JOURNAL 

    無償の洗車を有償化した成功例

    【BSRweb独自連載】洗車で始める顧客獲得 第4話

    • #一般向け

    2022/08/15

    本荘興産・平井社長による「洗車で始める顧客獲得」の第4話。今回は若くして整備工場の経営を任された社長が、洗車をフックに新たな顧客を獲得した事例を紹介します。
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     前回は手洗い洗車の効率化によってガソリン以外のサービスが提案できる環境を整え、売り上げアップにつなげた事例を紹介しました。今回は無償で行っていた洗車をフックにして来客を増やし、その後洗車をメニュー化して有償で販売するようになった整備工場の事例を紹介します。

     その整備工場とは福井県敦賀市にある株式会社オートリンクです。同社の陣頭指揮を執る稲葉紘一社長は今から10年前に事業を承継。それ以来「お客様の満足と喜び」を柱にした経営を続けています。

     稲葉社長はもともと車業界の経験がまったくありませんでしたが、赤字に転落していたオートリンクの再建を担うべく弱冠25歳で社長に就任します。承継当初在籍していたスタッフはまもなく全員が退職。会社の資金も乏しく、絶体絶命の状況からスタートしましたが、その後売り上げを3倍に伸ばし、新たに運送会社を創業するなど、大きな成功を収めています。

    株式会社オートリンク 店舗外観

     大躍進のきっかけとなったのは、稲葉社長が抱いた素朴な疑問でした。「車の素人から見ると、自社工場は『なぜ?』と思うことが多かった。お客様がゆったり座れる椅子がないことや、車検整備で入庫した車しか洗車をやらないことなど、これらを変えていくのが急務ではないか」と考えた稲葉社長は、事務所の1階に待ち合いスペースを作ることにしました。
     2階はもともと倉庫でしたがほとんど整理整頓がなされていなかったため、大掃除をして新たな事務所にしました。1階にはソファやテーブルなどを置き、お客様がゆったり過ごせるカフェのような空間を作り上げました。

    1階に設けた待ち合いスペース

     次に着手したのは、顧客の来店を促すための仕組み作りです。そこで車検整備で入庫した車両にだけ行っていた洗車を、すべての来店客に対して無償で行うことを思いつきました。稲葉社長は来店客に対して「洗車はいかがですか?お茶を飲みながらお待ちいただけます」と声をかけ続けました。
     「まごころ無料洗車」と名付けたこのサービス。最初はお客様から「無料と言いつつ何か買わされるんじゃないか」、「洗車があると作業が終わるのが遅くなる」という意見が寄せられることもありました。
     ところが洗車目当てで立ち寄っても無償で洗車してくれることが分かると、瞬く間に口コミで評判になりました。それまでは1週間に5台入庫があれば良いほうだったのが、今では1日に30~40台ほど入庫することも珍しくなくなりました。

     無償洗車の中で水垢や雨ジミ、鉄粉などが付着している車に対しては、有償の洗車メニューを提案して顧客単価アップにつなげています。無償の洗車を続けることでスタッフの人柄や仕上がりなどはお客様に伝わっているので、有償の洗車も販売しやすいのです。
     同社でも洗車作業は女性が活躍しています。女性スタッフが笑顔で車を洗っているのを店内から見ることができるので、若い男性のお客様が手土産持参で毎週のように来店し、オイル交換や点検を依頼していくなど、売り上げはどんどん伸びていきました。

    女性スタッフが洗車している様子はSNSでも公開

     洗車での入庫が増えると、日ごろ別々の業務を担当しているスタッフが協力して洗車をこなすようになるので、チームワークが高まり、「お客様に喜んでもらいたい」というホスピタリティーも向上していきました。社内全員が同じ思いを共有し、お客様に接することで一体感が生まれ、その他のサービスも積極的に提案できるようになりました。
     同社もカーベルの「新車市場」に加盟しており、社内で生まれた一体感を生かして今後は新車のカーリースに注力していこうとしています。カーリースの契約期間は5年、7年と長期にわたりますので、お客様との良好な関係を維持していく上で手洗い洗車は効果的でしょう。

     私は稲葉社長が事業を承継されて以来、手洗い洗車の効率化や洗車をフックにしたビジネスモデルの構築などに関するお手伝いをしています。
     最近の特徴的なエピソードと言えば、無償洗車が増えてきたため門型洗車機の導入を検討したものの、現場から「今の手洗い洗車で充分効率的である」と言われたことです。それよりエアコンが利いたコーティング室が欲しいと要望され、この秋にはコーティング室兼納車室が完成する見込みだそうです。

     今はタブレットでの注文、ロボットによる接客など、様々な業種でデジタル化が推進されています。人が集まる場を作り、その関係性で商売していく、という同社の事例はどちらかといえば時代に逆行しているとの見方もあるでしょう。しかし、人とのつながりを大切にする、という思いは今一度見直されるべきだと私は考えます。





    著者プロフィール



    平井新一(ひらいしんいち)
    株式会社本荘興産 代表取締役社長
    岡山県倉敷市出身 1974年生まれ

    大阪の音楽系専門学校を卒業後、北海道の美装専門店での現場修行を経て1999年に同社へ入社。営業担当として全国を飛び回る傍ら、国産カーメーカーの純正ボデーコーティングの企画・開発にも関わる。2014年より現職。
    近年は洗車ビジネスに関するセミナー講師やクライアント企業のブランディング・PRのサポートなどにも取り組んでいる。

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