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ANEST IWATA A.I.R.、「現場」起点の開発拠点 「オートテックベース湘南」がオープン

廉価な水性塗装ブースで「現実的な解」提示 機械工具メーカーと共同開発、フィリピン展開も視野

  • #ニュース

2025/10/21

寒川南インター近くに立地し、接道している道路の道幅も広く、角地で2面接続の好立地。看板を大きく目立たせることでドライバーからも視認性が高く安全に来場しやすい。来店するお客への配慮がこうしたところにも現れている

ANEST IWATA A.I.R.(神奈川県横浜市)は10月12日、湘南エリア最大級のトータルカーサービス拠点「オートテックベース湘南」のオープニングイベントを開催した。同施設は、産業機械メーカーであるアネスト岩田(親会社)のグループ新会社が運営。「作る側」から脱却し、「現場の視点」を製品開発に反映させることを目的とし、業界の未来を創る「実験場」としての役割を担う。

鈴木社長自ら工場ツアーを行い、車体整備の現場を深く知り、現場の課題を共有したいと強く訴えた

業界の課題解決へ 「使う側」の知見を活かす

2026年に創業100周年を迎えるアネスト岩田は、これまでスプレーガンやコンプレッサー等の産業機械を「作る側」として提供してきたが、市場ニーズを間接的にしか捉えづらいという課題を抱えていた。

この課題を解決するため、ANEST IWATA A.I.R.を設立。自ら製品を「使う側」となることで、現場のリアルな声を製品開発へフィードバックし、実践的で高品質なものづくりへとつなげるサイクルを確立する。同社は、周辺の車体整備事業者と競合するのではなく、共に現場に立ち、車体整備の課題解決を共に進めたいとの強いメッセージを発信した。

床面のフラット化だけでなく、広めの作業ベイ、明るさにこだわった照明の配置など参考にしたいノウハウが詰め込まれている

安全性と精密性を追求した最新工場

工場は、ベイ数10基超に及ぶ広大な設計。作業効率と品質を追求した最新設備が導入されている。

  • 塗装設備: 本格パネルブース2基とコーティング用プレップブース1基を設置。特筆すべきは、これらの塗装ブースがハイエンド機ではなく、水性塗料を塗装する上でリーズナブルかつ現実的な解決策を提示するモデルである点だ。
  • ADAS・整備設備: EV対応リフトに加え、4輪アライメントテスターなどの精密機器を備えたADASエイミング専用エリアを確保している。
  • 床面設計のノウハウ: 工場の床面は、ボデー修正装置設置箇所を除き、基本的にすべてフラットである。これは、乾燥機や溶接機などの重量可搬ツールを動かす際の段差・溝による事故防止と作業の容易さに配慮したもの。また、床にグレーチングや金属がない構造は、ミリ波レーダーなどの調整時に乱反射を防ぎ、精密な作業(エイミング)を可能にする最新ノウハウを盛り込んでいる。

トヨタの1F7 は採用車種が多く、塗装技術者がその完成度を比較しやすい塗色。ここからも同社が現場の課題解決にかける思いが伝わってくる。

実演したパネルの仕上がり写真。写真で粗が見えるほどであれば明らかな失敗であることから、写真はあくまで参考にしかならない。素人ながら筆者の見立てでは、正視、スカシともに問題なく、ボカシ際の黒ずみも見受けられなかった

水性塗装デモで高度な技術を公開 機械工具メーカーとの協業も

イベントでは、環境配慮型塗料である水性塗料の運用デモンストレーションが行われた。

ANEST IWATA A.I.R.は、テスラ モデルSのフロントドアに、広く採用されているトヨタ・1F7(シルバーメタリック)を塗装する様子を公開。前部15cmほどにプラサフを入れ、ボカシ塗装を実施し、溶剤系塗料と遜色ない作業性と仕上がりを実演した。

使用塗料はBASFのbaslac(バスラック)。デモでは、水性塗料の特性を最大限に活かした高度な技術が解説された。

  • ベタ塗りでの色決め: 溶剤系塗料では1回目のベースコートをドライで塗装するのが一般的だが、水性塗料は塗料の馴染みが良いため、1回目からベタ塗りで色を決める手法を採用。
  • ドロップコート法: ボカシ塗装の際、特にシルバーメタリックで起こりやすい「黒ずみ」を防ぐため、エア圧を少し落として大きめのスプレーミストで塗布するドロップコート法を適用。これにより、メタリック顔料を平滑に整え、グラデーション部分の暗色化を抑制する技法を披露した。

さらに、機械工具メーカーと既に共同プロジェクトを進めており、新しいツールの開発に取り組んでいることが明かされた。

塗装作業の実演には多くの来場者が注目した。ブースは加湿機能があるようなハイエンド機種ではなく、プッシュプル式の一般的なもの。これも同社の狙いで一般的な装備で車体整備の課題解決に臨みたいという姿勢を体現している

グローバル展開で技術を波及

同社は、国内だけでなく海外展開も視野に入れている。フィリピンで職業専門学校との連携による鈑金コース設置計画や、同国でも車体整備工場の拠点を来夏オープン目標で立ち上げ計画があるとし、オートテックベースをグローバルに展開する構想を明らかにした。

ANEST IWATA A.I.R.は、この最新設備と技術を、「車体整備事業者と競合するのではなく、共に現場に立って製品開発に活かす拠点としたい」と改めて表明。車体整備に関する講習会などで積極的に利用してもらうことで、業界全体の技術向上と活性化に貢献していく姿勢を示した。