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自研センターの基表はなぜ生まれ、どんな問題を抱えているのか?
2025/04/14
自研センターの指数を運用する上で、重要な要素の一つに「基表」というものがある。これは、指数の根幹を理解する上で欠かせない概念だ。現在、指数は基表を利用して作られているが、基表がなぜ、どのような背景で生まれ、今、どんな問題を抱えているのか。筆者の考察を交えて紹介する。
■基表成立の背景:効率化への要請
1985年以前、自動車の修理にかかる標準作業時間は、個々の車種やモデルごとに、脱着、取替、板金、塗装といった作業一つひとつを実際に計測して算出されていた。しかし、この方法では標準作業時間(当時は指数ではなかった)策定に膨大な時間と労力がかかり、効率化が求められていた。
そこで考案されたのが「基表(基表方式)」である。
■基表の定義:過去のデータに基づいた作業時間
初期の基表は、自研センターが1985年以前に蓄積してきた修理作業の実測データを分析し、ボルト1本の締め付けやスポット溶接1点といった、作業の最小単位にかかる時間を割り出したものであった。
この基表が完成したことで、実際に修理作業を観測することなく、修理に必要な部分の構造を調査するだけで指数を策定することが可能になったのである。
現在の指数テーブルマニュアル(自研センターはその時々で発表内容が変わるので、今現在という枕詞が欠かせない)では、基表は「自研センター創立以降、リサーチ工場で行われた300台以上の事故車修理作業時間の調査を行い、データ化したもの」と説明されている。
■制度疲労対策と現状の課題
自研センターは、基表が現状から乖離しないよう、仕上がり品質、強度維持、作業難易度、作業姿勢、部品重量などを考慮し、新型車に新たな締結要素や新素材が採用された場合には、その都度、追加の作業観測を行っているとしている。
しかし、近年、基表に基づく指数策定の信頼性に疑問が生じる事態が散見される。例えば、
・2020年1月発売のスズキ・ハスラーで採用された高減衰マスチックシーラーの作業観測が、2023年11月発売のスペーシアまで反映されていなかった事例
・トヨタのリバウンドスプリング内臓式ショックアブソーバーの専用SST(特殊工具)を使用した指数への変更(最も古い車種でレクサス・CT200h 2011年1月発売 2010年指数策定)
・バンパー裏にレーダーが設置され、自動車メーカーが電波照射範囲の修理を推奨していない車両の樹脂バンパー補修塗装指数が取り下げられた事例
これらの事例は、もし車両一台一台の作業を丁寧に観測していれば、本来であれば気づけたはずの事柄が、基表と構造調査に基づく指数策定のみでは見落とされてしまう可能性を示唆している。
もちろん、基表そのものに問題があるのではなく、構造調査の手法に課題がある可能性も否定できない。いずれにせよ、現状のままでは、自研センターの指数に対する信頼性に疑問が残ると言わざるを得ない状況である。指数をタイムリーに提供することは保険金支払いに重要であることは疑いはないが、効率化以上に配慮すべき問題があるのではないか。
■筆者の独り言
自研センターが発行する指数テーブルマニュアルにおいて、基表のサンプルデータの数について「300台以上の事故車修理作業時間の調査」という記述をしている。そのことについて筆者は以下の2点に疑問を持っている。
第一に、1998年から2025年現在に至るまで、この「300台以上」という表記が一貫して維持されている点。27年もの間、調査台数が変わっていない(実際は以上なので違っているのかもしれないが)のは、昨今の状況を鑑みるに、本当に適宜調査しているのか懸念が残る。
第二に、1985年以降、およそ1,200車種が指数策定されてきたにも関わらず、母集団が「300台以上」の調査で十分と言えるのかという点。
「以上」という表現では上限が不明確であり、もし調査台数が1,000台を超えるのであれば、通常はその旨を明記するだろう。このことから、実際の調査台数は400台未満であると推察されるが、指数策定台数と比較すると、不足している印象が否めない(少々意地の悪い書き方だが、利用者を安心させるためにも具体的な台数は示した方が良いだろう)。
事故の態様は多岐にわたり、正面衝突、側面衝突、後突、オフセット衝突など、衝突時の最大ΔVの大きさを含め、1台に対し(この際、同型フレームでも良い)、複数のパターンでデータを収集する必要があると考えられる。たった300台以上の調査台数で(もしかすると、30年近くで100台も調査台数が増えていないかもしれない)、これらの多様な事故態様を網羅的に分析できているのか、疑問が残る。
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