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<小説>鼓動 もう一つのスクープ(第16話)
2021/11/26
BSRweb小説企画第一弾
業界記者の視点で描く、自動車業界を題材にしたオリジナル小説。
(第1話へのリンク)
※この小説はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
第16話 儲かるカラクリ
ある程度、名前が業界で知れ渡る様になると一般週刊誌から時々取材要請が入る。テーマは読者が興味のある題材で特に中古車の価格が安い地域で、他地域と比較してどの程度『お得』なのかの実利的なものが多い。しかし中古車は『一物一価』といわれるものの、同一車種と見た目では同じようでも実際は事故歴や走行距離のメーター巻き戻しの不正な車は極端に一見割安な価格に。素人目には全く見抜くことが困難なため騙されるケースが横行する。このため中古車を購入する場合、不正防止のマークがある比較的中規模以上の中古車販売店を選ぶことが大切になる。
また、中古車展示場でよく目にする新古車は買い得だ。これは自動車メーカーのインセンティブ(販売奨励金)政策が関係している。ユーザーの新車小売り標準価格が軽自動車クラスで百万円、登録車二百万円とすると、粗利益率は軽で5~6%、登録車8~9%と低水準なため、これだけの収益源では経営が成り立ちにくい。そこでメーカーでは過剰な販売台数を必達台数に設定、達成水準に応じた累進性の高いインセンティブを期末に支給することでディーラーの経営安定に繋げている。この施策は一見良策と見られるが、実は販売テリトリーを無視した越境販売や自社登録の温床となっている。
自社登録とは実際にエンドユーザーに売った車ではなく、自社の住所に登録し売ったように見せかける事。まだ道路走行していない新車が中古車として売られるためユーザーにとっては買い得となるわけだ。
一方、新車販売では大幅に値引きしたお買い得車が決算の期末に現れる。決算期間内に販売実績を伸ばす常套手段だ。新型車に切り替わる端境期に旧型車を在庫一掃のために大幅値引きすることも常識となっている。また新車販売時、登録費用などを上乗せした見せかけの価格表示を大幅値引きしたように見せかけるセールステクニックも常態化。さらに、高い車検料金体系や不透明な料金がユーザー間に不信感が広がり、ディーラーのサービス工場に依頼せずに顧客自身が直接、陸運事務所(現在の運輸支局)に持ち込む所謂ユーザー車検が流行した。ユーザー車検はしばらく人気を呼んだものの、車検手続きの煩雑さや事前予約制に切り替わったことで次第にじり貧となっていく。自動車整備事業者の車検獲得活動の強化やディーラーの新車販売にセットで車検顧客の囲い込みを重視した結果、ユーザーの車検受験の意欲が薄れたこともユーザー車検減退の原因に。
「新車が一台も取れなければ車検でも取ってこい」とセールスマンへの圧力も強まり、その結果、車検分野の売上げ比がアップしディーラーの経営安定化に寄与する皮肉な恰好ともなった。
一連の巧妙な営業手法を週刊誌ピープルに連載コラムで順次、明らかにしたが大した話題に上らずに自然消滅となってしまった。
<筆者紹介>
中野駒
法政大学卒 自動車業界紙記者を経て、自動車流通専門のフリー記者兼アナリスト。業界歴併せて40年。
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