JOURNAL 

[連載]みんながわかる! OBD検査

第4回 DTCが発生している時は必ず警告灯が点灯するの?

  • #その他

2025/07/28

■ 警告等の役割とアイコン

 メーターに表示される警告灯は、車両に異常や注意すべき状態があることをドライバーに伝える重要な役割を担っています。警告灯は大きく以下の2種類に分けられます(図1)。

① シートベルトの未装着やドアの閉め忘れなど、故障ではないがドライバーに注意を促すもの
② エンジンやABSなどの異常を示し、車両の不具合を知らせるもの


 本稿では、②の「故障に関する警告灯」とDTCとの関係について解説します。警告灯のアイコンの形状や色は、国際規格「ISO 2575」によって定められており、車種や国を問わず共通して使用されています。一度覚えてしまえば、輸入車でもスムーズに対応できるでしょう。

 一方、近年普及が進むAEBやLKASなどの運転支援システムに関する警告灯は、国際的な標準化がまだ充分に進んでおらず、メーカーごとにアイコンが異なるのが現状です。

■ DTCを活用した点検・検査の時代へ

 2021年10月、定期点検の基準が見直され、「OBDの診断結果の確認」が新たに義務付けられました。これにより、特定の警告灯が点灯または点滅している場合は、スキャンツールを使用してDTCを読み取り、不具合の原因を特定する必要があります。加えて、整備要領書に従って適切な整備を実施し、その内容を定期点検録簿に記載しなければなりません。

 対象となる警告灯は、エンジン、ブレーキ、ABS、前方・側方エアバッグの5種類に加え、AEB、LKAS、自動運転装置の3種類を含む、計8種類です。

 さらに2024年10月からは、OBD検査が正式に開始され、DTCを活用した点検が法制度として本格的に組み込まれました。この制度の運用に当たっては、警告灯とDTCの関係を正しく理解し、現場で活かすことが一層重要になっています。

■ 警告灯とDTCの役割と関係性

 警告灯とDTCは、それぞれ異なる目的で車両の状態を伝える手段です。

● 警告灯:ドライバーに向けて運転中の異常を即時に伝える視認性重視のインジケーター

● DTC:整備作業者が後から故障個所を正確に診断するための詳細かつ記録性の高い情報

 図2と表1に示すように、警告灯の点灯とDTCの記録の関係は、重複を含めて以下の3パターンに分類できます。

● 図の左の楕円:警告灯の状態(内側:点灯/外側:消灯)

● 図の右の楕円:DTCの状態(内側:記録あり/外側:記録なし)


図1 主な警告灯のアイコンの種類

図1主な警告灯のアイコンの種類



図2 警告灯点灯とDTCとの関係

図2警告灯点灯とDTCとの関係


表1 DTC消去の可否

ケース

警告灯の状態

DTCの記録

主な発生例

整備上の対応ポイント

A:両方あり

ON → ON

あり

・センサー故障、ハーネス断線
・エンジン不調(複数DTC)

・異常継続中、再現性が高い
・整備要領書に従って点検し原因究明

B:警告灯のみ

ON → OFF

なし

・水滴や汚れによるカメラ視界不良
・一時的異常信号検知、短時間で復帰

・再現性が低く、念のために点検・清掃
・環境や状況を確認、経過観察が必要

C:DTCのみ

ON → OFF
OFF → OFF

あり

・信号断続や軽微な画像異常
例:枯葉がカメラに一時付着

・緊急性が低く警告灯は非点灯
・整備時に履歴確認、再発傾向の把握

 これらの関係を正しく理解し、点検時に適切な判断を下すことが重要です。

・ケースA:警告灯点灯+DTC記録

 最も一般的なパターンで、異常が継続している状態です。センサーやワイヤハーネスの断線、アクチュエータの故障など、物理的な不具合が多く、トラブルシュートに従って点検すれば比較的スムーズに原因を特定できます。

 エンジン系のDTCでは、現象系と原因系の両方が記録されることがあるため、順序立てた確認が重要です。

・ケースB:警告灯点灯(DTCなし)

 一時的に異常と判断される状態が発生したものの、DTCとして記録されるほどではなかったケースです。多くはカーオーナーからの申告で気づくことが多いです。

 たとえば、フロントガラスに水滴がついてカメラ映像が不明瞭になった場合、一時的に障害物検知が困難になり、システムが異常と判断して警告灯を点灯させることがあります。しかし、すぐに水滴が流れ落ちて正常な視界に戻れば、DTCとしては記録されません。

 なお、視界不良をどの程度の時間で「異常」と判断しDTCとして記録するかの基準は、メーカーによって異なります。

 このような場合には、念のためガラス面の清掃やカメラの取り付け状態を確認し、再発防止に努めることが重要です。

・ケースC:DTC記録(警告灯なし)

 一時的な信号の乱れや軽微な異常がECUに記録されたケースで、故障の可能性が低く、走行への影響も少ないと判断された場合、警告灯は点灯しません。

 たとえば、飛んできた枯葉が一時的にカメラ前に張り付いたケースでは、異常と検知して警告灯が一時的に点灯し、視界不良の時間が長ければDTCが記録されます。その後、枯葉がはがれて視界が回復すると、システムは異常が解消されたと判断し、警告灯を消灯させます。

 このように、たとえ警告灯が消灯していても、整備時にはスキャンツールでDTCを必ず確認する必要がありま。DTCの記録から将来の不具合の予兆を読み取り、予防的な対応が可能になります。

■ 今回の疑問に対する回答

 「警告灯はドライバーに向けた即時の通知手段、DTCは整備者向けの診断用データであり、目的と対象が異なる。そのため、両者が常に同時に発生するとは限らない。整備にあたっては、警告灯の点灯条件やDTCの発生条件、それぞれの違いと関係性を正しく理解しておく必要がある」。

 今回は、警告灯とDTCの複雑な関係について整理しました。今後、本誌と連動して企画中のOBD検査に関するオンラインセミナーでは、図を用いながらこの関係性をより分かりやすく解説する予定です。ぜひご期待ください。

                                        (つづく)


バックナンバーはこちらから


筆者プロフィール

著者 佐野和昭氏

佐野和昭

 東北大学 工学部卒業後、トヨタ自動車へ入社。アフターサービス部門に配属され、品質管理からサービス企画・改善、部品のマーケティングまで幅広い分野を担当。その後、自研センターの取締役に就任。新しいアルミ修理技法などの修理技術開発を担当し、機械・工具メーカーなどと意見を交わした。現在は、車体整備をはじめとした整備関連業界において複数社の顧問を務めると同時に、セミナー講師やコンサルタントとしても活躍中。