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[連載]事例と解説ー整備業のための補助金活用講座

第5回 事例:EV対応型整備工場への転換

  • #その他

2025/08/18

 今回も、自動車販売・整備を行うA社が、新分野展開に挑戦した事業再構築の事例をご紹介します。

 A社は大阪府で自動車販売、整備、レンタカー業などを展開しており、整備部門では長年培った技術と、ハイブリッド車対応の実績を持つ熟練整備士が在籍する認証工場を運営してきました。

 しかしコロナ禍により、自動車販売はサプライチェーンの分断と新車・中古車の流通減で大きな打撃を受け、レンタカー需要も旅行・出張の激減により壊滅的な影響を受けました。こうした逆風に加え、今後加速するEV普及と環境規制強化を見据え、A社は事業構造の抜本的な見直しに取り組むことを決断されました。

 自社のSWOT分析によると、強みは整備と塗装の両方を内製化できる希少性の高い対応力や、塗装技術の高さ、新技術習得への意欲と若手技術者の存在が挙げられました。一方で、指定工場認証の未取得による車検対応の外注化や、顧客管理体制・営業体制の未整備が弱みとなっていました。外部環境としては、EVの普及と水性塗料使用車の増加が事業機会であり、他社との差別化につなげられると判断しました。

 そこでA社は、今回の補助金を活用し、「EV対応型整備工場」への業種転換を柱とする再構築に着手することとしました。第一に、EVの構造や電装系に対応するための設備(スキャンツール、EV用リフト、ADASキャリブレーション装置など)を導入し、EV車両の整備・点検の内製化を進めました。第二に、これまでの有機溶剤系塗料から脱却し、水性塗料に対応する新たな塗装ブースを整備し、環境対応とEV対応車両の塗装ニーズに応える体制構築を目指しました。第三に、自社で車検完了可能な「指定工場」の認証を取得すべく、車検ラインを新設し、外注コストの削減と納期短縮による競争力強化を図りました。

 加えて、営業力と顧客管理体制の再構築にも注力。新たにCRM機能付きのクラウド整備システムを導入し、SNSやLINEを活用した営業活動を強化。リスティング広告を通じてEVオーナーや環境意識の高い個人客を新たなターゲットとして獲得し、販売・整備・塗装といった既存事業とのシナジーによるクロスセル戦略で、客単価向上とリピート率の改善を目指しました。

 今回の設備投資総額は、整備用機器、塗装ブース、車検設備、情報システム等を含め数千万円規模に及び、資金調達は金融機関からの融資を活用しました。EV対応技術や水性塗料対応の技術は、現場の若手技術者に継承されており、今後も定期的な外部講習を通じて人材育成を継続していく方針です。

 A社の取り組みは、単なる生き残り戦略ではなく、100年に一度の自動車業界の大変革期における積極的な挑戦といえます。競合が少ないEVや水性塗料市場に早期参入することで、同業他社との差別化と収益性の向上を狙うと同時に、環境対応という社会的要請にも応える持続可能な整備業のモデルケースとして、他の整備事業者にとっても大きな示唆を与える事例となるでしょう。

 次回も自動車アフター業界の事業者の次の一手をご紹介します。



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筆者プロフィール

山田健一(株式会社フォーバル)

 国内大手EC会社にてマーケティングを担当。その後、大手M&Aアドバイザリー会社にて上場企業の経営戦略立案やM&Aアドバイザーとして数多くのM&Aを実行支援。2016年に(株)フォーバルの事業承継支援事業立ち上げに参画。自動車アフターマーケットでの後継者問題の解決、補助金支援に力を入れている。

株式会社フォーバル https://forval-shoukei.jp/