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「生活保護利用者の車保有の緩和」が投じた波紋――生活保護制度の現場と世論が求める説明責任
2026/10/23
未就学児を育てるひとり親世帯を対象に、厚生労働省が生活保護利用者の自動車保有要件を緩和する方向で検討に入った。公共交通機関が乏しく、車がなければ就労や子育てが著しく制限される地域での利用を見直す考えだ。自動車を持てないことが自立を阻んでいるという指摘に対応する狙いがあるが、このニュースが報じられると、世間の反応は複雑に揺れた。制度の理念と現実のギャップ、そして国民感情の摩擦があらわになっている。
朝日新聞
生活保護利用者の車保有を緩和検討 未就学児のひとり親対象 厚労省
https://news.yahoo.co.jp/articles/51c107261ae1bda8a28871b6194e2a2820677006
「原則処分」の制度と、現実の課題
生活保護制度において、自動車は価値ある資産とみなされ、原則として処分が求められる。例外的に保有が認められるのは、障害がある人や公共交通機関の利用が極めて困難な地域の住民が通勤・通院に使う場合に限られてきた。保育所への送迎目的で通勤用車両の保有が認められる例は極めて珍しく、日常生活でも最低限の買い物などに用途が限られている。
厚労省は自治体との調整を進め、早ければ年内にも運用の見直しを図る姿勢だ。しかし、この方針に対しては、車を維持するためのコストや事故時の保障問題を巡り、疑問の声が相次いでいる。
維持費はどこから出るのか――国民年金との格差への疑問
「車を保有すれば、ガソリン代や保険料、駐車場代、整備費用が継続的に発生する。最低限の生活を保障するための保護費からそれらを捻出できるのなら、現在の支給水準は高すぎるのではないか」
ネット上で噴出したのは、維持費の捻出方法に対する根本的な疑問だ。勤労収入から維持費が控除される仕組みがあるとはいえ、保護費の範囲内で車を運用できるのであれば、保護水準そのものの妥当性が問われることになる。
さらに深刻なのは、公的年金制度との整合性だ。令和8年度の国民年金満額は月額7万608円であり、受給者はここから家賃まで支払わなければならない。一方、生活保護では生活扶助に加えて住宅扶助が別に支給される。年金を受給しながら生活苦で車を手放す高齢者が存在するなか、生活保護利用者への条件緩和は「どちらが手厚いのか」という不満や不公平感を加速させている。
事故発生時の責任と「無保険」リスク
もう一つ、懸念の渦中にあるのが安全面と賠償責任の問題だ。
生活保護受給時には各種保険の解約が求められるケースが多いことから、「車の所有を認めることで無保険車が街を走るのではないか」「万が一、事故が起きた際に被害者への賠償責任を果たせるのか」という不安が広がっている。生活保護費から任意保険料や維持費が支払えるのかという不透明さは、一般ドライバーにとって重大な懸念材料だ。
カーシェアリングや時間貸しチケットの配布といった代替案を提案する声や、「子どもが就学した後の線引きはどうするのか」「過疎地で介護を担う人々とのバランスはどう取るのか」といった実用面での指摘も相次ぐ。
救済と納得感の狭間で
自立を支援するために移動手段を与えるという厚労省の狙いそのものは一理ある。しかし、それが真に機能するためには、車にかかる維持費の捻出根拠や保険加入の義務付け、さらには国民年金受給者との不均衡をどう解消するのかという具体的な説明が不可欠だ。
制度の目的である「自立の助長」と、納税者や他の社会保障受給者が抱く「公平感」。この双方を満たす着地点を見出せない限り、今回の緩和策に対する国民の懐疑的な視線が晴れることはないだろう。
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