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    塗装レス外板が自動車用外板の「修理」を過去のものとする!?【人とくるまのテクノロジー展2024横浜から見えた車体修理の未来】

    CO2・VOC削減策として各社が材料着色樹脂やハードコートフィルム、塗装レス鋼板、塗料転写シートを提案

    • #イベント

    2024/07/31

     2024年5月22~24日にパシフィコ横浜で開催された自動車技術の展示会「人とくるまのテクノロジー展2024 YOKOHAMA」(主催:自動車技術会)では、過去最多の590社・1115小間が出展。近い将来の車体修理に大きな変化をもたらすことを予感させる新技術も、数多く出品されていた。

     その中でも、昨年までの人テク展には見られなかった新たな傾向として挙げられるのは、車両製造時における塗装工程を大幅に省力化もしくは不要にし、CO2やVOCの排出量を大幅に削減しつつ、従来の塗装と同等以上の意匠性を確保した、塗装レス外板である。

     ホンダ(本田技研工業)と三菱ケミカルは共に、PMMA(ポリメチルメタアクリレート。メタクリル樹脂)を用いたテールライトレンズを使用済み自動車から回収しケミカルリサイクルして、三菱ケミカルのPMMA「アクリペット」の原料としたうえで製造した、無塗装樹脂外板を出品。

    ホンダが出品したホンダ・サステナCの「アクリペット」リサイクル無塗装樹脂製リヤフェンダー。従来の塗装では実現が困難なマーブル柄を採用している

     いずれも、2023年10~11月のジャパンモビリティショー2023で世界初公開されたホンダの3ドアハッチバックBEVコンセプトカー「サステナC」に用いられたものだ。

     このうちホンダが出品したのは、2024年4月のミラノデザインウィークに出品された「サステナC」が装着した、マーブル模様(モール部は透明)に材料着色されたリヤフェンダー。三菱ケミカルはジャパンモビリティショー2023仕様の、鮮やかな赤に材料着色された(モール部は透明)左ドアパネルを出品している。

    三菱ケミカルが出品したホンダ・サステナCの「アクリペット」リサイクル無塗装樹脂製左ドア。発色の良さは従来の塗装と同等以上。かつ材料着色のため赤のような低隠蔽性塗色でも透けや下地塗料への配慮が根本的に不

     また、メラミン化粧板などの建築素材や接着剤、樹脂の開発・製造を手がけるアイカ工業は、自動車向け3次元加飾用ハードコートフィルム「ルミアート」を、内装用のみならず外装用としても提案。

     銅メッキ調のフィルムをフロントまわりに貼付したダイハツ・コペンGRスポーツを同社ブースの通路側に展示したほか、ブース内には光透過印刷や木目・石目調加工のサンプルも披露し、来場者の注目を集めていた。

    アイカ工業「ルミアート」を貼付したダイハツ・コペンGRスポーツ

     これらは樹脂外板(を主眼としたもの)の塗装レス化技術だが、日本最大手の鉄鋼メーカー・日本製鉄も、塗装レス鋼板を自動車外板へ適用することを提案している。

    「塗装レス鋼板製ドア」として出品されたそれは、ヘアライン仕上げの「フェルーチェ」、塗装鋼板「ビューコート」、高耐食めっき鋼板「スーパーダイマ」を組み合わせたもの。

     実際に自動車用外板に適用する際はこれらのうち一つを選ぶことになると思われるが、このうち「ビューコート」は単に塗装を鋼板製造時に施すのみならず、吸熱性皮膜、高反射塗膜、親水性塗膜、高加工メタリックタイプ塗膜、帯電防止塗膜、ゆず肌調塗膜、いずれかの高機能塗膜を付与することが可能だ。

    日本製鉄の「塗装レス鋼板製ドア」。両端が「フェルーチェ(ブラック)」。以下、左より「フェルーチェ(シルバー)」、「ビューコート」、「スーパーダイマ」

     これらの技術は、従来の塗装では困難な意匠や機能性の付与を可能としているだけに、深い傷や大きな凹み、割れが発生した際の修理(鈑金・塗装)は事実上不可能。事故などで損傷した際は交換が必要となる。

     その点において、積水化学工業が出品した「塗料転写シート」は、車両製造工程においてスプレーガンでの吹き付け塗装工程を省略しブースレス塗装を可能にしながら、従来の塗装と同等の意匠性、耐候性、補修性を担保できるという点において、他の技術よりも現実的な解といえる。

    「塗料転写シート」は支持フィルムと転写フィルム、2枚のフィルムの間に塗料をはさみこんだシートで構成。支持フィルムを剥離し、車両に貼り付けたのち、転写フィルムを剥離、塗料を転写し硬化させる。なお、フィルム間の塗料は多層化が可能なため、マルチコート塗装やマルチトーン塗装にも対応可能で、後者は塗装時のマスキングも不要となる。

     いずれにせよ、聖域なき温室効果ガスおよび大気汚染物質の排出量削減に向けた取り組みはグローバルで広がりつつあり、自動車の塗装も例外ではない。敢えて悲観的な見方をすれば、骨格のみならず外板においても、「修理」という概念が存在しない世界へと、遠くない将来に移行するのかもしれない。


    (文・写真=遠藤正賢)

    積水化学工業「塗料転写シート」で塗装された外板のサンプル

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