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下請法が1月から「取適法」に改正
ディーラーなどからの修理委託が対象取引に該当し、 今後の車体整備業界の商慣習に影響を与える恐れ
2025/12/03
発注者・受注者の対等な関係に基づき、事業者間における価格転嫁及び取引の適正化を図るための「下請代金支払遅延等防止法及び下請中小企業振興法の一部を改正する法律」が今年5月16日に成立、同23日に公布された。
この改正により、法律名が「下請代金支払遅延等防止法(下請法)」から「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(取適法)」に改められ、2026年1月1日から施行される。
改正の背景には、近年の急激な労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を受け、事業者においては物価上昇を上回る賃上げ実現のための原資の確保が求められている。特に中小企業は、構造的な価格転嫁を図っていく必要があり、協議に応じない一方的な代金決定行為など価格転嫁を阻害する従来の商慣習を適正化し、価格転嫁をさらに進めていくことを目的に法改正が行われた。
主な改正内容は次の通り。
用語の見直し
「下請」という用語は、発注者と受注者が対等な関係ではないという語感を与えるとの指摘があり、そのため親事業者は「委託事業者」、下請事業者は「中小受託事業者」、下請代金は「製造委託等代金」に改められた。
適用基準への従業員基準の追加
従来、資本金のみで対象事業者を分けていたが、実質的に事業規模は大きいものの当初の資本金が少額である事業者や、減資をすることで同法の対象とならない例があった。また一部では、同法の適用を逃れるため、受注者に増資を求める発注者も存在していた。そのため、適用基準として従業員数の基準が新たに設けられた(図1参照)。
図1 委託事業者、中小受託事業者の定義
対象取引への特定運送委託の追加
発荷主から元請運送事業者への委託は従来、対象外だった。しかし昨今、立場の弱い物流事業者が荷役や荷待ちを無償で行うなど、荷主・物流事業者間の問題が顕在化していることから、発荷主が運送事業者に対して物品の運送を委託する取引を新たに「特定運送委託」として追加し、機動的に対応できるようにした。
協議に応じない一方的な代金決定の禁止など禁止事項の追加
コストが上昇している中で、協議することなく価格を据え置いたり、コスト上昇に見合わない価格を一方的に決めたりするなど、買いたたきとは異なる価格転嫁の推進を阻害する課題が散見されている。そのため、対等な価格交渉の場を確保する観点から、中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず協議に応じなかったり、委託事業者が充分な説明を行わなかったりするなど、一方的に代金を決定して、中小受託事業者の利益を不当に害する行為を禁止する規定が新設された(図2参照)。
また支払い方法として、電子記録債権やファクタリングなどを含む手形払いの禁止も追加された。
面的執行の強化
現行法では、事業所管省庁には調査権限のみが与えられていたが、公正取引委員会、中小企業庁、事業所管省庁の連携した執行をより拡充していくため、事業所管省庁の主務大臣に指導・助言、報復措置の禁止の申告先としての権限が付与された。
つまり、自動車整備ならびに車体整備事業者においては、同法における相談窓口として事業所管省庁である国土交通省が追加された。
図2 委託事業者の義務、禁止事項、調査、勧告等
取適法の適用対象となる取引は、「製造委託」、「修理委託」、「情報成果物作成委託」、「役務提供委託」、そして改正により追加された「特定運送委託」の5つに大別される。
同法のガイドブックにおいて、修理委託の類型1の事例として「自動車販売業が、請け負った自動車の修理作業を修理業者に委託する場合」が挙げられ、まさにディーラーや大手中古車販売店などから車体整備事業者が鈑金塗装作業を請け負うケースが想定されている。
さらに、特定運送委託の類型3の事例として「自動車修理業者が、自動車販売業者から修理を請け負い修理を完了させた自動車を引き渡す際にその自動車の運送を他の事業者に委託する場合」も規制対象に挙げられている。
この通り、同法の改正は車体整備業界においても少なくない影響が予想される。特に改正の大きなポイントは、禁止事項において協議に応じない一方的な代金決定が追加された点だろう。
業界の商慣習として、修理委託に伴うレス率の相場は平均約30%で推移するが、政府が求める賃上げの原資を得るために労務費などを価格転嫁する協議は行われているだろうか。さらに言えば、代車の購入またはリース契約、クレームによる修理のやり直し、修理費の支払い遅延または減額など、これまでの商慣習に問題はなかったのか。
取適法の施行を前に、すでに取引する委託事業者から条件の見直しなどの通達や協議の場が設けられたところもあるだろうが、車体整備事業者としては今一度、同法が適用となる委託事業者の洗い出しと、同法の禁止事項に抵触する恐れがある事案がないか精査してほしい。そして、必要とあれば委託事業者との協議に臨む準備を進めてもらいたい。