シネマエンドレス「愛はステロイド」

この愛は、膨張して、依存して、暴発するー

　1989年。トレーニングジムで働くルーは、自分の夢をかなえるためにラスベガスに向かう野心家の女性ボディビルダー、ジャッキーと出会い、夢中になる。ともに暮らし始めたルーとジャッキーだったが、町で警察をも牛耳り凶悪な犯罪を繰り返す父や夫からDVを受け続ける姉を家族に持つルーの身の上によって、2人の愛は暴力を引き起こす。ルーの家族の犯罪網に引きずり込まれた2人は次第に追い詰められていく。はたしてこの苦境から抜け出すことはできるのか……。

　大胆で示唆に富んだストーリーテリングと刺激的な演出、そして俳優陣の化学反応が各所から絶賛され、海外映画批評サイトの観客満足度で94％を獲得した本作。「ムーンライト」、「レディ・バード」、「ミッドサマー」など、観る者の心に焼き付いて離れないジャンルレスな映画を数々手掛けてきた当コーナーでお馴染みのスタジオA24による規格外のクィア・ロマンス・スリラー。

サブカルおじさんの推しどころ

　クライムサスペンス、（女性同士の）ラブロマンス、ファミリードラマ、スリラー……これほどジャンルを往来して紹介が難しい作品もなかなかないだろう。

　だが、ジャンルのバランスの取り方が絶妙で、終始アクセル全開なのにとっ散らかってはおらず、キレイにまとまっている……と思わせて最後の最後に踏んでいたアクセルを離し、直後にフルパワーで踏み抜いて「愛はステロイド」というジャンルを作り上げた脅威的なストーリーは必見。さらに筋肉、タバコ、薬物、愛、家族、虫……登場人物全員が何かに依存しており、それらが複雑に絡み合う緻密な脚本と、それを演じ切る俳優陣にも注目。「俺たちに明日はない」、「テルマ＆ルイーズ」などの犯罪者ペア映画は数多いが、本作もその名作たちに名を連ねても遜色ないだろう。車や風景、ファッションなど1989年を感じさせる演出もお見事。

　「○の呼吸！」と真似したくなる時期だろうが、息ができなくなるほど胸が苦しくなる映画も面白いんだぞ！