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【解説】日産系ディーラーへの是正勧告 「無償輸送」という商慣習の終焉と取引適正化への道

2026/02/16

読売新聞の報道によると、公正取引委員会は、日産自動車系の販売会社「日産東京販売」に対し、下請法(現・中小受託取引適正化法)違反で近く是正勧告を出す方針を固めたようだ。同社は、車体整備業者への委託に際し、車両の引き取り・納車にかかる輸送費用を負担させ、事実上の「無償労働」を強いていた疑いがある。

しかし、この問題を単なる「大手の優越的地位の乱用」と切り捨てるだけでは、業界の構造を見誤ることになる。

「差別化」という名の過去の遺物

今回、公取委が問題視した「無償の引き取り・納車」は、車体整備業界において長年、暗黙の了解として存在してきた。 振り返れば1990年代から2000年代、熾烈な受注競争の中で、下請け企業側が「自発的な営業努力」としてこの無償サービスを提示してきた経緯がある。当時は、これが他社との差別化を図り、仕事を獲得するための「武器」でもあった。ディーラー側からすれば、良かれと思って提示されたサービスを、長年継続して受け続けてきたに過ぎないという言い分もあるだろうと考えられる(長年の間に互いに担当者が変わり、経緯まで認識していないケースも相当数あると見られる)。

「取適法」が求める新たな秩序

だが、時代は変わった。2024年11月に施行された**「中小受託取引適正化法(通称:取適法)」**、そして物流の「2024年問題」を経て、労働力や輸送コストに対する社会の視線は劇的に厳格化している。

取適法では、発注側による「不当な経済上の利益の提供要請」を厳しく制限している。かつては「営業努力」であったものが、今や「適正な対価を支払わない不当な押し付け」とみなされる時代となった。人手不足が深刻化し、整備士の工賃や燃料費が高騰する中で、下請け側が「かつての約束」を維持し続けることは、もはや経営の存続を危うくする死活問題となりつつある。

業界全体に求められる「正常化」

日産東京販売に限らず、同様の慣行は多くのメーカー系ディーラーや整備工場に残っていると見られる。今回の勧告は、業界全体に対する「最後通告」とも言える。

今後の業界に求められるのは、以下の三点に集約されるだろう。

  1. 付帯業務の明文化: 輸送や代車提供など、メインの修理以外にかかるコストを契約書に明記し、別立ての対価として認めること。
  2. 価格転嫁の容認: 「物価高・人件費高」を反映した価格改定を、発注側が真摯に受け入れる土壌を作ること。
  3. 取引関係の再定義: 過去の商慣習に依存せず、新法(取適法)に照らし合わせたコンプライアンスの徹底を図ること。

「昔からの付き合いだから」「向こうが勝手にやっていることだから」という主張では、理解を得ることが難しい。今回の事案を機に、業界全体が「適正な取引」へと一歩踏み出すことが、ひいては日本の自動車産業の裾野を守ることにも繋がるはずだ。