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[連載]事例と解説ー整備業のための補助金活用講座

第3回 事例:EVの販売、整備インフラの構築

  • #その他

2025/07/28

 今回は、自動車販売・整備を行うA社が、新分野展開に挑戦した事業再構築の事例をご紹介します。

 A社は東海圏を拠点に、自動車販売・整備をはじめ、車検、鈑金塗装、タイヤ販売など幅広いサービスを展開する企業です。創業から数十年にわたり、地域に密着した営業と「お客様第一」という接客重視の経営を行ってきており、車両販売と整備の顧客リストは1.5万人に達しています。国産メーカーを中心とした10社以上の仕入れルートや、ハイブリッド車で培った電装系の整備ノウハウ、地域最低水準のローン金利、そしてWebマーケティングの強みを活かし、堅実な経営を続けてきました。

 しかし、新型コロナウイルスの影響で車に乗る機会が減少し、販売台数が大きく落ち込んだことに加え、政府が掲げる「2035年新車の電動化 100%」という方針により、ガソリン車中心のビジネスモデルでは今後の成長が見込めない状況となっていました。A社の売り上げの8割はガソリン車販売であり、このままでは将来的な売り上げ減が避けられないと判断。そこで、自社の強みを活かし、EV市場への参入という大胆な方針転換を決断しました。

 新たな戦略は、「EVの販売・整備+家庭用充電・発電・蓄電設備の設置」という包括的なサービスの提供です。約500m2の敷地にEV専用ショールームを新設し、EV車両を常時10台展示。国内外のEVを取り扱い、メーカーを横断して比較検討できる地域唯一の店舗として差別化を図ります。また、ソーラーカーポートやテスラ製蓄電池などの家庭用電力設備もセットで提案し、EV購入者の自宅電力環境までをサポートすることで新たな収益源の確立を目指します。

 整備面でも、ハイブリッド車で培ったノウハウを基にEV対応設備(リフト、スキャンツール、絶縁工具など)を導入。さらに、整備士 3人を対象にEV機器メーカーによるEV整備トレーニングを受講させることで、高電圧バッテリー整備などの専門技術も確保しました。支払い方法は、従来のローンに加えて、初期費用を抑えたリース契約も導入。月々数万円でEVを利用できるようにし、ミドル層の取り込みも視野に入れています。

 この事業再構築にかかる投資額は、建物費として過去最大の約 1億円。金融機関からの借入金を活用し、安定した資金繰りを継続しながら実施することができました。初年度は20台のEV販売を目指し、3年以内には新事業売上高が全体の10%以上を占める体制を築く計画です。

 A社の取り組みは、EV普及の波を捉えた地域密着型の挑戦であり、単なる「車両販売」から「エネルギー提案型」への進化とも言える内容です。変革期を迎える自動車業界において、同様の課題を抱える整備・販売事業者にとって、大いに参考となる事例と言えるでしょう。

 次回も自動車アフター業界の事業者の次の一手をご紹介します。


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筆者プロフィール

著者 山田健一氏

山田健一(株式会社フォーバル)

 国内大手EC会社にてマーケティングを担当。その後、大手M&Aアドバイザリー会社にて上場企業の経営戦略立案やM&Aアドバイザーとして数多くのM&Aを実行支援。2016年に(株)フォーバルの事業承継支援事業立ち上げに参画。自動車アフターマーケットでの後継者問題の解決、補助金支援に力を入れている。

株式会社フォーバル https://forval-shoukei.jp/