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[連載]みんながわかる! OBD検査

第7回 特定DTCは どうやって選ばれるの?

  • #その他

2025/09/24

■ 特定DTCとはいったい何か?

 今回は、OBD検査で適合」か「不適合」か を左右する特定DTCについて解説します。DTCは約3,000種類もありますが、その中から特定DTCがどのような基準で、誰によって選ばれているのかを見ていきましょう。

 自動車技術総合機構の研修資料には、「特定DTCとは、保安基準に不適合となる故障コード」と記載されています。しかしこれは定義を言い換えたもので、具体的な選定基準はよく分からないと感じる人も多いと思います。国交省の資料では、特定DTCを「OBD検査対象車の装置について、保安基準の性能要件を満たさなくなる『故障』の存在を推定できるDTCで、自動車メーカーが定めるもの」と定義しています。つまり、国交省が選定条件を定め、それに基づいて各メーカーがDTCを選んでいるということです。特定DTCは、「排ガスOBD」と、それ以外の2つのカテゴリーに分類されます。国交省は後者を便宜的に「安全OBD」と呼んでいます。

■ 特定DTCの選定条件

 安全OBDの選定条件としては、以下のように定義されています。:エンジン・アイドリング(電動車は走行可能状態)で停車中に、OBDのみで『故障』を推定できるDTC。

 ただし、以下の4つの除外条件があります:


1 停車状態では記録されず、走行時にのみ記録されるDTC(図1)

2 故障該当するか検証中の状態にあるDTC(=ステータスが「仮」または「未確定)※「過去」故障は明確には除外されていません

3 DTCだけでは『故障』かどうか判断できないケース(例:一時的なガラス曇りなど)

4 機能低下があるが、保安基準には適合している可能性があるDTC(=正常な可能性があるDTC)


 1と2は比較的明確に除外できますが、3や4は判断が難しく、メーカーとしても「実際は故障でないのに検査不適合になる」事態を避けるため、確実に故障と判断できないものは特定DTCに含めない傾向があると考えられます。また、カメラやミリ波レーダーなどの部品交換後にエイミングを行っていない場合に出る初期化未実施DTCや、ECUのバージョン不一致を示すDTCも対象になります。

 一方、排ガスOBDについては、次のように定義されています:


排ガスOBDの技術基準で警告灯の点灯が義務付けられている「故障」にかかわるDTC(現在故障コードに限る)


 ここでいう技術基準には、自己診断の内容や故障判断の詳細も含まれています。なお、図1のように「走行時にのみ記録されるDTC」も、排ガスOBDでは除外されていません。

図1 特定DTC選択の条件

発生条件

特定DTC選択

停止時

走行時

安全

排ガス

A

×

B

C

×

×

第7回 [連載]みんながわかる! OBD検査

■ DTCのステータスとは?

 DTCには、「仮」、「現在」、「過去」という3つのステータスがあります。通常、自己診断で異常を検知すると「現在」状態のDTCとして記録されます。一方、1回目の異常検知では「仮」状態として記録し、2回目の異常で「現在」に確定させる「2Pass方式」のDTCや、3回の異常検知で確定する「3Pass方式」のDTCも存在します。「現在」状態のDTCは、自己診断で異常が解消されたと判断すると、警告灯は消灯します。ただしDTCそのものはすぐには消去されず、「過去」状態として車両に残ります。このステータスの移行にも条件があり、自己診断が複数回正常であることが求められるDTCもあります。排ガスOBDでは、こうしたステータス管理に関する詳細な技術基準が定められています(図2)。たとえば、エンジン始動から走行、停止までの一連の動作を「1ドライビングサイクル(DC)」と呼びますが、「現在」状態になったDTCが、2回連続で異常なしと判定されたDCを経ることで、初めて「過去」状態へ移行します。

 これに対して、安全OBDには統一基準がないため、ステータスの扱いや自己診断の実行タイミングはメーカーごとに異なります。診断の実行タイミングは以下のようです。

・常時または短周期で実行されるもの

・電源ON時に実行されるもの

・一定の走行条件で実行されるもの

自己診断が頻繁に実行されれば、「過去」状態に比較的移行しやすいと言えるでしょう。

 スキャンツールに表示されるDTCステータスは、あくまで車両のOBDから読み出された情報をそのまま表示しているだけです。したがって、「現在」、「過去」といったステータスの意味や判断基準は、各カーメーカーの仕様に依存しています。



図2 DTCステータスの時系列変化例

■ 特定DTCのステータス条件とは?

 OBD検査では、「仮」状態のDTCは対象外とされています。そのため、特定DTC照会アプリでは、車両から「仮」状態のDTCを除外して読み取り、該当する特定DTCかどうかを判定しているようです。

 一方で、「過去」状態のDTCについては、排ガスOBDでは検査対象外とされていますが、安全系OBDでは明確な除外ルールがないため、DTCの読み出し時に「過去」状態は除外していないようです。国交省の定義によれば、「現在故障」とは「現在異常が検知できる状態」に加え、「異常が継続していると判断できる状態」も含むとしています。ただし、この「継続していると判断できる」基準は明確に示されていないため、各メーカーのステータス判断と必ずしも一致るとは限りません。

 実際のOBD検査運用では、特定DTC照会アプリで「特定DTC」と判定されたものの、スキャンツール上ではそのDTCが「過去」状態として表示されることが稀にあります。これは、「現在」と「過去」の判断基準や移行タイミングの違いによって起こると考えられます。

■ 今回の疑問に対する回答

 「特定DTCは国交省の定義に基づいてカーメーカーが選定するが、安全OBDと排ガスOBDでは選定条件が異なり、詳細な技術基準のない安全OBDはカーメーカーによって選定が異なる可能性がある」となります。

 今回は特定DTCについてOBDの技術基準まで踏み込んで調査してみました。今後、本誌と連動して企画中のOBD検査に関するオンラインセミナーでは、図を用いながら、この関係性をより分かりやすく解説する予定です。ぜひご期待ください。


(つづく)


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筆者プロフィール

著者 佐野和昭氏

佐野和昭
 東北大学 工学部卒業後、トヨタ自動車へ入社。アフターサービス部門に配属され、品質管理からサービス企画・改善、部品のマーケティングまで幅広い分野を担当。その後、自研センターの取締役に就任。新しいアルミ修理技法などの修理技術開発を担当し、機械・工具メーカーなどと意見を交わした。現在は、車体整備をはじめとした整備関連業界において複数社の顧問を務めると同時に、セミナー講師やコンサルタントとしても活躍中。