JOURNAL 

【決定版】令和7年度交通の動向・令和8年度交通施策より自動車整備・鈑金塗装の2026年政策動向と対策を考える

自動車整備・鈑金塗装の事業構造、人材不足、ADAS・EV、OBD検査、特定整備、適正利益の課題を読み解く

  • #ニュース

2026/07/15

 国土交通省がまとめた令和8年版交通政策白書では、2025年度の交通動向と実施施策を整理した上で、2026年度の政策として、自動車整備人材のリスキリングと事業者の適正な利益確保を掲げた。
 乗用車保有台数が6,000万台を超える一方、整備現場では人材の高齢化や所得差、先進安全技術への対応が課題となっている。鈑金塗装についても、外板を復元し色を合わせるだけでは修理が完結しない車が増えた。バンパーやフロントガラス周辺にカメラ、レーダーが配置され、脱着・組み付け、故障診断、エイミング作業までを管理する必要があるためである。

 自動車整備・鈑金塗装の現場に関わる項目を洗い出したのでぜひ一読いただきたい。

参考資料:国土交通省、「令和7年度交通の動向」及び「令和8年度交通施策」(交通政策白書)について


令和7年度交通の動向
約6,206万台の乗用車が支える整備・修理需要

 2025年の運転免許保有者数は約8,151万人、乗用車保有台数は約6,206万台であった。人口と免許保有者数が減少局面に入っても、保有車の規模は大きく、一般整備・車検、事故修理が地域の移動を支える基盤であることに変わりはない(警察庁「運転免許統計」、一般財団法人自動車検査登録情報協会「自動車保有台数の推移」より)。

 家計調査を基にした白書の集計では、2025年の1世帯当たりの自動車等購入・維持費は年間24万5,000円となり、2000年比で20.6%増加した。消費支出に占める比率は7.9%である。
 ただしこの金額には車両購入費、ガソリン代、自動車整備費、駐車場代、自動車保険料などが含まれており、整備・修理市場だけの金額ではない。この区分をそのまま整備需要の伸びと解釈することはできない(総務省統計局「家計調査」より)。

 むしろ整備事業者が注視すべきは、車の保有に伴う家計負担が増している点である。部品代、材料費、エネルギー費、診断機器費が上昇する一方、利用者は修理費だけでなく保険料や燃料費の増加も負担している。工賃の改定を行う際には、値上げ幅だけを示すのではなく、診断→分解→修理→校正→完成確認といった作業過程を説明できる見積りが必要になるだろう。


自動車整備は7万2,317事業者
98.4%を中小事業者が占める

 2025年度の自動車整備事業者数は7万2,317、営業収入は6兆6,592億円、1事業者当たりの平均営業収入は0.9億円である。交通関連の事業区分では、自動車整備事業の事業者数が最も多い。別の2024年度集計では、7万2,481事業者のうち中小事業者が7万1,315を占め、その比率は98.4%であった(一般社団法人日本自動車整備振興会連合会「自動車整備白書」より)。

 ここで注意したいのは、0.9億円という数値が利益ではなく平均営業収入である点。工場ごとの入庫構成や車検及び事故車修理比率、部品売上、外注費などは異なるため、この平均値から収益性を判断することはできない。
 一方、事業者の大部分が中小規模である以上、スキャンツールやその作業場、車種別の修理情報、研修やエイミング環境などの諸費用を、各社が単独で負担することには限界がある。2026年度施策が「適正水準の利益の確保」に踏み込んだのは、設備と教育への再投資ができない状態では、高度化する車両を支えられないという問題認識の表れだろう。


整備人材の課題は
人数不足から技能構成の不足へ

 2025年の自動車整備要員数は約40万人である。平均年齢は47.7歳で全産業平均の44.4歳を3.3歳上回る。月間労働時間は181時間となり全産業平均より8時間長い。年間所得額は約504万円と全産業平均の約546万円を42万円ほど下回った。
 また2級自動車整備士における女性比率は4.8%にとどまる(厚生労働省「賃金構造基本統計調査」、一般社団法人日本自動車整備振興会連合会「自動車整備白書」より)。昨年には、産学官の高等学校などへの訪問、動画やSNSを用いた職業PR、事業者向けの人材確保セミナーを実施。「自動車整備士等の働きやすい・働きがいのある職場づくりに向けたガイドライン」も改訂・周知が図られ、学校と地域の連携による整備士志望者の確保が検討された。

 職業認知を高める施策は必要であるが、採用広報だけで人材不足は解消しない。若年者が入職しても、教育時間を確保できず、資格取得後の賃金や職務の広がりが見えなければ定着にはつながらないからである。特に鈑金塗装では、故障診断やADAS関連作業まで求められる。技能範囲の拡大に対して処遇が変わらなければ、熟練技術者への作業集中が進む可能性がある。


2026年度施策の肝は、
リスキリングと適正利益の確保

 2026年度施策では、自動運転・先進安全技術、EVの点検整備に必要な電子装置知識と技術を備えた人材を確保するため、地域の整備事業者が連携して実施するリスキリング研修を支援するとした。各地域で人材確保セミナーを開催するとともに、整備事業者が適正水準の利益を確保し、人材の確保・育成を進められる環境を整備する方針である。

 政策の重点は、単に整備士の人数を増やすことから、必要な技術を地域全体で確保することへ移りつつある。カーメーカーごとにセンサー構成や診断方法、エイミング条件が異なる中、一人の整備士がすべての車種を同じ深さで扱うことは難しい。研修の共同化、得意分野の分担、他の認証工場との連携を前提にした供給体制が現実的であろう。
 同時に適正利益が確保できなければリスキリングは続かない。研修に出している時間は売り上げを生まない上、診断機器の更新やソフトウェア利用、修理情報へのアクセス、作業記録の作成体制の構築にも費用がいる。高度な作業を従来の工賃に内包したまま受注する構造では、教育か品質管理の原価を削る必要がある。


鈑金塗装は外観の復元から安全機能の復元へ

 白書では、鈑金塗装を独立項目として取り上げていない。しかし特定整備制度では、衝突被害軽減ブレーキなどに用いられるカメラやレーダーの調整、センサー脱着や取り付け位置・角度変更、センサー付きバンパー・グリル・フロントガラスなどの脱着が、電子制御装置整備に該当しうることが明記されている。修理では同認証と作業後の調整が必要となる場合がある。自社に必要な認証や設備がない場合は、対象作業を認証事業者へ外注する体制が必至である。
 また、塗装作業そのものが直ちに特定整備に関わるわけではないが、塗膜の肌や色差が許容範囲に収まっていても、安全機能が正常であることの確認が抜けていれば修理を完結させたとは言い難い。

 特に注意が必要なのは、損傷範囲が小さく見える事故車である。バンパーカバーの擦り傷や軽い変形であっても、その内側にレーダーやブラケットがある車種では、外観だけで作業範囲を決められない。初期診断には、外板の損傷確認と同時に装備、センサー位置、故障コードの有無、メーカー指定作業を確認する視野の広さが必要となる。


OBDとサイバーセキュリティーによる
点検整備の変化

 白書では、自動運転・先進安全技術やEV普及に伴う利用実態の変化により、点検整備におけるサイバーセキュリティーの確認や、車載式故障診断装置(OBD)を活用した効率的な点検整備を検討するとしている。2025年度には5つの点検整備項目を見直し、2026度も引き続き項目を整理する方針である。

 鈑金塗装でも、部品の脱着によって一時的な故障コードが記録されることがある。品質管理上はコードを消去するだけでなく、記録された理由をチェックし、組み付け後に現在故障が残っていないか、必要な調整が完了したかを確認する必要がある。スキャン・エイミング結果、外注先から受領した作業記録を車両単位で保存できる体制が顧客からの信頼性を左右する。


全作業を内製化する必要はない
地域連携を前提に設備投資を判断する

 当然ではあるが、何らかの事情がない限りすべての工場が全メーカーのエイミング設備を自社で保有する必要はない。国交省の特定整備対応資料でも、一定の条件下での作業場の共同使用や、認証事業者への外注(作業委託)が想定されている。入庫が少ない作業まで内製化すれば、設備の稼働率が上がらずコストを回収できない可能性がある。
 経営判断としては、自社の入庫車種やADAS装着率、ガラス交換件数を把握し、内製化する作業と外注する作業を仕分けるべきである。外注先の選定では価格だけでなく、認証範囲や作業記録、再調整時の責任分担、納期を確認する必要があるだろう。

 一方、外注するからといって自社で関連知識が不要になるわけではない。対象作業を見落とさず、適切な外注先に指示し、戻ってきた記録を確認するには、フロントや見積り、鈑金担当者にも電子制御装置整備の基礎知識が求められる。2026年度の施策が地域事業者の共同研修を支援する理由は、この判断を地域全体で底上げするためでもあると考えられる。


見積りは部品と塗装面積だけでなく
診断工程も反映すべき

 ADAS車の修理では、部品代、鈑金・塗装工賃だけでは原価を表しにくい。対象車や作業確認、故障診断、整備情報の確認、エイミング、完成確認、記録作成、外注管理といった工程が発生するためである。

 これらを従来工賃に含めたままでは、作業者の負担だけが増え、経営側からは高度な作業の採算が見えなくなる。見積書では、作業を可能な範囲で分け、なぜ必要なのかを顧客や保険関係者に説明できる形にすることが望ましい。白書が掲げる‟適正水準の利益”は、単なる値上げだけではなく、必要工程を可視化しその対価を確保する取り組みと結び付けなければ実効性を持たない。


2026年度に整備・鈑金塗装事業者が優先すべき対応

対象作業と認証範囲を棚卸しする

 自社が扱う車種、カメラ及びレーダー付き部品、ガラス交換、バンパー脱着、エイミングの実施状況を整理し、特定整備の認証範囲と実作業にズレがないかを確認する必要がある。作業を外注している場合も、委託の判断基準と記録の受け渡し方法を標準化する。

技術マップと設備投資を連動させる

 技術者が、どの診断や調整をどこまで担当できるかをマップ化する。その上で、入庫実績の多い車種と作業から研修や工具、スキャンツール、作業環境への投資を行うべきである。設備を購入してから仕事を探すのではなく、入庫構成と地域需要を確認して投資順位を決める必要がある。

教育時間を原価として管理する

 研修は余裕のある日に行う付帯業務ではなく、将来の売り上げを支える。研修時間や資格取得の費用、作業習熟までの時間を原価として把握し、工賃設定と人員計画に反映させる必要がある。研修後の処遇や担当業務が変わらなければ、技能の定着にはつながりにくい。


修理品質を記録で証明する

 外観写真、損傷診断、使用部品、寸法確認、診断・エイミング結果、完成確認を車両単位で残す。今後の修理品質への第三者評価は、担当者の経験だけでなく必要工程を実施したことを後から説明できるかによって評価されるだろう。記録の標準化は、再入庫対応だけでなく、技術継承と教育にも有効。


整備・鈑金塗装業の競争軸は
「安さ」から「機能復元を証明できるか」へ

 令和8年版交通政策白書から見えるのは、自動車整備需要の有無よりもその需要を安全かつ持続的に引き受けられる体制があるかどうかであろう。約6,206万台の乗用車保有を背景に、7万社を超える整備事業者が市場を支えているが、必要な技術は電子装置、故障診断、EV、サイバーセキュリティへと広がっている。

 鈑金塗装においても、仕上がりの美しさと寸法精度だけでは十分ではない。修理後の車両が、衝突被害軽減ブレーキや車線維持支援などを設計通りに作動させられる状態に戻っているかまで確認し、その修理過程を記録で示す必要がある。

 2026年度施策がリスキリングと適正利益を同時に掲げた点は重要である。教育を行っても、その技術に見合う工賃と処遇がなければ人材は残らない。設備を導入しても、必要作業を見積りに反映できなければ更新費用は捻出できない。整備・鈑金塗装事業者に求められるのは、安価に作業を請け負う体制ではなく、必要な機能を復元し、その根拠を説明できる事業への転換だろう。