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[連載]事例と解説ー整備業のための補助金活用講座

第2回 事例:EV・ASV 対応機器を導入

  • #その他

2025/07/23

 今回は、自動車整備業を営むA社が補助金を活用した次の一手の事例をご紹介します。

 A社は関西エリアで自動車整備・鈑金塗装・販売を手がけ、事故整備を中心に法人顧客から高い評価を得てきました。若い整備士を多数抱え、技術力と設備力を武器に、整備・鈑金塗装・販売をワンストップで提供し、地元企業やディーラーとの厚い信頼関係を築いてきました。

 しかし、コロナ禍や原油価格高騰が直撃し、法人顧客の営業車稼働減や部品調達難が重なり、売り上げ・利益は大幅に落ち込んでしまいました。加えて、従来主力であるガソリン車や溶剤系塗料での塗装の市場は縮小傾向にあり、事業環境は厳しさを増しています。一方、環境意識の高まりや電気自動車(EV)、先進安全自動車(ASV)といった次世代自動車の普及が想定されているため、これらに対応できる整備工場への転換が必要だと考えていました。

 A社では、自社の強みである電装系の整備技術の高さを活かし、次の一手として「次世代自動車対応型整備事業」への転換を決断しました。

 具体的には、EV・ASVに対応した設備を導入し、近隣の競合との差別化を図ります。整備部門では、高電圧バッテリーの整備や電装関連の点検が行える専用設備を整備し、スキャンツールやアライメントリフト、エーミング機器、急速充電スタンドなどを導入します。塗装部門では、これまで主流だった有機溶剤系塗料から、環境負荷の少ない水性塗料に全面転換。欧州車や次世代車で主流となっている水性塗装に対応することで、取引先の損保会社やディーラーの要望にも応えるようになります。

 また、法人顧客だけでなく、個人のEVユーザーや外国車オーナーにも積極的にアプローチし、新規顧客の獲得を目指します。既存顧客には車販やメンテナンスパックのクロスセルを強化し、顧客単価とリピート率向上を狙います。営業面では、クラウド型の顧客管理システムを導入し、顧客データを活用した提案営業やDM配信を自動化。事務作業の効率化と顧客満足度の向上を図ります。

 今回の取り組みにかかる投資額は約 7千万円。設備導入と同時に技術者の増員・育成にも力を入れ、3年以内に次世代自動車整備事業の売上構成比を10%以上に引き上げる計画です。

 導入する設備は、地域で普及が進むであろうEVユーザーにとっても利便性の高いものとなりそうです。

 急速充電スタンドの設置は整備以外の来店動機となり、水性塗装対応はSDGs意識の高い企業や個人顧客にも響き、他社との差別化を図れると考えています。

 また、従業員育成にも注力し、メーカーや損保会社の講習に加え、今回の設備導入に伴う技術研修を実施。既存社員のスキルアップはもちろん、新規採用の若手育成にも力を入れ、人材の長期定着を目指します。

 環境対応と利益体質の強化を同時に実現しようとするA社の挑戦は、変革期にある自動車整備業界にとって大いに参考になるのではないでしょうか。

 次回も業界の補助金活用事例をお届けします。


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筆者プロフィール

著者 山田健一氏

山田健一(株式会社フォーバル)

 国内大手EC会社にてマーケティングを担当。その後、大手M&Aアドバイザリー会社にて上場企業の経営戦略立案やM&Aアドバイザーとして数多くのM&Aを実行支援。2016年に(株)フォーバルの事業承継支援事業立ち上げに参画。自動車アフターマーケットでの後継者問題の解決、補助金支援に力を入れている。

株式会社フォーバル https://forval-shoukei.jp/