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分かった気になる取適法 ”せやったんかぁ!”
【2026年1月施行】ついに始まった「取適法」。自動車整備・車体整備業界が直面する“新ルール”の正体。2026年1月1日、自動車整備業界の商慣習を根底から変える新法「中小受託取引適正化法(取適法)」がついに施行されました。 これまでの下請法では守り切れなかった「価格交渉のプロセス」や「車両回送(特定運送委託)」に明確な光が当てられ、整備工場と委託事業者(ディーラー・損保等)の関係は新しいステージに突入しました。今、現場で何が起きているのか、最新の対策をまとめます。
2026/05/12
法律の題名と用語の変更
「上下関係」から「対等なパートナーシップ」への意識改革
法律の対象範囲が広がり、「手続き(プロセス)」の不正が即、法違反とみなされるようになり、下請法→取適法へ名称が変わりました。
「事実認定」から「プロセス重視」へ
結局何が違うのでしょうか…
従来の下請法時代は事実認定主義
お役所が違反を立証する方式
- 不当に低い価格を強要した事実
- 理由もなく報酬を減額した事実
取適法はプロセス重視
意思決定の過程において双方が合意したかが重要
委託事業者が手続きの正当性を証明する方式に
- 価格決定に充分な話し合いがあったか
- 算定根拠は妥当であったか
義務
内容
発注内容等の明示
中小受託事業者に発注内容(給付の内容、代金額、支払期日、支払方法)等を書面又は電子メールなどで明示する義務。電子メールなどによる明示は中小受託事業者の承諾がなくても可能(法改正で追加)。
取引記録の作成・保存
中小受託事業者との取引完了後、取引に関する記録を書類又は電磁的記録として作成して2年間保存する義務。
支払期日の設定
中小受託事業者へ発注した物品等の受領日から60日以内のできる限り短い期間内に支払期日を設定する義務。
遅延利息の支払い
支払期日までに代金を支払わなかった場合は、物品等の受領日から60日を経過した日から実際に支払う日までの日数に応じ、中小受託事業者に年率14.6%の遅延利息を支払う義務。正当な理由なく支払代金を減額した場合は、減額した日又は物品等の受領日から60日を経過した日のいずれか遅い日から減額分を支払う日までの期間の遅延利息を支払う義務(法改正で追加)。
委託事業者(仕事をお願いする側)の11の禁止行為
委託事業者側から次のような行為を受けたときに、これは違法なんだなと気付けることが大事です。
- 受領拒否
発注した物品や成果物の受領を拒否する行為。発注の取消しや納期の延長などを理由に納品物を受け取らない場合も含まれる。
- 製造委託等代金の支払遅延
発注した物品等の受領日から60日以内で定めた支払期日までに代金を支払わない行為。また、「手形の交付」や「電子記録債権や一括決済方式のうち、中小受託事業者が支払期日までに代金相当額の金銭と引き換え困難なもの」が禁止される(法改正で追加)。
- 製造委託等代金の減額
発注時に決定した代金を発注後に減額する行為。協賛金の徴収、原材料価格の下落など、名目や方法、金額にかかわらず、あらゆる減額行為が禁止される。
また、中小受託事業者との合意の有無にかかわらず、委託事業者が、製造委託等代金を中小受託事業者の銀行口座へ振り込む際の手数料を中小受託事業者に負担させ、製造委託等代金から差し引いて支払うことも減額に当たる。
- 返品
発注した物品等を受領後に返品する行為。ただし、不良品などの場合は受領後6か月以内であれば返品可能となる。
- 買いたたき
発注する物品・役務等に通常支払われる対価(同種又は類似品等の市価)に比べて著しく低い代金を不当に設定する行為。
- 購入・利用の強制
委託事業者が指定する製品、原材料等の購入や保険、リース等の利用を強制し、その対価を負担させる行為。
- 報復措置
中小受託事業者が、委託事業者の違反行為を公正取引委員会、中小企業庁又は事業所管省庁に通報したことを理由に、取引停止・数量の削減などの不利益に取扱う行為。新たに事業所管省庁への通報も可能になった(法改正で追加)。
- 有償支給原材料等の対価の早期決済
委託事業者が有償で支給する原材料等を用いて中小受託事業者が物品の製造等を行っている場合に、製造した物品代金の支払日よりも早く、原材料等の代金を支払わせる行為。
- 不当な経済上の利益の提供要請
委託事業者の利益のために、中小受託事業者に協賛金や従業員派遣の要請などの金銭や役務、その他の経済上の利益を不当に提供させる行為。
- 不当な給付内容の変更・やり直し
発注の取消しや変更、物品等の受領後のやり直しや追加作業などを行わせる場合に、委託事業者がその費用を負担しない行為。
- 協議に応じない一方的な代金決定
中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりして、一方的に代金を決定する行為(法改正で追加)。

車体整備業界は注視されている
昨年末、取適法になる直前にディーラーに集中調査が入ったのは法改正と無関係ではありません。
- 金額が明示されないままの発注
- 納車引き取り費用の請求
などで指導が入りました。
車体整備事業者は特に注視されている分野と言えます。
参考:(令和7年12月22日)自動車ディーラー及び車体整備事業者間の取引における下請法違反被疑事件の集中調査の結果について | 公正取引委員会
下請法 → 取適法 法律の建付けが変わる


項目 | 旧:下請法(事実認定主義) | 新:取適法(プロセス重視) |
お役所の目線 | 「結果」が悪いかどうか | 「決め方」がフェアかどうか |
違反の証拠 | 報酬が低いという「事実」 | 協議を拒否した、説明がなかったという「証拠」 |
立証責任 | お役所が違反を見つける | 委託事業者が「正当性」を証明しないといけない |
実務に置き換えた場合
代金の支払い遅延

代金の減額(あらゆる減額行為の禁止)
委託金の明示義務(保険未協定で値段が分からないはNG)

取適法移行前の段階で既に大規模に指導が入っている。当然、取適法でも引き続き問題になります。
損保と未協定などを理由に、中小受託事業者との協議が不十分なまま取引を進めると、買い叩き、不当な利益提供要請に該当するおそれがあります。
自動車ディーラー及び車体整備事業者間の取引における下請法違反被疑事件の集中調査の結果について(概要)
2025年末、ディーラーが公取委に目を付けられて怒られています。
書面の不交付以外にも支払い遅延、買い叩き、不当な利益提供要請も指摘されました。
特定運送委託とは…
新しい概念、特定運送委託
【類型3】
物品の修理を請け負っている事業者が、その物品の修理の発注者(当該発注者が指定する者を含む。)に対する運送の全部又は一部を他の事業者に委託する場合。

「下請法」は「取適法」へ ~中小受託取引適正化法(取適法)関係 | 公正取引委員会~
例として『自動車修理業車が修理を請け負い完成させた自動車を引き渡す場合に、その自動車の運送を運送事業者に委託する場合。』とあります。
つまり、修理委託だけでなく、納車引き取りも特定運送委託として、取適法の対象として取り扱われることに…
取適法によって「運送の適正な対価」が求められるようになりましたが、ここで整備工場が陥りやすい罠があります。それが「貨物自動車運送事業法」です。
多くの整備工場は、緑ナンバー(運送業許可)を持っていません。この状態で、見積書や請求書にストレートに「運送費」「配送代」といった項目を記載して報酬を受け取ると、運送業の無許可営業(白ナンバーでの有償運送)として、元請け側から逆に指摘を受ける(あるいは当局から罰せられる)恐れがあります。
「タダで運ばせる(取適法違反)」ことも、「違法な有償運送をさせる(貨物法違反)」ことも、どちらも委託事業者側のリスクであることを理解してもらう必要があります。
納車引取の交渉を無視したり、強要すると…
不当な利益提供要請の摘発事例
徳島トヨタ自動車に勧告、公取委 下請法違反で(共同通信) - Yahoo!ニュース
令和8年3月26日)徳島トヨタ自動車株式会社に対する勧告について | 公正取引委員会
最近では徳島トヨタ自動車が無償の納車引き取りで勧告を受けました。
(令和8年2月20日)日産東京販売株式会社に対する勧告等について | 公正取引委員会
日産東京販売も車両や部品の無償運搬で指摘を受けています。
中小受託事業者の協議に応じない場合
ディーラーオプション架装依頼における買い叩き
あまりに神経質な品質確認は受け取り拒否のおそれ
報復措置の禁止
委託事業者はどうすべきだったか?

充分な話し合いの機会を持ち、中小受託事業者も納得したという取引の記録を残しておくことが重要です。だから、取引記録の作成と2年間の保存義務があるのです。
それが、たとえ納車引取を無料とする依頼であっても中小受託事業者が納得しており、その記録が残っていれば問題ありません。ただし、納得があればOKなのは主に『価格(決め方)』の話であって、手数料引きや支払い遅延などは納得していても法律違反になります。
途中で紹介した通り、
- 受領日から60日以内の支払い
- 減額行為
は納得の有無を問わず禁止されています。
委託事業者の義務(すべきこと) | 受託事業者が「取っておくべきもの」 |
1. 発注内容の明示義務 発注時に「給付内容」「代金額」「支払期日」「支払方法」を書面やメール等で即座に伝える義務。 | 発注時のメール・注文書・SNSの履歴 「いくらで、いつまでに、どんな作業を」頼まれたかの初期エビデンスです。口頭なら必ずメール等で再確認を送っておきましょう。 |
2. 支払期日の設定・遵守義務 受領(作業完了)から60日以内に支払期日を定め、その日までに支払う義務。 | 「納品日(作業完了日)」の証明 車を返却した日や、作業完了報告をした記録です。ここから「60日のカウントダウン」が始まります。 |
3. 価格協議への誠実な対応義務(新設) 受託側からの価格交渉に対し、無視や拒否をせず、理由を説明して協議する義務。 | 「価格交渉の申し入れ」の記録 「材料費高騰につき相談したい」と伝えたメールや、それに対する相手の「ゼロ回答」や「無視」の証拠が、不当な代金決定の強力な証拠になります。 |
4. 取引記録の作成・2年間保存義務 取引内容や支払に関する記録を作成し、2年間保存する義務。 | 自社の作業日報・請求書の控え 相手が記録を改ざんしたり「そんな指示は出していない」と言い張ったりした際に対抗するための、自社の一次資料です。 |
まとめ

1. 「後出しジャンケン」の完全封印
「保険が協定できるまで値段は言えん」というディーラーの常套句を、「算定根拠(レバレート等)を示さないなら明示義務違反やで」という形で封じています。
2. 「サービス納車」の有料化
「昔からの付き合い」という言葉で押し付けられてきた無償の納車引取を、「特定運送委託」という新しい法概念で「別の仕事」として定義し直しています。
3. 「プロセスの記録」がすべて
「協議を無視した」「一方的に決めた」という証拠(メール等)があれば、それだけで委託事業者はアウトになる可能性があります。
4. 納得していてもダメな「絶対禁止事項」
振込手数料を引くなどの「減額」や、受領から60日を超える「支払い遅延」は、たとえ「ええよ」と返事していても法律そのもので禁止されました。
取適法への移行は、単なる事務作業の増加ではありません。提供する高い技術に対し、「適正な対価を、適正なプロセスで受け取る」ための大きなチャンスです。
「うちは昔からの付き合いだから…」と曖昧にせず、新しいルールを正しく理解し、堂々と価格交渉ができる体制を整えていきましょう。