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EVモーターズ・ジャパンでの国産EVバスの崩壊、中国製並行輸入バス320台が問うリコール制度の盲点

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2026/10/06

 2026年秋、大阪メトロの敷地内などに190台のEVバスが保管されたまま使用を断念した状態が続いている。かつて「脱炭素社会の象徴」として大阪・関西万博の輸送の主役を担うはずだったバスである。
 販売元のEVモーターズ・ジャパン(以下、EVMJ)は4月14日に東京地裁に民事再生法を申請し、事実上経営破綻した。大阪メトロは67億円の特別損失を計上し、政府、大阪府及び大阪市が交付した補助金の返還を迫られている。

 問題の発端は「国産のはずが中国製だった」という点に集約されるが、この問題が自動車整備・鈑金塗装の現場に突きつけているのは、それよりはるかに根深い問いである。「並行輸入EVを修理・点検する際、安全の責任は誰が負うのか」。現行法の枠組みでは、この問いへの答えが存在しないのではないだろうか。


EVモーターズ・ジャパンとは
何者だったのか

 同社は福岡県北九州市若松区に本社を置く新興企業。‟国産”として販売してきたEVバスの実態は、中国メーカー3社(WISDOM、YANCHENG、VAMO)への製造委託品だったと報道された。車両の企画・仕様策定はEVMJが行い、製造を中国メーカーに委託するというビジネスモデルは、法的には「国産」と主張する根拠にはなりうる。

 万博への採用経緯だが、大阪・関西万博の会場輸送用EVバス150台(オンデマンドバス40台を合わせると計190台)の調達に際し、大阪メトロはEVMJと受注総額90億円を超える契約を締結。大阪メトロの調査報告書(2026年7月17日)では、「車両選定に政治的圧力はなかった」としつつも、「安全リスク認識が不十分だった」として調達プロセスの不備を認めている(大阪メトロ公式サイト、2026年7月17日)。
 補助金があることを前提に調達規模を拡大し、品質評価が形骸化した構造的問題が報告書によって初めて公式に認定された形である。


3割超が不具合
現場で何が起きていたか

 2025年9月3日、国土交通省はEVMJが販売した全車両317台の総点検を指示。結果は衝撃的なものだった。317台中113台、実に3割超でブレーキホースの損傷、ドアゴムクッションの脱落など保安基準違反を含む不具合が確認された。さらに国交省は2025年10月20日にアポなしの立入検査を実施し、113台以外にも重要保安部品に深刻な不具合があることを確認している。同年11月28日、EVMJは85台についてリコールを届け出たが、9月3日の総点検指示から届出まで約3カ月を要した。その背景には、EVMJのバスが並行輸入車に分類されるため、当初はリコール制度の強制力が及ばない状態だったという制度的な問題がある。


並行輸入車はリコール対象外

 道路運送車両法に基づくリコール制度は、国内で型式認定を受けたカーメーカー、輸入業者が対象。並行輸入車(正規ディーラーを経由せず輸入された車両)はこの制度の対象外となる。
 国土交通省も公式FAQで明確に以下のように述べている。「並行輸入車は、リコール制度による自動車メーカー、輸入事業者等の修理を受けられないことがあります」(国交省公式サイト「並行輸入車はリコール対象となるのですか」)。EVMJのバスはこの並行輸入車に分類されるため、当初はリコール制度の強制力が及ばない状態だった。


事件の全体構造
誰が何を失ったか

■大阪メトロの損失:67億円・会長辞任・刑事告発


・67億円の特別損失:バス購入費・補助金返還引当金・廃棄費用など
・補助金返還引当金:30億円計上
・国からの補助金返還額:約6億円
・大阪府及び大阪市の補助金返還額:約5億9,000万円
・河井英明社長(告発時点、6月26日時点の肩書)の刑事告発:背任罪・補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(補助金適正化法)違反
・会長・取締役計3名の引責辞任


■EVMJの経営破綻:負債57億円・民事再生へ

 EVMJは4月14日、東京地裁に民事再生法の適用を申請し受理された。負債総額は約57億円。2月20日には佐藤裕之社長が2月28日付での引責辞任を発表。3月1日付で角英信副社長が後任社長に就任していたが、抜本的な経営改善には至らなかった。不具合対応、補助金返還問題、社会的信頼の喪失が経営を直撃した結果だろう。


イクヨへの事業譲渡
EVバス事業は「再生」できるか

 8月4日、東証スタンダード上場の自動車部品メーカー・イクヨがEVMJのEVバス事業を譲受すると発表。8月10日に事業譲渡契約を締結し、11月頃の譲渡実行を予定している。イクヨは「次世代モビリティ分野への展開を飛躍的に加速させるための重要な戦略投資」と位置付け、自動運転技術との融合を描いていると公表した。
 しかし「中国製並行輸入バスの品質管理問題・リコール制度の空白・部品供給体制の不備」という根本的な課題は解消されていない。事業の再生が順調に進むかは不透明だ。このまま行けば、大阪メトロが使用を断念した190台の処遇が未解決のまま、11月の事業譲渡を迎えることになる。




 EVMJの問題では、並行輸入EVの安全を誰が、どのような仕組みで担保するのかという制度設計も問われていた。
 日本のリコール制度は「型式認定を受けたメーカー・輸入業者」を名宛人として設計され、並行輸入車はその外側に置かれている。型式認定を受けていない車両が不具合を起こしても、強制的にリコールを命じる法的根拠が存在しない。EVMJが自主的にリコールを届け出るまでの約3ヵ月間、多くのバスが不具合を抱えたまま公道を走り続けた。
 EV・PHEV・FCVの普及が加速する中、並行輸入EVの流通も今後増加する可能性がある。整備・鈑金塗装の現場技術者は「リコール対象かどうか」を確認する習慣を持つだけでなく、「そもそもリコール制度が適用されない車両かどうか」を入庫時に確認する視点もあった方が良いだろう。
 イクヨへの事業譲渡が2026年11月に実行されれば、EVMJのEVバスは新たな事業体のもとで整備・修理が継続されることになる。大阪メトロが使用を断念した190台のバスが、この問いへの「生きた証拠」として残り続ける間は制度の空白は埋まらないままである。