通帳の詳細……A社長の戦いはここから始まった

今回、2021年4月から始まった絶賛BSR本誌連載中の「とある工場の仁義ある戦い」の最新話を紹介した。

A社長はこれまで様々な紆余曲折を経てとある工場の経営をしてきた。

そのあまりにもリアルな弱小鈑金塗装工場の現状に多くに読者は時には涙し、時にはあざ笑い、時には応援した。

そんなA社長の物語のスタートは

https://bsrweb.jp/article/draft/001594

こちらのリンクから確認できる。