JOURNAL 

シネマエンドレス「ブラックドッグ」

  • #一般向け

2025/09/26

男と犬。野良同士の奇妙な絆が生むチャイナ・ノワール

 2008年、北京オリンピック開催間近の中国。友人を誤って死なせた青年ランは、刑期を終えゴビ砂漠の端にある故郷に戻って来る。実家はもぬけの殻で、酒に溺れた父はさびれた動物園に住み込みで働いているという。そして、被害者の親族は「絶対に許さない」と執拗に付きまとってくるのだった。区画整理で廃墟になりつつある街では、捨てられた犬たちが野生化して群れとなっていた。ランを気に掛ける警官から捕獲隊に誘われるが、ひょんなことから一匹で行動している黒い犬と出会う。決して捕まらず賞金を懸けられた黒い犬とランの間に、いつしか奇妙な友情が芽生えるが、その絆はランを窮地に追いやっていく。

 罪を背負った男の贖罪と人生の再生を、黒い犬との絆を通して描く、深い感動と余韻をもたらすヒューマンドラマは、第77回カンヌ国際映画祭にて「ある視点部門」でグランプリを受賞するなど、世界各国の映画祭で15以上受賞をするなど大きな評判を呼んでいる。


©2024 The Seventh Art Pictures (Shanghai) Co., Ltd. All Rights

サブカルおじさんの推しどころ

 犬の映画を本コーナーで採り上げない理由がない。それがカンヌ受賞作であればなおのことである。罪を犯した男と、人間から逃げ続ける野犬との奇妙な絆の作品……どこか北野武作品にも通じるストーリーであると同時に、ゴビ砂漠の色味の薄い荒涼とした風景、区画整理のために取り壊しが始まった雑多で埃っぽい街並みなども美しさを感じる映像美となって観客に迫るのも同様だろう。物語の主役である黒犬の精巧なCGかと疑ってしまうほどの演技も大注目。どうしてあんなに喜怒哀楽の演技ができるのだろうか。本作はカンヌ国際映画祭で優秀な演技を披露した犬に贈られる「パルム・ドッグ審査員賞」も受賞している。感情表現の豊かさという意味では、何にも反応を示さない22時過ぎの編集部の人間は大いに見習うべきだろう。今いる場所で未来を感じることができず、行き場のなくなった人たちに勇気を与える1本。野犬狩りでのシーンも犬への直接的暴力シーンは一切ないので安心して観れる。


©2024 The Seventh Art Pictures (Shanghai) Co., Ltd. All Rights

監督:グァン・フー/配給:クロックワークス/公開中

担当記者

青山 竜(あおやま りゅう)

東京編集課所属。映画・音楽・芸術あらゆる文化に中途半端に手を出し、ついたあだ名は「サブカルくそおじさん」。

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