JOURNAL 

後継者不足の整備工場をM&A、グループソリューションで「自動車整備網の崩壊」を防ぐ

  • #インタビュー

2026/07/16

 6月15日、アプティ(井田秀明代表取締役、東京都渋谷区)は千葉県柏市で整備工場を運営する昭和自動車の全株式を取得。アプティグループの新会社「デファクト」として新たな経営体制をスタートさせた。同社代表取締役に就任した齊藤孝通氏に、M&Aの狙いと、デファクトが目指す整備業界の将来像について話を聞いた。


デファクト 代表取締役 齊藤 孝通氏

̶デファクト設立の経緯と目的は

 整備工場の後継者不足による廃業と、それに伴う地域の整備インフラの崩壊を防ぐため設立され、当社の持つアセットを最大限活用して、自動車業界の抱える課題解決に寄与していくほか、今回のようなM&Aも含めて積極的に自社の事業領域も拡大させていく考えだ。


̶同工場をM&Aした経緯について

 我々がこの工場を承継させていただいたのは、千葉県柏市に大変歴史があって地元密着の自動車整備工場が後継者不在で悩んでおられると聞き、すぐに連絡を取らせてもらったのがきっかけだ。実際に訪れてみて、まずこの交通量の多い立地の良さに大きな可能性を感じた。

 そして何より、何十年にもわたり地域に貢献されてきた前社長の人柄と、その歴史の重みに感銘を受けた。地域のインフラを支え続ける、その思いを引き継ぎつつ、我々はここを次世代につながる新しい整備工場のモデルを提唱していくための、いわばフラッグシップ拠点として位置付けている。

今回M&Aがあった昭和自動車は1960年(昭和35年)創業。千葉県内でもトップクラスに交通量がある国道16 号線に面しており、これまで地域のインフラを大きく支えてきた

̶整備業界の現状をどう見ているか

 後継者不足による事業承継の問題は、もはや看過できないレベルにまで深刻化している。地域の交通インフラを支える重要な役割を担ってきた町の整備工場が、次々と廃業を余儀なくされているのが現実だ。このままでは、適切な整備を受けられない整備難民がますます増加してしまうだろう。

 同時に、整備士不足も大きな課題である。色々な要因が複合的に絡み合っているが、従来、アプティは人材面や労働環境面でこの整備士不足の解決に取り組んできたが、今回、最前線である整備工場の承継をきっかけに、そのスピードと質を更に一段高いステージに引き上げていく。その先駆けとなる役割を、我々が担っていきたい。

̶同工場の今後の事業方針は

 積極的に新しいことにも挑戦していく考えだ。アプティで人材事業や出張整備事業に携わってきた経験を踏まえて、私なりにより地域に貢献できる領域は見定めができている。ここでスピーディかつ確実に取り組んでいく。

 また働き方改革に向けて、年間休日120日以上、土日祝日休み、週休3日も視野に入れた福利厚生の制度構築に加え、今年の秋を目途に物理的な環境整備にも着手する。工場はフルリノベーション予定だ。

 ありがたいことに、M&A後に従来の従業員からこの方針に賛同をいただき、全員に残ってもらうことができた。また、前社長にも事業が回り出すまで伴走していただけることになっており、深く感謝している。

同工場の従業員は欠けることなく新体制に突入。前社長・江原敏雄氏(中央右)も伴走し思いを引き継いでいく

̶業務プロセスについての改革は

 全館空調や工程管理のデジタル化など、整備士が「ここで働きたい」と思えるような環境に改善していく。現場の工場でも夏は涼しく冬は暖かい、最新の空調設備を完備した快適な職場環境を整えることは、生産性向上のために不可欠な投資だと考えている。

 より具体的な施策としては、場内に大型モニターを設置してリフトごとの作業予定を全員で共有したり、ペーパーレス化を推進したりと、徹底した「見える化」を進める。

 さらに、各整備士のマインドセットをより強いものに変えていきたい。個々の仕事がどれだけの売り上げにつながっているのかを明確に示し、成果が正当に評価され、給与に反映される評価制度を定着させる。これにより日々の業務へのモチベーションを飛躍的に高められると確信している。

̶デファクトの今後の方針は

 まずは、この第1号店を軌道に乗せることが最優先である。この1年で収益を上げていける体制作りを完遂させる。グループ内でも全面的に協力し合い、ソフト・ハード面ともに大きく投資していく。

 そして長期的には、全国47都道府県への拠点展開を目指したい。

̶グループ間の協業について

 アプティには総合人材サービス・出張整備・環境整備・外国人材と様々なサービスがあり、それらのシナジーを発揮するハブとなっていきたい。

 また、新サービスである、整備とワーケーションを組み合わせた”ビーケーション”との親和性も高いと考えている。

 これは整備士を地方へ誘致し、企業や個人宅などでの整備業務を請け負うサービスで、整備士は地域の空き家を活用して滞在する。一定期間にわたり地域の車両整備を行うだけでなく、農機具のメンテナンスや、高齢者宅の訪問による安否確認・生活環境の報告を行うなど、新たな地域貢献の形を構想している。

 今後のデファクトの展開と合わせて地方の整備インフラを支え、また整備士のさらなる社会的地位向上にもつなげていく。

̶最後に読者にメッセージを

 この工場を成功させ、モデルケースを全国に広げることで整備難民を生み出すことなく、国内の整備インフラと業界そのものを守りたいと考えている。

 この記事を読んでくださっている同業の皆様の中にも、後継者問題や人材不足に悩まれている方がいらっしゃるかもしれない。我々はそのような相談も心から歓迎している。共に、整備士という仕事が夢と誇りを持てる、そんな未来を築いていきたい。