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【講習会レポート】自動車整備業界の適正請求と未来〜医療業界の仕組みに学ぶ改善策〜
2026/07/01
大阪府自動車車体整備協同組合・青年部会(横山英里香部会長)は6月27日、新大阪丸ビル別館にて「医療業界の仕組みと自動車整備業界の未来」と題した講習会を開催した。
本講習会では、医療機関の経営コンサルタントである白江茂弘氏を講師に招き、自動車整備業界の請求基準や工賃設定の改善策について、医療業界の仕組みを交えた解説が行われた。会場及びオンラインを合わせ、全国から約75人が参加した本講習会の内容を紹介する。
業界の現状と本講習会の目的
冒頭、横山部会長は中東情勢の悪化に伴う材料費高騰などに触れ、現場を圧迫している厳しい経営状況を説明。「どんぶり勘定から脱却し、エビデンスに基づく正しい請求方法を学ぶことで会社の利益を守ることが本講習会の目的である」と語った。
また、司会の細田宗範氏は、国土交通省が公表した「「事故車修理の標準作業時間と実態との乖離」に関する調査結果に言及。「国の動きを追い風にし、明日から自社工場で適正な工賃を堂々と請求できる武器を持ち帰ってほしい」と参加者に呼びかけた。
自動車整備と医療、2つの業界の共通点
白江氏によると、両業界のビジネス構造には「地域密着型の小規模施設」であり、「専門知識を持たない顧客に『診断(見積もり)』と『治療(修理)』を提供する」という強い共通点がある。
ここで最も重要なのが「情報の非対称性」だ。技術やプロセスを把握している専門家に対し、顧客は詳細を評価する手段を持たない。この構造上、双方にとって「透明性と信頼の確保」が最重要課題となる。
自動車整備業界における不透明さ、4つの構造的原因
昨今のビッグモーターによる不正請求問題などを例に挙げ、保険会社との「持ちつ持たれつの構造」が業界全体への不信感を招いた経緯を整理。業界の不透明さを生む構造的原因として、以下の4点が指摘された。
- 閉鎖的な作業環境:顧客の目が届かない工場内での作業は、不正のリスクをはらむ。
- 顧客の知識不足:専門技術や部品名が一般顧客には判断できず、情報の非対称性が生じる。
- 客観的記録の不足:エビデンスの欠如が「言った・言わない」のトラブルを招き、検証を困難にする。
- 適正価格の不透明性:算出根拠が曖昧で、現場レベルでさえ適正価格の把握が難しい。
これらの問題により、誠実に適正価格で作業をする整備士ほど「なぜ高いのか」と厳しい目を向けられ、説明コストが増大するという「真面目な整備士が割を食う構造」が生まれている。この不透明さを解消するヒントとして、日本の医療業界における制度が紹介された。
医療業界の事例
●全国一律の「点数制度」による透明化
医療サービスの価格は、厚労省の「診療報酬点数表」により全国一律(1点=10円)で定められている。医師の技術料と材料費は明確に分離されており、料金の根拠を第三者が確認できる。 さらに、物価高対策として人件費を引き上げる仕組み(ベースアップ評価料)や、施設基準を満たすことで報酬が上がる仕組みなど、適切な対価を得られる構造が設計されている。
●絶対的なエビデンスである「カルテ(診療録)」
医療現場ではカルテの作成が法的義務である。記載のない医療行為は監査で全額返金のペナルティ対象となるため、客観的記録の徹底が組織文化として根付いている。
- SOAP形式での記録:主観的情報(S)、客観的所見(O)、評価(A)、計画(P)の4段階で思考を整理。
- 電子カルテによる真正性の確保:操作や修正の履歴が必ず残り、改ざんを防止。
「記録する義務」と「開示する義務」の両輪が、医療業界の透明性を強固に支えている。
自動車整備業界への提言
白江氏は「医療の厳格なルールをそのまま適用することは現実的ではないが、何らかのルール化は必須である」とし、以下の2点を提言した。
☆記録方法の統一
写真やAIを活用し、第三者が検証可能な共通エビデンスフォーマットを作成。
☆価格の統一
適正な原価計算に基づく標準的な技術料・部品代を設定し、透明性ある料金体系を構築。
しかし、ルール化による「根拠の明確化」と「信頼構築による集客」というメリットがある半面、価格調整の硬直化や事務負担の増加というデメリットも想定される。 そのため、ルール策定には所管官庁の承認や補助金活用など「公的な裏付け」が重要である。
まずはハードルを下げて賛同者を増やし、段階的にルールを厳格化していく「仲間づくりの戦略」が有効であると強調した。
質疑応答で浮き彫りになった現場の課題
講習後半の質疑応答では、現場の切実な実態に基づいた活発な議論が行われた。
- 工賃の地域格差
「北海道と大阪で工賃に大きな差がある」という不合理に対し、「診療報酬改定での人件費2〜3%引き上げの仕組みを根拠に、他業界でも同じことをやっているという論拠で毎年の交渉に臨むことが有効ではないか」との提案がされた。 - 職人技の評価
職人の高度な技術(調色の精度や手技による仕上がりの差など)が時間・点数ベースの請求では評価されにくいという悩みに、白江氏は「医療でも個別の職人技を評価する制度はない。スピードと精度で数をこなし、売り上げを最大化する方向性が現実的ではないか」と回答した。 - 無資格者の参入と業界の底上げ
参加者より、「車体整備業が業種認定されていないことで無資格者が参入しやすく、安易な請求を受け入れる工場が保険会社に重宝されている実態」が指摘され、業界ルールの統一化と業種認定の必要性が強く浮き彫りとなった。
まとめ
本講習会は、医療業界の「ガラス張りの料金体系」と「厳格な記録義務」を鏡とすることで、自動車整備業界が抱える不透明な構造を可視化する場となった。全国から集まった参加者の熱量ある議論は、業界全体が「適正請求と信頼構築」という変革の入り口に立っていることを示している。
横山英里香氏(大阪府自動車車体整備協同組合・青年部会部会長)
白江茂弘氏(左)と細田宗範氏