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国交省調査に日車協連が公式見解

事故車修理“標準作業時間”論争が新局面へ

  • #コラム

2026/06/26

国交省調査に日車協連が公式見解
「その時間、本当に現場で終わりますか?」
事故車修理“標準作業時間”論争が新局面へ

2026年6月26日、日本自動車車体整備協同組合連合会(日車協連)は、国土交通省が公表した「事故車修理の標準作業時間 調査結果」および株式会社自研センターによる見解に対し、公式見解を発表した。
今回の発表は単なる一団体の意見表明にとどまらない。長年、車体整備の現場で積み重なってきた「指数通りでは作業が終わらない」という違和感が、ついに行政主導の議論として表面化した、業界の未来を左右する転換点とも言える内容だ。

国交省が動いた。「指数で終わらない」という現場の声

事故車修理の現場では、以前から以下のような切実な声が少なくなかった。

  • 「標準作業時間(指数)どおりに作業すると利益が出ない」
  • 「品質を守って丁寧に作業するほど、かえって採算が悪化する」

今回、国土交通省はこうした現場の問題意識を背景に、海外の標準作業時間(CAB工数)との比較調査を初めて実施した。日車協連は、行政によるこのアプローチを次のように高く評価している。

「適正な修理費確保を目指す車体整備業界にとって画期的な取り組み」

特に、国交省が第三者的立場で議論の場を設ける方針を示したことや、指数内で収まらない場合の個別交渉の考え方を周知する姿勢について、業界の適正化に向けた「一定の前進」として受け止めている。

「後出し説明ではないか」 ―自研センター見解への違和感

一方で、日車協連が強い言葉で疑問を呈したのが、指数を算出している自研センター側の説明姿勢だ。

自研センターは、海外のCAB工数との間に見られる時間差について、「リフトアップなどの付帯作業時間は、別の関連作業指数に含まれている」と説明している。しかし日車協連は、問題は“含まれているかどうか”そのものではなく、その根拠や内訳がこれまで現場にまったく共有されてこなかったことだと指摘する。

今回の国交省調査によって初めて可視化された指数構造について、あたかも従来から周知されていた前提(既知の事実)であるかのように説明されたことに対し、業界として強い違和感を示した。
つまり、本質的な論点は時間の長さの違いそのものではない。「指数はどう決まり、何が含まれているのか」という算出プロセスの不透明さ・透明性の欠如にあるという主張と読み取れる。

実際の現場とのズレは埋まるのか

日車協連は、令和7年度に独自に実施した「補修塗装作業工数」の実測調査データにも言及。実際の現場データからも、現在の指数には以下の要素が十分反映されていない可能性を浮き彫りにした。

  • 実作業上、どうしても避けられない工程
  • 細かな工程
  • 品質確保のための追加時間

もし標準時間と実態の乖離がこのまま放置され続ければ、現場の事業者は次の過酷な二択を迫られることになる可能性が大きいのではないだろうか。

  1. 品質を守って利益を削る(経営の困窮)
  2. 採算を守って作業密度を上げる(品質低下の懸念)

いうまでもなく、どちらの選択肢も持続可能ではない。現場の疲弊はすでに限界に達しつつあると思われる。

本当の争点は「工数」ではなく「人」

今回の声明で最も注目すべきなのは、日車協連がこの問題を単なる「工数の数字論争」で終わらせていない点だ。背景にあるのは、業界が直面している深刻な人材不足である。
発表では、以下のような厳しい客観的データが示された。

  • 車体整備業界は全業種平均を大きく上回る求人倍率を記録している点
  • メカニックの平均年収は全産業平均を100万円以上下回る「約400万円水準」にとどまっている点

車体整備業の収益構造の歪みが、そのまま労働待遇の低さに直結しているのだ。日車協連は、以下の健全なサイクルを確立できなければ、将来的に自動車の安全を支える担い手がいなくなる「整備難民」の時代が現実のものになると警鐘を鳴らす。

適正工数の確保

    ↓

適正収益の実現

    ↓

賃上げ・待遇改善 

    ↓

人材の確保・定着


という流れを作れなければ、「整備難民」が現実になるという警鐘でもある。

筆者視点  “見積の話”から“産業政策の話”へ

これまで事故車修理の「指数」を巡る議論は、主に個々の現場と損害保険会社との間で行われる「価格交渉(見積ベースの話)」の文脈で語られることが大半であった。

しかし今回、行政である国土交通省が本格的な調査に乗り出し、業界団体がその透明性と実態反映を公に求めたことで、議論の次元が大きく変わり始めている。これは単なる作業時間の微修正というミクロな問題ではない。

日本のモビリティ社会において、「事故車修理というインフラを誰が担い、誰が次世代へ継承していくのか」という、産業政策の根幹に関わる問いが数字の向こう側に現れている。

今後、国交省・自研センター・損害保険会社・現場事業者の4者による対話が、どこまで具体的かつ実効性のある形で進展するかが注目される。


参考:国土交通省「事故車修理の標準作業時間 調査結果」 および自研センター見解に対する当連合会の見解 | 日本自動車車体整備協同組合連合会